16:目指せペルー村!
広大な塔の敷地を抜け、なんとかオレたちは街道に出ることが出来た。
白銀のポニーが引く馬車は、ガタゴトと音を立てて進んで行く。
ふと耳を澄ませば、馬車の窓からは猫娘たちが口ずさむ、可愛らしい鼻歌が聞こえてきた。
もうすぐ村に帰れるから、上機嫌なのだろう。
「姫ぇぇぇ~……。もう、ボク疲れちゃいましたよぉ……」
そのすぐ横で、相変わらず情けない弱音をはいているヘタレ騎士が一名。
だが、こいつの「疲れた」ほどあてにならない言葉はない。
ヘタレのヒルデくんは、体力が有り余っていようと、仕様で弱音を吐くのだ。
オレは構わず村へと馬車を勧めた。
オレたちが目指す村は、この街道の先にあるという。
名前は『ペルー村』。
人族と獣人族が手を取り合って共存している、のどかで小さな村だという。
――だが、オレの記憶が確かなら、ゲーム『DTC』のマップにそんな村は存在していなかった。
この異世界は、オレのプレイしていたゲーム【DTC】とは、似て非なる世界なのだろう。
「村のおじいちゃんが言ってたけど、モンスタースタンピードなんて、この国じゃ実に五十年ぶりの大災害なんだって」
「うん。うちのおじいちゃんもそう言っていたにゃ」
この50年モンスタースタンピードは、起こっておらず村はかなり無防備な状態であったという。
ペルー村は昔、軍事的な砦だった名残で、村の周囲を頑丈で大きな城壁がぐるりと囲んでいたそうだ。
ところが、あまりにも平和な日常が続きすぎたせいで、いつしか人々は城壁の外側へと勝手に生活圏を広げ、畑や民家をどんどん建ててしまっていたという。
つまり、今回のスタンピードで真っ先に被害に遭ったのは、その防衛線の外側に露出していたエリアなのだ。
猫娘四人は、魔物の軍勢が迫る中、城壁の中へと逃げ込もうとする途中で、運悪くオークに捕まってしまったらしい。
「村には冒険者のおじさんがいるんだよ。おじさんは強いんだ」
彼女の言う冒険者とは、村を守るために常駐している戦力のことだろうか?
DTCではモンスタースタンピードイベントが引き起こされる前には、女神の巫女が予言により皆に報せる仕様になっていた。
もしかしたら女神の巫女の予言を聞き、駆けつけた冒険者の可能性もある。
「でもでも、Bランクの『モニカお嬢様』は、もっともっと強いって聞いたにゃ!」
モニカお嬢様?
いったいそれは何者だろうか?
「あ、知ってるなにょ! 《疾風のモニカ》なにょ!」
「あのお嬢様は、走るとお馬さんよりも速いって噂にゃ!」
――疾風のモニカ、だと……?
馬よりも速いスピードで移動するだと。
その特徴、もしかしてパッシブスキル持ちか?
DTCには【俊足】という、上位職の斥候が習得できるスキルが存在する。
文字通り、キャラクターの移動速度を大幅に向上させるスキルだ。
上位の斥候は、オレのような魔術師には天敵となる存在だ。
素早い速度で接近し、暗殺スキルで瞬殺するのが常とう手段となっていた。
奴らは魔法を使う暇すら与えてはくれない。
まあ前世のオレであれば、丈夫な魔導鎧操を装備していたし、瞬殺されること自体がなかった。
魔導鎧操は魔力で動く、パワードスーツのようなものだ。
とくにオレの装備していた【クロガネ】は、丈夫なアダマンタイトで出来ていたし、魔法はもちろん物理攻撃にも高い耐性を誇っていた。
暗殺スキルを耐え抜いて、魔法で反撃して逆に瞬殺なんてことも出来ていた。
だが今のオレは、ひ弱な幼女にすぎない。
相手が上位の斥候であれば、ストーンアームでは、分が悪い戦いとなるだろう。
そんな奴と戦うような事態だけは、避けねばなるまい。
「でも最近は《赤雷のジャンヌ》も有名だよ」
「ああ! 孤高の女騎士にゃ!」
「噂では赤雷の剣はなんでも貫くらしいにょ!」
今度は《赤雷のジャンヌ》ときたか。
少女たちの話を聞く限り、そいつは典型的な上位職の戦士だろう。
しかも、何でも貫くスキルというフレーズには、オレも覚えがある。
ゲーム時代、対人戦(PVP)で脳筋のごり押し系戦士たちがこぞって愛用してきた極悪スキル。
――その名も【ライトニングスラスト】。
凄まじい出の速さで遠距離まで届き、突進の威力と剣の性能次第では、あのアダマンタイトの装甲すら容易に貫通してくるクソ技だ。
その【ライトニングスラスト】には何度煮え湯を飲まされ、画面前で台パンさせられたか分からない。
よし、そのジャンヌとかいう女騎士も、間違いなく要注意人物として脳内リストに登録しておこう。
『――マスター、警告です。前方より、こちらに急速に接近する複数の敵影を感知しました』
「なんだとっ!?」
ナビはそう報せると、オレの目の前にマップを表示した。
「敵の数は……合計で5体か」
おそらくモンスタースタンピード終了時に、逃れたモンスターだろう。
「姫ぇぇ~! ゴブリンですよぉ!」
「「「にゃぁぁぁぁーーーーっ!?」」」
ヒルデくんの情けない悲鳴を合図に、猫娘たちの悲鳴がこだまする。
ケモ耳様たちの平穏を脅かすやつは万死に値する!
「ヒルデよ! ――薙ぎ払え!」
「えぇぇぇん! ボクには無理ですよぉ!」
うん。知ってた。
ヘタレのヒルデくんは、オレの指示を無視してポニーの後ろに隠れやがった。
「チッ! 仕方がない、オレが行くか……!」
オレは乗っていたホバーボードの出力を一気に跳ね上げる。
キィィィンと風を切って、突進してくる5体のゴブリンめがけて突っ込んだ。
「くたばれェェェェ大回転っ!!! ――《ストーンアーム》!!」
ズガァァァァァーーーーンッ!!!
「「「ギャアァァァァーーーッ!?」」」
オレはストーンアームを振り回すと、遠心力を乗せた豪快なラリアットを叩き込んだ。
衝撃波と共に、5体のゴブリンが吹き飛んでいく。
もちろん倒したゴブリンから魔石は、いただいたさ。
ワイバーンという脅威が居ない今急ぐ必要もない。
まあゴブリンの魔石は、相変わらず美味くはなかったがな。
残り課金ポイント:15350p
「すごーーーいっ! ヨッシーちゃん強いぃぃ!」
「たまげたにゃあ! 大きい腕で一撃にゃ!」
「ヨッシーちゃん、本当に凄いにょ!」
「つよ~い!」
「ガァァァ、ガァァァ!!」
猫娘たちが、目を輝かせてオレを絶賛する。
車内のペン太も短い翼をパタパタさせて応援してくれている。
オレの引き締まっていた表情も、可愛いケモ耳様たちにここまで褒められると、さすがにニヤニヤとだらしなく緩んでしまうというものだ。
いやぁ、それほどでも……あるさ。
「さ、さすがは姫ですぅ……! カッコよすぎて痺れちゃいます……っ」
ヒルデくんがポニーの影からひょっこり顔を出し、涙を拭いながらそう口にする。
――お前はもっと頑張れ!!
◇◇◇
あれからばらく進むと、村の正門らしき木の建物が見えて来た。
「村が見えて来たよ!」
「本当にゃ! ペルー村にゃ!」
「ワタシたちの村なにょ!」
「わあぁぁい! ついたぁぁ!」
「ガァァ! ガァァ!」
見慣れた故郷の正門を目にした瞬間、子供たちのボルテージは最高潮に達した。
子供たちは、はしゃぎ声が抑えきれない様子で飛び跳ねていた。
どうやら、あれが彼女たちの言うペルー村で間違いないようだ。
ハプニングの連続だったが、こうしてオレたちは、一人も欠けることなく無事にペルー村へと到着することができたのだ。
これでようやく、ひとまずは安全な場所で一息つけそうだ――。
ご覧いただきありがとうございます!
第16話にして、ヨッシーたちが目指していた「ペルー村」へ無事に到着することができました。
ヘタレなヒルデくんに代わってホバーボードで突撃し、ゴブリンを文字通り一蹴したヨッシーですが、猫娘たちからの「つよ~い!」という大絶賛に鼻高々な様子。
やっぱり可愛いケモ耳様たちに褒められるのは、中身がおっさんでなくても嬉しいものですよね。
村に帰還した猫娘たちの家族の反応や、村に常駐しているという冒険者たちとの出会いなど、ここからさらに世界が広がっていきます。
ひとまず一息つけるのか、それとも新たな波乱が待っているのか……。
第17話もどうぞよろしくお願いいたします!




