11:宿の夕食と吟遊詩人
食事のために1階へ向かうと、「ガハハ」と陽気な笑い声が響いていた。
旅人や冒険者たちの声だ。
薄暗い通路を抜けた先は、まばゆい光に満ちていた。
天井の魔導具のランタンが、周囲を照らしている。
その炎は丸く、不思議な感じがした。
スープを器のままあおる者。
硬そうなパンを豪快にかみちぎる者。
エールをグビグビと喉に流し込んでいる者。
ペルー村の者だろうか?
中には猫の獣人の姿もあった。
その喧騒に馴染めないのか、隅の方で上品にスープをすすり、ちょびちょびと酒を飲む者もいる。
そこには、様々な様子の男たちがいた。
まだ幼い給仕のジゼルが、ひっきりなしに木のジョッキを運んでいた。
女将さんは厨房で大鍋を混ぜながら、食堂の様子に目を配っている。
食堂の隅では、吟遊詩人がリュートを爪弾きながら歌っていた。
『疾風のモニカは、馬より早く駆け抜け、草原を――』
例の二つ名持ちの冒険者、モニカの歌らしい。
詩人が歌にするくらいだから、ここらでは相当有名なんだろう。
「あんたらも食事かい? 今日は一食大銅貨1枚さね」
厨房の女将さんがオレたちに気づき、声をかけてきた。
「それじゃあ、使い魔の分も合わせて3食お願いします」
大銅貨3枚を差し出す。
「へぇ。その使い魔、人間の食事もいけるのかい?」
「ええ……まあ」
普通の使い魔は人間のご飯を食べないのかもしれない。
だがペン太は魔導生命体なので、基本なんでも食べるのだ。
「おい、そこの樽際の席! ちょっと詰めてやりな!」
女将さんがお玉を向けて一喝すると、
満席だった長椅子の隅に、スッと2人分のスペースができた。
「あの席で待ってな! 今運ぶからね!」
女将さんは手際よく器にスープをよそい始めた。
「姫……こちらに」
ヒルデくんが男たちの隣に座り、その奥の席をオレに勧めてきた。
自らが防波堤になるつもりだろうか。
こんな気遣いができるなんて、ちょっと驚きだ。
ペン太は椅子へ飛び移り、そこからさらに跳躍してテーブルの上に着地した。
オレも勧められた席にそのまま腰を下ろす。
「姫だって……どこのご令嬢だよ?」
「ここは嬢ちゃんたちの来るような場所じゃねえと思うがな?」
さっそく男たちが声をかけてくる。
「オレ、これでも孤児なんで……姫はただのあだ名ですよ」
「へえ……孤児ねぇ? 確かに格好は地味だが」
男たちはニヤニヤしているが、どこか胡散臭そうだ。
まあ、本当に地味に見えるなら目立ちたくないオレとしては好都合だが。
「お待たせしました! 野菜と肉のスープにパン、それから果実水だよ!」
しばらくして、ジゼルが夕食を運んできた。
肉と野菜がゴロゴロ入ったとろみのあるスープ、石のようなパン、果実水だ。
「いただきます!!」
オレが食前の挨拶をすると、ヒルデくんとペン太が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
ちらちらとオレを横目で見ている冒険者もいる。
もしかして、オレの挨拶が気になったのだろうか?
「いただきます」は前世の食前の挨拶だ。
この異世界では違うのかもしれない。
いや、そんなことより今は飯だ!
オレは気を取り直してスプーンを持った。
(……まるで泥だな)
スープの見た目は完全に泥だった。
匂いは悪くないので、不味くはないはず……。
恐る恐る口に運ぶ。
濃厚な出汁にハーブの香り、強めの塩気と山椒のようなピリッとした辛味。
喉がカッと熱くなる感覚だ。
その時――どこかで聞き覚えのあるフレーズが耳に飛び込んできた。
『幼女は綺麗な顔の騎士と……太った鳥の使い魔を連れていた』
え?
もしかして、オレたちのこと歌ってる……?
『幼女のその腕は、大きな岩となり……冒険者を投げ飛ばす――』
歌を聴いた男たちの視線が、一斉にオレに集まる。
『その二つ名は――《巨腕》。巨腕のヨッシーの冒険は、ここに始まりを告げた――』
「ぶぅぅぅぅぅーーっ!!」
「姫ぇ~! 汚いですっ!?」
「ガァァァ! ガァァァ!」
豪快にスープを噴き出したオレに、ヒルデくんとペン太の非難が飛ぶ。
男たちはそれを見て「ガハハ!」と大爆笑した。
どうやらあの吟遊詩人、ギルドでの一件を見ていたらしい。
壁に耳あり障子に目ありとは、まさにこのことだ。
気を取り直して、今度はパンに取り掛かる。
「むぐむぐ……すごい噛み応え」
ゴロッとした肉はかなり硬く、幼女の顎では噛み切るだけで一苦労だ。
「むぎッ! かたっ……」
パンにいたっては見た目通り、まるで石。
ペン太はキツツキみたいに突っついて食べているが、オレには真似できない。
周りの男たちを真似て、スープに浸してみる。
「むぐむぐ……あ、悪くない」
水分を吸って柔らかくなったパンの酸味。
肉の濃厚な脂。
ピリ辛の塩気。
それらが口の中で完璧に調和し、一気に「いける味」になった。
「美味しいですね、姫!」
「ガァァァ! ガァァァ!」
ヒルデくんは満面の笑みで、ペン太の鳴き声も機嫌が良さそうだ。
ただ、現代の食事に慣れたオレとしては少し物足りない。
おそらくそのスープには、味の深みや旨味が、足りなかったのだろう。
(……前世の味が恋しい。無性にカレーが食べたい)
食後は部屋に戻って再びガチャに挑戦しよう。
そして、絶対にカレーを引き当ててやる。
オレは拳を握りしめ、心の中で固く誓った。
異世界にふさわしい、泥のようなスープと石のようなパン。
たくましく生きる冒険者たちに囲まれて、ヨッシーの胃袋は早くも前世のカレーを求めています。
ヨッシーは、無事にカレーを引き当てることができるのか?
次回、部屋に戻っていざリベンジガチャ!
……頼むからカレーをくれ!!




