04:ガチャアイテムがアーティファクトだった件
「ほほう? ――もしかしてこれは全て《アーティファクト》か?」
オレはアイテムボックスから、タコ焼き、板チョコレート、生姜焼きのタレを次々と出した。
そしてテーブルの上に並べた。
するとバルタザールのおっさんはそう尋ねて来た。
オレの記憶が確かなら、前世の地球における『アーティファクト』とは、石器や土器、あるいは古代の装飾品といった人工遺物や工芸品を指し示す専門用語だったはずだ。
元々のゲーム『DTC』には一切出てこなかった単語だが、はたしてこの異世界では、一体どういったニュアンスで使われているのだろうか?
『この国の方々は失われた技術で造られた物のことを《アーティファクト》とよんでいるのです。主にダンジョンや塔で産出されるアイテムを指すことが多いですね』
すると《アーティファクト》について、ナビが説明してくれた。
いつも一言多い奴だが、こんな場面では有難い。
「ええ、まぁ……。出所について詳しくお話しすることはできませんが、そういう認識で間違いありませんよ」
オレは知っている風を装い、そう返事をした。
「――ふむ、パッケージに描かれたこの精巧な文字や絵のタッチ……どれも『女神の塔』の物に特徴が酷似しているな」
おっさんは腕を組み、テーブルの上のガチャアイテムたちをじっと見下ろす。
なるほど、おっさんの見立てが確かなら、DTCのガチャアイテムは、「女神の創作物」ということになる。
そのアイテムは全て、日本で見慣れた物ばかりだ。
女神は日本の転生者かなにかだろうか?
「その回復量はどれ程のものだ?」
「ええっと……確か、どれもこれも『微量』と言いますか、ほんのおまけ程度だったと記憶しています」
何せガチャのハズレ枠だ。
戦闘中に使ったところで、ちびちびと回復させる程度しか効果は期待できない。
時間をかけて大量に摂取すればそれなりの効果はあるだろうが、一分一秒を争う最前線での実戦投入は極めて難しい代物だ。
「なるほどな……。だとしたら残念だが、冒険者ギルドとしての買い取りは、難しいと言わざるを得ん」
バルタザールのおっさんは腕を組んだまま、うーむと目を閉じ、長椅子の背もたれに深くもたれかかった。
「――失礼ですが、その理由を伺っても?」
「こういった出所不明のアーティファクト製品ってのはな、その希少性だけで市場では狂ったような高値がつく。つまり、純粋な『ポーション』として戦場で大量消費するには、あまりにもコストが高額すぎるということだ」
なるほど、至極真っ当な経済的理由か。
回復量というコストパフォーマンスだけに焦点を絞るなら、その絶大な骨董価値と値段の釣り合いが全く取れない。
スタンピードなど戦場では、少しでも多くの回復アイテムが必要とされる。
高額すぎるオーパーツを一つ買う予算があるなら、その金で一般的な量産型ポーションを大量購入した方が、組織の運用効率としては遥かに正しい。
「――だが! 『組織』ではなく『バルタザール個人』としてなら……話は別だ。オレはこの未知のアイテムに、猛烈に興味があるぞ!」
おっさんはガバッと目を開けると、瞳をギラギラと輝かせながら言葉を添えた。
どうやら組織の予算は使えなくても、彼個人のポケットマネーでなら、買い取ってくれるらしい。
「とりあえず、このなんとも美味そうな匂いをさせている丸い料理は、今から頂くとして……そうだな、5000カレスでどうだ?」
『マスター。一般的な領都の庶民が食べるランチの相場が一食1000カレス程ですので、個人間取引としては十分に妥当な金額かもしれませんね。もしこの【タコ焼き】を貴族のランチだと言い張るなら、1~2万カレス程ふっかけてもいいかもしれませんが……』
オレにとってタコ焼きは、屋台で気軽に買って食う庶民のB級グルメだ。
それを貴族のランチだと言い張るのは、気が引ける。
一般的なランチの5倍、5000カレスも貰えるなら文句などあるはずがない。
その価格で買ってくれるなら、こちらとしても少しくらいサービスを上乗せしてやってもいいだろう。
……ってか、おっさん、今からここで食うのか!?
「分かりました、その金額で手を打ちましょう。それならサービスとして、うちのペン太の水もセットで付けますよ」
「ガァァァ!」
ペン太は短い翼をパタつかせながら、くちばしの前に直径40センチほどの水球を出現させた。
「ほう……! そのおかしな使い魔、魔法まで扱えるのか!」
おっさんはガハハと愉快そうに笑いながら、デスクから持ってきたゴブレットで、宙に浮くペン太の水球から器用に水をすくい取った。
そして豪快にフォークを握りしめると、ホカホカのタコ焼きをいくつもまとめてザクザクと豪快に突き刺し、大口を開けて食べ始めた。
おいおいおっさん、出来たてだから熱いぞ。
そんなにいっぺんに食べると――。
「あっちぃぃ!! ――だが美味いィィィーーーッ!!! なんだこれは!? このかかっている茶色いドロドロのタレは何だ!? 濃厚で甘酸っぱくて、癖になる味だぞ!! ガハハ!! それにこの水も、驚くほど澄んでいて美味いな!!」
バルタザールのおっさんは、ハフハフと口から盛大に湯気を吹き出しながら、凄まじい勢いでタコ焼きを口へと放り込んでいった。
そしてあっという間に、タコ焼きを完食してしまった。
「ほらよ! 約束の小銀貨3枚だ! 予定より1000カレス多いが、思った以上に美味かったんでな、その追加分だ!」
おっさんは満足げに腹を叩いた。
そしてガハハと笑うと、チャリンと小気味よい音を立てて、三枚の硬貨をテーブルの上に置いた。
「そ、それはどうもありがとうございます」
オレはテーブルの上の小銀貨を手に取る。
リアルな『小銀貨』……人生で初めて見たぞ。
前世の地球の1円玉よりもさらに一回り小さいくらいの、精巧な銀の硬貨だ。
「ん? 小銀貨を見るのは初めてか? そういえばお前さんくらいの年齢の時、うちの娘も同じように目を丸くして硬貨を眺めていたっけな……」
おっさんはどこか遠い目をしながら、懐かしそうにオレの手元を見つめた。
「ちなみに、この街の標準的な安宿なら、その小銀貨3枚もあれば余裕で10日は宿泊が可能だぞ」
それは有り難い情報だ。
ひとまず、路上での就寝だけは避けられそうだ。
オレは安心の息を漏らしながら、小銀貨3枚をアイテムボックスへと格納した。
「――それで。テーブルに残った『他の二つのアイテム』はどうします?」
オレはテーブルの上に残された板チョコレートと、生姜焼きのタレを指し示しながら尋ねてみた。
「……こいつは、以前とある遺跡で発見されたという食材、『マナニグラ』の形状に酷く酷似しているのだが……。確か当時のオークションでは、たった一枚で300万カレスの価値がついたと記憶している」
おっさんは板チョコレートをまじまじと見つめながら、ごくりと喉を鳴らしてそう口にした。
300万カレス……!
ということは、さっきの庶民のランチに換算して……3000食分だと!?
ある程度の価値は覚悟していたが、まさか市販の板チョコレートが、この世界では超高食材として崇められているとは。
それにしても『マナニグラ』って……。
一体どこのどいつが、命名しやがったんだ。
「それに、アーティファクトの調味料は、料理に入れると驚くほど美味いと聞く。このギルドにも、一度だけ持ち込まれたことがあってな。香ばしい香りのする茶色い固形物だったそうだが、煮立った鍋に入れると、みるみる溶けて琥珀色の神秘的なスープに変貌したそうだ。確か、その調味料の名前は……」
――それ、絶対に市販の『カレールー』のことだろ。
「【アウルムポタービレ】だったな。当時の買い取り金額は、金貨5枚――つまり150万カレスの値段で引き取ったと記憶している」
ただのカレールーに、また大層な名前が付いたものだな。
しかも一箱で150万カレスって、どんだけだよ。
まあ、それほど高い価値がつくなら、いつかガチャで引き当ててみたいアイテムではあるな。
あの日本のカレーの味も懐かしい。
いつかは自分で作って食べてみたい。
カレールーはハズレワースト3には入らないものの、ゲーム時代もそこそこの確率でよく出る定番アイテムだったし、引き当てる可能性は十分に高い。
「こっちの茶色い液体は、恐らく未発見の物だと思うが……いずれにせよ、その2つの価値は計り知れないな……」
次におっさんは、生姜焼きのタレのボトルを聖杯でも扱うかのように両手で慎重に手に取り、深刻な表情で評価を口にした。
「だが、残念ながら俺が今すぐ出せる金額は、せいぜい『金貨4枚』までが限界だ。とてもじゃないが、その2つを買い取るには額が足りん……」
おっさんはがっかりした表情で肩を落とした。
「――それじゃあ、その金貨4枚で、この『マナニグラ』と『謎のタレ』の2点まとめておっさんに差し上げますよ」
「はあぁ!? ――な、なんだとぉっ!?」
オレのあまりにも大雑把すぎる投げ売り発言に対し、バルタザールのおっさんは驚愕して大声を上げた。
その凄まじい声量に、左後ろにいたヒルデくんが驚いて「ひっ、ひゃいぃぃん!」と情けない裏返った悲鳴を上げた。
――ビビりすぎだろお前。
「その代わりに――オレが何か危ない時に助けてください。それで手を打ちませんか?」
おっさんはまるで、その言葉の真意を確かめるように、オレの顔を目をまじまじと見た。
そしてニイッ!と口角を上げる。
「……よし! 気に入った、その条件飲んでやる! これからこの街で何かあったら、遠慮なくこの俺に頼ってこい!」
おっさんはガハハと笑いながら、快く承諾した。
純金製の金貨を4枚、応接テーブルの上へと景気よく叩きつけた。
「それから、もしそういうアーティファクトの在庫をまだ持っているなら、近いうちに『商人ギルド』にも顔を出してみるといい! あそこなら、俺なんかより高い金額で買い取ってくれるかもしれんからな!」
おっさんは豪快に笑いながらそう教えてくれた。
オレはリアルな『金貨』を見るのも初めてだ。
前世のしがないサラリーマン時代には、本物の純金貨なんて拝む機会すらなかったからな。
オレは金貨の美しい輝きを珍しそうに眺めると、その4枚をアイテムボックスへとしまい込んだ。
よし、次はその商人ギルドとやらへ行って、さらなる金策ルートを開拓してみるのも悪くないな。
「おっと、商談はここまでだ! あとは下のカウンターで、必ず『冒険者登録』の手続きを済ませていってくれよ! 正式な冒険者証を発行してやるからな!」
オレたちは、ガハハと上機嫌に笑うバルタザールのおっさんに連れられ、執務室を後にした。
そして再び一階の受付カウンターへと降りていくのだった――。
ご覧いただきありがとうございます!
今回は、領都の物価(庶民のランチが約1000カレス)や、ガチャのハズレ枠アイテムたちがこの世界でどれほどの価値を持っているのかという、経済的な世界観が掘り下げられる回となりました。
まさか150万カレスの価値がつくカレールーのポテンシャルには、作者も設定を書きながらヨッシーと一緒に夢が広がってしまいました。
いつかガチャで引き当てて、異世界カレーライスを流行らせてみたいものです。
バルタザール個人のポケットマネーから小銀貨3枚と金貨4枚をもぎ取り、さらに「商人ギルドに行けばもっと高く売れる」という耳寄りな情報までゲットしたヨッシー。
自由気ままな異世界ライフのための資金調達は順調そのものですね。
次回はついに、一階の受付に降りて冒険者ギルドへの正式な加入手続きを行います。
第5話もどうぞよろしくお願いいたします!




