08:オレ、異世界の屋台を巡る
無事に取引を終え、オレたちは商人ギルドを後にした。
「ふんふんふ~ん♪」
懐には810万カレスの大金。
潤った財布に、思わず鼻歌がこぼれる。
もちろん、銅貨や銀貨などの小金も両替済みだ。
この世界では、大きな硬貨ばかりだとお釣りが出ないこともあるらしい。
「上機嫌ですね、姫!」
「ガァァ! ガァァ!」
オレのすぐ後ろを、ヒルデくんと、その頭に乗ったペン太がついてくる。
次の目的は宿探しだが、その前にどうしてもやりたいことがあった。
商人ギルドの前門の先には、広大な石畳の大通り。
綺麗に舗装された道を、多くの商人や馬車が行き交う。
両替商、高級服飾店、貴金属店などの立派な建物が並び、高級宿が軒を連ねていた。
ひっきりなしに通る荷馬車の音と、着飾った人々の話し声で、街は活気に満ちあふれている。
そんな大通りの一等地を陣取る、数々の屋台。
そう、オレのやりたいこととは――この異世界での屋台巡りだ。
せっかくの異世界転生、観光も全力で満喫したい。
まず目に飛び込んできたのは、飲み物と串焼きの屋台だ。
「こっちのワインは安いよ! アルコールが苦手な人には、井戸水や薄めたエールもあるよ!」
飲み物屋台では、水で薄めたワインやエールが小樽に入れて売られていた。
大きな鍋では、色とりどりの木の実が入ったホットワインが温められており、柑橘系のいい香りが鼻をくすぐる。
まあ、幼女の姿のオレに酒はまだ早い。
ここは泣く泣く断念したがね。
「そこのイケメン護衛を連れた嬢ちゃん! 熱々だよ! 炭火から上がったばかりのジューシーな串焼き、1本200カレスだ! 食べていかないかい!?」
屋台を冷やかして歩いていると、元気な店主に声をかけられた。
200カレス程度なら、昼食代わりにちょうどいい。
「3本ください」
「はいよ! まいどあり!」
オレとヒルデくん、そしてペン太の分を買い求める。
「むぐむぐ……。肉は硬めだけど、塩とハーブが効いてるな」
なかなかに野性味のある歯ごたえだ。
「美味しいです、姫ぇ~!」
「ガァァ! ガァァ!」
ヒルデくんはその硬い肉を、一口で豪快に頬張った。
満面の笑顔でむしゃむしゃと食べている。
こいつ、見た目以上にアゴが強靭らしい。
一方のペン太は、まるでアニメのように翼の先で器用に串を掴み、くちばしで1つずつついばんで飲み込んでいた。
普通のペンギンは翼で物を掴んだりしない。
どうやらペン太は、ペンギンに似た「何か別の生命体」のようだ。
「そこの嬢ちゃん! 食後のデザートにお菓子はどうだい!?」
次に見つけたのは、キッシュによく似たお菓子を切り売りする屋台だ。
通りにはお菓子の屋台がずらりと並び、それぞれ異なる甘味が売られている。
そのキッシュ風のお菓子は『フラオン』と呼ばれ、庶民に大人気らしい。
買って食べてみたが、味は「ボソボソした卵焼き」という感じだった。
そんな中、直径2cmにも満たない一粒で3000カレスもする、高価な『コンフィ』というお菓子が目に留まる。
「あ……これ、キンカンの甘煮だ」
正月の定番メニューにそっくりだった。
この国では砂糖や柑橘類が非常に貴重なため、どうしても値段が高くなるらしい。
その材料となる柑橘類は、果物屋台に並んでいた。
キンカンに似たその果物は『コンファートゥ』。一粒300カレスだ。
リンゴに似た『アプフェル』が100カレス、ベリー系の『ビーラー』が120カレスなのを考えると、かなり割高だ。
テニスボールサイズで『カボソー』と呼ばれる柑橘類にいたっては、1個900カレスもした。
やはり、この世界では柑橘系が高級品のようだ。
そんな果物エリアで、一際異彩を放っていたのが『ビアナ』と『ファイガ』だ。
『ビアナ』は直径30cmほどもある巨大な洋ナシ。
大味だが、この大きさで500カレスと抜群に安い。
少しだけ齧ってみたが、3人でも食べきれず、残りはアイテムボックスに仕舞った。
もう一つの『ファイガ』は、見た目が完全にゲームに出てくる黒い爆弾だ。
「しゃりしゃり……これ、イチジクだ! しかも熟れていて甘い!」
正体は、熟した甘いイチジクだった。
しかし、お値段はなんと2000カレス。
果物の中では断トツの最高値だ。
甘味に対する価格の跳ね上がり方が凄まじい。
野菜の屋台でも、驚きの発見があった。
この世界の人参は基本的に黄色なのだが、稀に『青い人参』が存在するらしい。
実物を見せてもらうと、それは紫色で、ほのかに青い光を放っていた。
万能薬の原料になるらしく、価格は野菜の中で最高額の12,000カレス。
その人参だけは、赤い布が敷かれた木箱に大事に保管され、客寄せのために中身が見えるように置かれていた。
まるで宝石のような扱いだ。
その後は生活雑貨の屋台を巡り、お気に入りのコップや食器、カトラリーをいくつかセットで買い込んだ。
最後に、装備品の屋台へ。
ラノベでお馴染みの剣がずらりと並んでいて、終始大興奮だったのだが――。
「うっ……重すぎる……」
ダガーすらまともに持ち上げられないオレの非力さに、戦慄を隠せない。
「姫、明日の薬草採取にはナイフが必要ですよ」
ヒルデくんに言われてハッとする。
そうだ、明日の朝からさっそく依頼に行かなければならないんだった。
「お嬢ちゃんに使えるのは、せいぜいこれくらいだな」
見かねた店主が勧めてくれたのは『プランターナイフ』。
長さ10cmほどの、薄くて軽いナイフだ。
それでも小銀貨2枚(4000カレス)。
さらに、短剣を斜めがけにするためのベルト『バルドリック』を合わせると、合計で8000カレスの出費になった。
とはいえ、これは明日からの必要経費だ。
こうして、明日への準備は着々と整った。
買い物を終え、ある路地に差し掛かった、その時――。
今まで沈黙していたナビが、不穏な警告を告げる。
『マスター。周囲から敵影が迫っています』
こんな街中で、敵影だって……!?
一体、どんなモンスターが現れたというんだ?
大金懐に、異世界グルメと買い出しを大満喫。
ペン太の器用すぎる串焼きの食べ方に癒やされたのも束の間、ラストでまさかの急展開です。
一体どんなモンスター(?)が路地裏に潜んでいるのか……。
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