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01:ナビの皮肉と領都ルグザム

 ペルー村を後にしてから、わずか数時間。

 街道の地平線の彼方に、目的の『領都ルグザム』と思しき巨大な石造りの城壁が姿を現した。

 ……まあ、それもそのはずである。

 アイテムボックスに格納されるのを嫌がるペン太とヒルデくんを無理やり中に押し込み、オレ単身で時速40キロで、ホバーボードで街道をぶっ飛ばしてきたのだから。


 普通の人間が歩けば二日はかかるという距離も、ホバーボードの機動力をもってすれば、わずか6時間そこらで到着する。


 ちなみに、本来ならオレの『アイテムボックス』に生きた生物を格納することはできない仕様だ。

 ところが、魔導生命体である『使い魔』という存在は、普通の生物とは異なるらしく、なぜかアイテムとしてボックスに収納できてしまう仕様になっている。

 とはいえ、アイテムボックス内は居心地が悪かったようで、画面越しに確認した彼らは、揃って不機嫌そうな顔をして寝ていた。


 さて、領都の全貌がこれだけはっきりと見えた以上、このまま彼らを閉じ込めておくのも可哀想というものだ。

 

「さあ、出てきてくれ、ペン太、ヒルデ! 領都に到着したぞ!」


 オレはアイテムボックスから、2人を出してやった。

 まばゆい光の粒子が集まり、2体の使い魔が現実世界へと顕現する。


「ガァァァ、ガァァァ!!!」

「ひ、酷いです、酷すぎますよ姫ぇぇ……っ!」


 案の定、現れた瞬間に全力でオレへの抗議を開始するペン太とヒルデくん。

 ペン太は怒りを込めてオレのお腹をくちばしでつっつき、ヒルデくんは涙目で両頬をぷくーっと膨らませてジト目を向けてくる。

 

「悪い悪い、本当に反省してるって! でもほら、そのおかげで思ったよりも早く到着しただろ?」


 オレが苦笑いしながら指し示した先には、どこまでも続く広大な城壁が見えていた。

 街道の先を見ると、城門があり、そこが領都への入り口であることがわかった。


 城門の前には、荷物を山積みにした多くの商人や、一癖も二癖もありそうな冒険者。

 さらにはボロをまとった旅人たちの長い列が出来ており、入城のための順番待ちをしていた。

 どうやら中に入るには、門番による身元チェックを通過する必要があるらしい。

 オレは大人しくホバーボードをしまい、その順番待ちの最後尾へと並んだ。


「はい、次の者……! ――ん? 子供か?」


 意外にも列の進みは早く、オレの順番はすぐに回ってきた。

 受付の門番は、並んでいたのがわずか五歳ほどの、幼女であることに気づき、瞬時に「迷子か? 不法入国か?」と訝しげな目を向けてきた。


「お嬢ちゃん、一人か? ……一応聞くが、入城税の『銀貨』は持っているか?」


 ――え? にゅうじょうぜい?

 絶句。そういえば、前世の地球でも違う国や都市に入る時には、不法滞在を防ぐために入国税や関税をとられるケースが多々あった。

 すっかり失念していた。


「あの……その、お金はちょっと、一枚も持っていなくて……」


 オレがちびちびと指先を合わせながら気まずそうに白状する。

 当然だ。この世界に転生してから、オレはまだ『通貨』というものを一枚たりとも手に入れていない。

 お金がなければ、当然この大都市への入城は拒否されるだろう。

 その場合、オレたちはこの荒野に放り出されて一体どうなってしまうのだろうか。

 不審者として捕まるのだけは勘弁だぞ。


『――マスター。何をそんなに困っているのですか? 先ほどペルー村で、キャロライナ様から貰った【スペルブック】を門番に見せれば一発解決ですよ?』


 オレが冷や汗を流していると、ナビがクスクスと笑いながらアドバイスを投げかけてきた。

 そう言えばこのスキルブックは、ボードリエ家の紹介状にもなるんだったか?


「あの……! お金は無いんですけど、このスペルブックじゃ役に立ちませんか……?」


 オレはアイテムボックスからスッと本を取り出し、門番の男に差し出した。


「ん? スペルブック……? まだ未使用の魔導書だな。どれどれ……――って、なっ、なんだこの最後のページの刻印は!? ……まさか、ボードリエ伯爵家直系のお墨付きか!?」


 本の裏表紙をチェックした門番の男は、そこに刻まれたエンブレムを見た瞬間、顔面を文字通り真っ青に染め上げた。


「こ、これは大変失礼いたしました! まさかボードリエ家の関係者様でありましたとは! どうぞ、どうぞお通りください!」


 次の瞬間、門番は敬礼のポーズでオレたちの入城をあっさりと許可した。

 そればかりか、恐れ多いと言わんばかりに震える手でスペルブックを返却してくる。

 どうやら、お高い入城税を支払う必要は完全に無くなったようだ。

 

『ふふっ。上手くいきましたね。この場合、貴族の特権により、マスターの入城税は後日【ボードリエ家】へと一括で自動請求されることになります。これでまた一歩、あの家への借りが深まりましたね、マスター?』


 ――そういうことは早く言えナビ!!


 ナビの陰謀により、図らずも大貴族に借金を作るハメになってしまった気がする。

 だが、もう通ってしまったものは仕方がない。

 ボードリエ家には、そのうち出世して大金を稼いだら、利子をつけてきっちり一括返済すればなんとかなるはずだ……多分。


 何はともあれ、オレはこうして、無事に『領都ルグザム』へとその第一歩を踏み入れたのだった。



 ◇◇◇



 重厚な城門のトンネルをくぐり抜けると、そこには前世の中世ヨーロッパを彷彿とさせる、活気あふれる異世界の市街地が広がっていた。


 溢れんばかりの多くの人々が、大通りをせわしなく往来している。

 中には何台もの大型馬車も通行しており、石畳の上をガタガタ、ゴトゴトとけたたましい騒音を奏でながら走り去っていく。

 通りの左右には無数の商店や露店がひしめき合い、色とりどりの商品がこれでもかと並べられていた。


「安いよ安いよ! 採れたての新鮮な東方の果物だよ!」

「旦那、いい仕立ての反物が入ってるよ! 寄っていきな!」

 

 威勢のいい商人たちの声が飛び交う。

 あれは上質な反物や、鈍く光る金物だろうか。

 活気のある屋台や八百屋のような店。

 中からお酒のいい匂いが漂ってくる酒樽を扱う店……。

 当然ながら、オレの地球の常識では測れない、未知の怪しい魔法道具を扱う店なども存在していた。

 歩いているだけでゲーマーの好奇心が刺激される。

 城門のすぐ先には、まるで西部劇にでも出て来そうな建物があり、看板には不思議な異世界文字が書かれていた。

 その入り口の看板には、不思議な異世界の文字が躍っている。

 

「……あそこに掲げられている看板、もしかして『冒険者ギルド』か?」


 オレはなぜか、その初見のはずの不思議な異世界文字を、「冒険者ギルド」と読み解くことができた。

 どうやらオレの知識の中には、異世界語の読み書きの知識もあるようだ。


「さて……まずは旅の基本として、今日の寝床となる宿探しから始めるか?」

『お言葉ですがマスター。現在マスターの所持金は0です』


 すかさずナビからの容赦ない現実が突きつけられる。


 そうだった。

 金のないオレは、最下等の安宿にすら泊まることはおろか、今晩の飯にありつくことすら出来ないのだ。

 路頭に迷う幼女とか、どんなハードモードだよ。

 

「なら、まずは宿探しじゃなくて、即席の『金策』から始めるしかないな……」

『それでしたら、今すぐこの街にある【ボードリエ家】の別邸を尋ねてみられてはいかがでしょうか? 門番の手続きも済みましたし、彼らなら喜んで最高級の宿を用意してくれるでしょうし、当面の生活費もいくらでも無利子で貸してくれますよ?』

「却下だ、却下!! ――貴族の権力に取り込まれるのだけは、絶対に御免被るからな」

 

 オレはこれ以上、あのボードリエ家には、一ミリたりとも借りを作りたくなかった。

 なんとなく、一度でもその甘い蜜を吸って頼ってしまえば、そのまま取り込まれる未来が確定する気がするからだ。


 せっかく手に入れた第二の人生だ。

 不自由な宮廷の操り人形になるより、オレは自分の力で自由にこの広大な世界を大冒険したい。

 その状況は窮屈に違いないのだ。


『ふふっ、さすがマスター、気骨がありますね。――ですが、もし本当にボードリエ家に取り込まれたくないのであれば、今すぐ行動を起こす必要がありますよ?』

「……あ? それはどういうことだ、ナビ?」

『先ほど、マスターは例のスペルブックを城門の門番に見せてしまいました。伯爵家の刻印が確認された以上、手続きの記録から、今頃はボードリエ家の執事宛てに緊急報告が速達で向かっているはずです。おそらく、あと数十分もしないうちに、お迎えの馬車がこの場所に到着することでしょう』


 ――やばい、それはマジでマズすぎる!!!


 お貴族様の情報ネットワークを舐めていた。

 今すぐこの場から離れて、足のつかない場所へ雲隠れしなければ――。


 オレは慌てて周囲をきょろきょろと見回し、最適な逃げ込み先を探した。


『しかしながら、幼いマスターの安全と生存確率を論理的に計算するならば、すぐさまボードリエ家の庇護下に入るべきだと思うのですが……。見たところ、この街は治安が良いようには思えませんし、誘拐犯なども多そうですが?』


 ナビの言うことはぐうの音も出ない正論だが、オレだってただの非力な幼女じゃない。

 オレの持つ課金アイテムの数々と、ナビの万全なサポート、そして最悪『ストーンアーム』の暴力があれば、多少の治安の悪さくらい力ずくでなんとでも突破してみせる。

 それよりも、早くこの目立つ大通りから離れないと、お迎えの馬車が来ちまう……!

 

「よし! とりあえずあそこへ逃げ込もう!」


 オレが指し示したのは、先ほど見つけた、【冒険者ギルド】の建物だった。


 あそこなら不特定多数の人間が出入りしているし、上手くギルドに登録して簡単な仕事さえ見つければ、オレの異世界生活もまともな軌道に乗るはずだ。

 あわよくば、アイテムボックスの中にある課金アイテムでも売却できれば、当面の宿代と生活費くらいは、稼げるかもしれない。


『やれやれ……。その行動力と決断力だけは素晴らしいですが、毎回それに振り回されるこちらの身にもなってください』


 ナビはやれやれと、憎まれ口を叩いてきた。

 その声音には、どこかオレの無茶を楽しんでいるような、満更でもない感じを受けた。

 ナビはそんなオレに、憎まれ口をたたくが、どこか満更でもない感じを受けた。

 こうしてオレは不敵な笑みを浮かべ、冒険者ギルドの重厚な扉を押し開けたのだった――。


 ご覧いただきありがとうございます!

 今回からいよいよ新章【領都ルグザム編】がスタートいたしました。

 使い魔は生物と違ってアイテムボックスに格納できるという『DTC』のちょっとシュールな仕様や、ヨッシーの言語理解チートなど、大都市に到着したことで世界のルールが少しずつ明かされていく回となりました。

 キャロライナから貰ったスペルブックがまさかの「伯爵家直系のブラックカード」のような扱いだったため、一銭も持っていないヨッシーでも無事に入城できましたが、自由を愛する元大人のヨッシーとしては貴族の囲い込みは何としても避けたいところ。

 ナビの「治安が悪い」という正論を押し切ってギルドへ逃げ込みましたが、五歳児の幼女の姿で無事に依頼を受けさせてもらえるのでしょうか?

 活気あふれる領都での、ヨッシーたちの新たなドタバタ金策サバイバル。

 第2話もどうぞよろしくお願いいたします!


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