14:課金ショップで乗り物を探そう!
オレと猫娘たちはどうにか無事に『女神の塔』を脱出した。
……が、感動の脱出劇も束の間、深刻な問題が発生していた。
猫娘4人が恐怖のあまり完全に足がすくんでしまい、一歩も前に歩き出せなくなってしまったのだ。
それもそのはず、目の前には大量のモンスターの死骸が広がり、それをワイバーンたちがバリバリとついばんでいるのだ。
子供たちが恐怖で怯え、震え上がってしまうのも無理はなかった。
『マスター。子供たちを安全に運ぶために、課金ショップで馬車を購入されてはいかがでしょう?』
この膠着状態を見かねたのか、ナビがオレにそんな提案を投げかけてきた。
言われてみれば確かに、課金ショップのラインナップには、移動用の使い魔に牽引させて走る『馬車』などのビークル系アイテムも販売されている。
――はっ!
目の前で群がっているワイバーン。
そして、これから買う馬車。
この2つの要素が合わさったということは、もしかして……!
「ナビ……もしかしてあのワイバーンに馬車を引かせる妙案が!?」
異世界転生ラノベの主人公といえば、常識破りの奇策や妙案で数々の苦難を乗り越えていくのがお約束だ。
そして今のオレの状況こそ、まさにそのテンプレにうってつけのシチュエーションではないだろうか。
流石はオレの相棒ナビ。
まさかそんな作戦を提案してくるなんて――。
『残念ながら、そのような無茶苦茶な妙案はこれっぽっちもございません。普通に課金ショップで牽引可能な使い魔をセットで購入してください』
――バッサリ。
一瞬で現実へと引き戻された。
どうやら、このナビ程度のAI知能では、そんなラノベのようなインスピレーションは湧いてこないらしい。
『なにか失礼なこと考えてませんか?』
「いや……少しも?」
オレはナビの鋭い直感に冷や汗を流しながら、首を横に振って否定した。
「ヨッシーちゃん……さっきから、誰と話しているの?」
「ヨッシーはなんだか、妙な独り言が多いにゃあ……」
「ガァァァ……」
案の定、虚空に向かって表情を百面相させていたオレの姿が不審極まりなかったらしい。
猫娘たちがジト目を向けてきた。
……ペン太お前もか!?
「あ、ああ……ちょっと性格の悪い妖精さんとな」
『ほほう……。そんなことを言ってもいいのですか?』
ナビの姿はオレにしか見えない。
その声もオレの耳にしか響かない。
本当のことを言ったところで説明のしようがないのだ。
まあ、役割的にはガイド妖精みたいなものだし、そう伝えておくのが一番無難だろう。
「わあぁ! ヨッシーちゃん、妖精さんとお話ができるの!?」
「それはすごいにゃ~!」
「にゃ~も妖精さんとお話してみたいにゃ!」
「そう言えば、村で酔っ払ったおじさんが『オレには妖精さんが見えるんだぁ』って言ってたにょ」
オレが見えるのはそんな妖精ちゃう!
だがまあ……今は遊んでいる場合ではない。
オレは気を取り直して、課金ショップ画面を見つめた。
「よし、ならこれを使うか……」
スクロールする商品リストの中から、オレはある特定のアイテムに目を留めた。
それは移動用使い魔に牽引させて使用する、特殊な乗り物――【かぼちゃの馬車】。
「よし! 《かぼちゃの馬車》を購入だ!」
オレは画面をタップし、【かぼちゃの馬車:1500p】を迷わず購入した。
元々【かぼちゃの馬車】は、ハロウィンイベント用のただのネタ枠アイテムだ。
イベント終了後も「可愛すぎる」「ファンタジー感があって最高」というプレイヤーたちの要望により、常設販売に残り続けた大人気アイテムの一つである。
――残り課金ポイント:16300p。
「出でよ、夢の超特急! 《かぼちゃの馬車》――召喚!」
ドドドォォォーーン!!
オレがアイテムボックスから現物を取り出すと、目の前の荒涼とした大地に巨大なオレンジ色のかぼちゃのビークルが姿を現した。
「な、なにそれぇ!?」
「すっごく面白い形にゃ!」
「もしかして、このお野菜の中に乗るにょ……?」
「おっきいお野菜、たべられるの?」
童話の世界から飛び出してきたような奇抜な馬車の登場に、猫娘たちの顔から先ほどまでの恐怖が綺麗に吹き飛んだ。
好奇心を抑えきれない様子で、かぼちゃの馬車の中を覗き込んだり、表面をペタペタと触ったりしてはしゃぎ始めている。
よし、狙い通りだ。
「これは馬車だ!」
オレはかぼちゃの馬車をビシッと指し示しながら誇らしげに説明した。
「でも、これを引いてくれるお馬さんがいないよ?」
「馬車にはお馬さんが必要にゃ」
「そうなにょ……お馬さんはどこ?」
「(コクコク)」
「ガァァ~、ガァァ~!」
……そう、最大の盲点。
馬車を動かすには、当然それを引っ張る『動力』が必要なのだ。
システム上、この馬車は馬以外にも『移動用の使い魔』であれば問題なく牽引させることができる。
だが、今のオレの手持ちにはペン太しかいない。
まさかペン太に引かせるわけにもいかない。
最悪オレが『ストーンアーム』を発動して、自力で引っ張る力技もあるが……それだとオレが疲れそうだ。
「――うーむ。やっぱり駄目か。最低ランクの『ユニコーン』ですら、要求レベルが20からとはな……」
ショップの移動用使い魔のカタログを調べてみるが、どれもこれも要求レベルが20以上と、現時点のオレにとっては高嶺の花ばかり。
無理にポイントで呼び出したところで、レベル制限のせいで主の言うことなど一ミリも聞いてはくれないだろう。
「そういえば、さっきのオーク戦も含めて、ここまで何回かレベルアップしているはずだよな。とりあえず、現在の自分の強さを確認しておくか。――ステータス・オープン!」
オレはステータス画面を展開し、現在のパラメーターを確認した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【ステータス画面】
名前: ヨッシー
種族: 人間(?)
レベル:12 年齢:5歳 性別:女
職業: 見習い魔術師
【基本パラメーター】
体力(HP): 48 / 48(※年齢補正により大幅減少)
魔力(MP): 601 / 666
気力(SP): 72 / 72
筋力(STR): 12(※年齢補正により大幅減少)
耐久(VIT): 12(※年齢補正により大幅減少)
敏捷(AGI): 60(※年齢補正により大幅減少)
器用(DEX): 108
魔威(MAT): 271
幸運(LUK): 40
アイテムボックス積載量: 100
所持魔法: 【ゴーレムメイカー改A Lv8】
装備品: 【綿のワンピース】【歩きやすい軽い靴】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわぁ……」
格上との激戦にしては、そのレベルアップ率は低いように思える。
だがそれは、DTCの経験値獲得システムによる影響だろう。
DTCでは経験値が100%になることで、レベルがアップする。
しかも経験値取得制限もあり、極端に多くの経験値は得られないのだ。
そして代わり映えしない【幸運(LUK)】の数値だが、DTCでは基本この数値は上昇しない仕様となっている。
全体的にパラメーターの上昇率はかなり渋いゲームだ。
だが、多くの装備やスキル、魔法にはレベル制限があったため、どの道レベルが高くなければ強くはなれない。
だからこそ、日々の地道なレベル上げこそが最強への近道であり、装備の強化や使い魔の育成といったやり込み要素で、他のプレイヤーと差をつけるのがこのゲームの醍醐味だったわけだが……。
まあ、そんなゲームの思い出話は今はどうでもいい。
重要なのは、現在のオレのレベルだ。
「レベル12か……」
やはり、この数値ではショップにいるどんな移動用使い魔もまともに使役することはできない。
普通のプレイヤーならここで完全に詰み、途方に暮れるところだろう。
――だが、オレのような廃プレイヤーには、こんな状況を打破するための『裏技的救済処置』の知識が備わっているのだ。
それは、「使い魔自身が持つ召喚能力」に頼るという超変則的なアプローチ。
使い魔の中には、自身がさらに別の召喚獣を使役して戦う特殊なタイプが存在する。
そしてその中に、マスターのレベルが『1』であっても問題なく使役可能で、かつ強力なユニットを呼び出せる、あの有名な『男の娘キャラ』がいたはずだ。
「見習い騎士ヒルデくん! ――君に決めた!」
オレは不敵な笑みを浮かべると、使い魔【騎士ヒルデくん:1200p】の購入ボタンをタップした。
――残り課金ポイント:15100p。
ご覧いただきありがとうございます!
今回はヨッシーの現在のステータスを公開しつつ、この世界のベースとなっているゲーム『DTC』の、ちょっと渋めな仕様について掘り下げる回となりました。
格上を倒しても一気にレベル100にはなれない経験値制限や、レベルアップでは絶対に上がらない【幸運(LUK)】の数値など、ネトゲ経験者の方なら「あるある」と共感していただけるのではないでしょうか。
そんなガチガチのレベル制限に縛られる中、ヨッシーが繰り出したのが「召喚能力を持つ使い魔に身代わりをさせる」という、なんともゲーマーらしい攻略法。
1200ポイントでお買い上げされたヒルデくんが、この死体累々の広場でどんな手腕を見せてくれるのか、作者も今からワクワクしています。
少しずつ頼もしい(?)仲間が増えていくヨッシーの脱出劇、次回もどうぞよろしくお願いいたします!




