02:オレ、冒険者ギルドに入る
その日、オレは――『冒険者ギルド』の中へと足を踏み入れた。
両扉を押し開けてまず左側に目をやると、そこには昼間だというのに酒場のような退廃的な空間が広がっていた。
いくつもの木製テーブルが並び、そこに腰掛けたガラの悪い荒くれ者たちが、ゴブレットを片手に大声で会話を楽しんでいる。
見渡す限り、モヒカン頭の人、ツルツルのスキンヘッドの人、不気味な眼帯をつけた人など、完全に世紀末なバリエーションのオンパレードだった。
「ひ、ひぇぇ……こ、怖い人たちがいっぱいですぅ~……」
「ガァァ~! ガァァ~!」
『――』
そんな強面な男たちを目撃した瞬間、ヒルデくんはガタガタと震えてヘタレていた。
ペン太は……まあ、いつも通り翼をパタつかせて威嚇している。
ナビにいたっては、完全なる無反応を貫いていた。
次に右側に目を移すと、そこには掲示板あり、羊皮紙で書かれたいくつかの依頼書見えた。
その依頼内容も多種多様で非常に面白そうだ。
ところが今のオレにはもっと別の差し迫った用事がある。
掲示板のチェックは後回しだ。
今回オレがギルドにやってきた真の目的は、手持ちのアイテムの売却と、正式な冒険者として登録して仕事を得ることなのだから。
同じく右側の奥にはいくつかのカウンターがあり、手続きを待つ冒険者たちが列を作っていた。
きっとあそこで、新規の冒険者登録の手続きを行うのだろう。
ついでにアイテムの買い取りも対応してくれるかもしれない。
オレは一番空いていそうな真ん中のカウンターを選び、大人しく列の最後尾へと並んだ。
――その時だった。
突如として、オレの頭上に黒い影が差し掛かった。
「おい、どきなチビ! ここはお前みたいな乳臭いガキが遊びで来るような場所じゃねえんだよ!」
背後から響いたドスの利いた声。
振り返ると、そこには体格が良く、髪を柱のように垂直に逆立てた、バンダナ姿の男が立っていた。
腰には使い込まれたロングソードをこれ見よがしに帯剣しており、職業は典型的な『剣士』のようだ。
挑発するように舌をだら~んと長く垂らしたその風貌は、前世の地球で見たヘビメタバンドの狂信的なファンのようだった。
ぶっちゃけあまり頭が良さそうには見えないので、こいつは『鳥頭』でいいだろう。
鳥頭の後ろには、仲間と思しき2人の男がニヤニヤと下品な笑みを浮かべて控えていた。
一人は、こちらを見下すような蔑みの表情を浮かべた、スキンヘッドの太った男。
もう一人は、髪をツンツンに尖らせた、背の高い痩せ型の男。
よし、この取り巻き二人は『肉団子』と『トゲ』と呼ぶことにしよう。
「ひぇぇぇぇ、ごめんなさいぃぃ~!」
「ガァァァ~ッ!!」
絵に描いたようなチンピラたちの威圧感に恐れをなしたヒルデくんが情けない悲鳴を上げ、ペン太が喉を鳴らして応戦する。
なるほど。これがいわゆる、異世界ファンタジーにおける『テンプレの絡んでくる冒険者』というやつか。
実物は想像以上にウザいな。
「あぁん? 聞いてんのかコラ、ガキィィィ!!」
鳥頭はさらに凶暴な顔つきに歪め、オレの鼻先まで顔を近づけて詰め寄ってきた。
平然とした態度を崩さないオレの態度が、プライドの高い彼の逆鱗に触れたのだろう。
『マスター。ログを解析しましたが、一応彼らに明確な「敵対」の意思は無いようです。ここはギルド内ですし、穏便な平和的解決を強く推奨します』
確かにナビの言う通り、マップを確認しても、彼らのマーカーは戦闘状態を示す赤点ではなく、中立の立場を示す青点のままだ。
単なる小悪党のガキむしりといったところか。
だが、ナビは簡単に平和的解決と言うが、こういう場面での大人のスマートな対応とは一体どんなものだっただろう。
一応、前世で酸いも甘いも噛み分けた社畜だったオレのデータベースを検索してみる。
• 選択肢1:【社畜の基本】ひたすら謝罪してやり過ごす。
理不尽なクレーマーや取引先の無理難題に頭を下げるがごとく、営業スマイルを顔面に貼り
付け、ペコペコと謝りながらヒルデとペン太を回収してその場をそっとフェードアウトする。
• 選択肢2:【大人の知恵】菓子折りで懐柔する。
激怒している上司や不機嫌な取引先の顔色を伺うために、アイテムボックスからハズレ枠の『板チョコ』あたりをスッと差し出し、「まあまあ先輩方、これで一杯どうぞ」と場を濁す大人の接待テクニック。
• 選択肢3:【事なかれ主義】相手を持ち上げておだてる。
「さすがベテランの先輩方は言うことが違いますね! すっごく勉強になります!」と、太鼓持ちの精神で褒めちぎる。
相手のプライドを満たして満足させて引いてもらう、社畜ならではの世渡り術。
――いや、待て。
ラノベの常識によれば、冒険者ギルドという弱肉強食の世界において、最初に舐められたらその時点で詰みだと相場が決まっている。
ここで社畜根性を出してペコペコしたら、明日からカツアゲされる未来しか見えない。
よし……ここは鬼に徹することにしよう。
力こそパワーだ。
「――《ストーンアーム》、起動」
オレは冷徹に呟き、即座にストーンアームの魔法を右腕へとまとわせた。
岩石がオレの腕に強固に編み込まれ――次の瞬間、鳥頭たちの身長を遥かに凌駕する、化け物じみた巨大な岩石の巨腕がそびえ立った。
しかもこのストーンアーム、太さも尋常ではない。
冗談みたいにぶ太い腕なのだ。
「ひ……っ!?」
頭上に突如として現れた圧倒的な暴力の質量を見上げた男たちは、一瞬で顔面を驚愕に引きつらせ、涙目になりながらガタガタ震え始めた。
オレは恐怖のあまり硬直した鳥頭の胸倉を、巨大なストーンアームの指先でむんずと、豪快に鷲掴みにした。
そのまま、フンッと腕に力を込めてグイッ!と上空へ持ち上げてやる。
哀れな鳥頭の両足は地面を離れ、彼は宙ぶらりんのミノムシ状態となった。
「……チビで、大変申し訳ありませんでしたね。喧嘩を売られたのでしたら喜んでお買いますが、これからどうしますか?」
一応、これからは同じギルドに所属する先輩冒険者になる人たちなので、言葉遣いだけは敬語で話しかけておくことにする。
オレはこれでも、良識ある常識人だからな。
『常識人の定義を書き換える必要がありますね。一般社会では、初対面の相手を片手で宙吊りにする行為を脅迫と呼びます、マスター』
「うるさいぞナビ。心の中を読むんじゃない」
オレは目を細めて、ナビへ向けて冷ややかな苦言を呈した。
「ひっ、ひぃぃぃぃ……っ! なんて、なんて冷酷な目をしてやがるんだ、このガキ……っ!」
「まるで、人の皮を被ったアークデーモンのようだぜ……っ!」
「怖い! 怖すぎる!」
男たちはオレの目を恐れるあまり、完全に腰を抜かして床にへたり込んでいた。
まあいい、結果オーライとはこのことだ。
これでオレの強さはギルド中に伝わったはずだし、今後変なやつから舐められる心配もないだろう。
それにしても、こんなに可愛い幼女を捕まえてアークデーモン呼ばわりは、いくらなんでも失礼だと思うんだが。
「おいおい! お前ら、受付の前で一体何を騒いでいやがる!」
その時、カウンターの奥の扉から、地響きのような凄まじい重低音の声と共に、筋骨隆々とした逞しい体つきの初老の男が姿を現した。
いかつい顔立ちをした、見事なスキンヘッド。
顎には髭を蓄えており、その頬には、歴戦の勇士さながらの、切り傷が刻まれていた。
「ほう……? そいつはまた、随分と見慣れない魔法だな」
スキンヘッドの男は、そびえ立つオレのストーンアームを見上げると、怯えるどころか感心したように冷静に口にした。
「お嬢ちゃん……悪いが、そろそろその男を解放してやってくれないか? そんなやつでも、一応はうちの大事な冒険者なんでな……」
男の言葉にハッと我に返る。
呆気に取られていたオレは、まだ鳥頭を開放していないのに気付いた。
「おっと、これは大変失礼いたしました。すぐに解放いたしますので……」
オレはそう言うと、鳥頭を地面に降ろして、ストーンアームを解除して消した。
ホールドを解かれた鳥頭が、ドサリと無様に床へ落下する。
「「「ひ、ひぃぃぃぃぃーーーーっ!!!」」」
自由になった瞬間、鳥頭、肉団子、トゲの三人は、クモの子を散らすような勢いで逃走を開始した。
そして脱兎のごとく、ギルドの外へと姿を消していった。
「やれやれ……。まったく情けない連中だ」
去っていった背中に向けて呆れたように一言呟くと、スキンヘッドの初老の男は、禿げ上がった頭を撫でた。
ギルドの荒くれ者たちが一瞬で静まり返るほどの圧倒的な威圧感。
一体、このおっさんは何者なのだろうか――。
ご覧いただきありがとうございます!
今回は「冒険者は舐められたら終わり」というネット小説の鉄則に従い、ヨッシーがギルドで力を示す回となりました。
鳥頭、肉団子、トゲという、名前からして噛ませ犬な3人組を見事撃退したヨッシーですが、本人は「これでも常識人」と言い張っているのがなんとも微笑ましい(?)ですね。
ゲーム『DTC』の対人戦(PVP)でも、最初に相手の出鼻をくじいて主導権を握るのがヨッシーの必勝パターンだったのかもしれません。
ラストに登場した貫禄たっぷりの初老の男は、ただ者ではないオーラを放っていますが、ヨッシーの規格外の魔法にどんな反応を示すのでしょうか?
文無し幼女のギルドサバイバル、ここからさらに加速していきます。
第3話もどうぞよろしくお願いいたします!




