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14:小さなお客さんと優雅な朝ご飯

「今日の朝食はロールパン2個とコーヒー。それからデザートはこのベビーみかんだ」


 オレはテーブルの上に、次々と朝食を並べていく。

 昨夜の騒音に注意しにやってきた、宿の子供のメル。

 そのメルが空腹を訴えたため、一緒に朝食をとることになったのだ。

 オレの借りた部屋には、小さなテーブルと椅子が備え付けてある。

 椅子に座るのは、オレと使い魔のヒルデくん、そしてお客さんのメルだ。

 ペン太はテーブルの下で食べるので椅子はいらない。


「いただきます!」


 食前の挨拶をするオレを、みんなが怪訝な顔で見つめる。


「昨日も思いましたが……おかしな挨拶ですね?」

「変な挨拶!!」

「ガァァァ!!」


 前世の習慣だから仕方がないのだが、この異世界では違うらしい。


「それでは、今日の糧を女神さまに感謝して……」


 ヒルデくんとメルが、女神への祈りを捧げ始める。

 見ると、ペン太までもが目を閉じて祈っていた。

 ていうかお前ら、この世界の常識に詳しすぎだろ!

 どうやらこちらでは、食前の祈りが一般的なようだ。


「コーヒーはそのまま飲むと苦いから、ミルクと砂糖を入れるのがおすすめだよ」


 ガチャで出たコーヒーには、砂糖とミルクが付属していた。

 子供のメルにはブラックは早すぎる。


「これ……本当にパン?」


 メルが困惑した表情でロールパンを見つめる。


「ええ。パンは普通こうなのではないかな?」


 ロールパンといえば、日本でも代表的なパンではないだろうか?

 朝食にはオレ的には食パンだが、ロールパンもなかなか悪くはないチョイスだ。


 だがこの宿で夕食に出されたパンは、どうだっただろうか?

 もしかしてあの硬いパンが、この国では常識なのだろうか?


「パンは普通もっと石みたいに硬いんだよ?」


 そうですか――。


 どうやらあの石のように硬いパンは、常識だったようだ。

 恐る恐る、メルがロールパンを口に運んだ。


「――ん!?」


 一口かじった瞬間、メルは目を丸くした。


「このパン、ふわふわで柔らかい! それにすっごく美味しい!」

「姫ぇぇ~! このパン最高ですぅ~!」

「ガァァ! ガァァ!」


 ロールパンはみんな大絶賛だ。


「この黒い飲み物はなに?」


 次にメルが注目したのはコーヒーだった。


「さっきも言ったが、それにはミルクと砂糖を入れてくれ」

「砂糖!? 砂糖は高いから、お母さんが舐めるなって言ってたよ!」


 ヒルデくんも頷いている。

 本当に高価なものらしい。

 ってかヒルデくん、使い魔のくせになんでそんな常識を知ってるんだ?


「その砂糖は君のだから、好きにしていいよ。でも、入れないと苦くて飲めないかもしれないよ?」


 メルは首をかしげながらも、砂糖をコーヒーにさらさらと入れた。


「このミルク、めちゃくちゃ濃くて甘~い!!」


 メルはミルクの容器を開けて、そのまま味を確かめている。

 子供ってクリープとかミルクを舐めたがるよな。

 ……おい、ヒルデくんとペン太、真似して舐めようとするな。


「それもコーヒーに入れて、スプーンで混ぜるんだ」


 メルがプラスチックスプーンで混ぜ始めると、つられるようにヒルデくんも混ぜだした。

 ペン太にいたっては、くちばしで器用に混ぜている。

 翼でスプーンを掴んではいるが、混ぜるまでは無理だったようだ。

 ってか、どうやって掴んでんだあの翼?


 メルが恐る恐る、コーヒーに口をつけた。


「この飲み物、甘くて美味しぃぃぃぃ!!」


 ごくごくと勢いよく飲み始めるメル。

 口の中、火傷するぞ。


「本当ですね! ボクこの飲み物好きです!」

「ガァァァ!!」


 どうやらコーヒーも大好評のようだ。

 みんなが勢いよく飲むなか、オレは優雅にブラックをちょびちょびと味わう。

 やっぱりコーヒーはブラックに限る。

 昨夜のストレスが、この苦味と香りで消えていくようだ。


「最後はデザートのベビーみかんだ。こうして皮を剥いて食べるんだよ」


 オレは実際に剥いて実演してみせる。

 皮を剥いた瞬間、ふんわりと柑橘系の甘酸っぱい香りが漂った。

 この匂いだけで食欲が刺激され、口の中に唾液が溢れてくる。


「――美味い」


 一粒噛みしめると、果汁がじゅわっと溢れて幸せな気持ちになる。


「この果物も甘ぁぁぁぁい!!」

「とっても美味しいです、姫ぇぇ!!」

「ガァァァ! ガァァァ!」


 みんなが大興奮でみかんを食べていると、部屋の外から声が響いた。


「メルー! いつまでお客さんと話し込んでるの!? 早く仕事に戻らないとダメよ!」


 宿の娘、ジゼルの声だ。

 ジゼルはメルの姉なのだろう。

 なかなか戻らない妹を、迎えに来たに違いない。


「朝ご飯ありがとう! メル、仕事あるから行くね!」


 メルは飛ぶように部屋を駆けて行った。

 さて、オレも冒険者ギルドへと急行しなければ――。

 

 早朝の2の鐘が鳴る前に、薬草採取組の子供たちに合流しなくてはならないのだ。

 ちなみに1の鐘は日の出とともに鳴り、その後2時間ごとに鐘は時間を報せるために鳴らされる。


 ご覧いただきありがとうございます。

 異世界の「石のようなパン」に比べたら、日本のフカフカなロールパンや甘いコーヒーは、まさにチート級の美味しさですね。

 小さなメルたちとの賑やかな朝食を終え、次からはついに冒険者としての初仕事に向かいます。

 面白いと思ってくださったら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

 次回もお楽しみに!


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