12:使い魔のぺん太登場!
オレは現在、可愛いケモ耳様たちに水分を提供すべく、人知れず孤独な闘いを繰り広げていた。
ところが、である。
物欲センサーが全力で仕事を仕掛けてきているのか、ガチャにいくら挑戦しても、出てくるのは目的とは明後日の方向を向いたアイテムばかり。
挙句の果てには、よりによって喉が焼け付きそうな【生姜焼きのタレ】を引き当ててしまう始末だ。
「ヨッシー、な~にそれ?」
「くんくん……? なんだか、すごく良い匂いがするにゃ!」
「もしかして、それが新しい飲み物なにょ?」
「飲めるの……?」
オレが虚ろな目で生姜焼きのタレのボトルを握りしめていると、猫娘たちが物珍しそうにトコトコと詰め寄ってきた。
確かに、最高品質で具現化された生姜焼きのタレからは、胃袋を容赦なく刺激する芳醇な香りが漂っている。
だが、悲しいかな。
これは生姜焼きのタレだ。
そのままゴクゴクと一気飲みするような代物ではない。
豚肉と一緒に炒めてこそ、初めて真価を発揮する至高の存在なのだから。
「いや……大変申し訳ないんだが、こいつは飲み物じゃなくて『調味料』だ」
オレはあふれ出そうになる涎を堪えながら、猫娘たちにそう説明した。
「ちょうみりょう……ってなぁに?」
最年少のルナが、不思議そうに首を傾げて年上の少女たちを振り返る。
「ええっと、塩や砂糖のことよ」
「砂糖……っ! あのお高い高級品にゃ!」
「じゃあ、その茶色いボトルも、すっごい高級品なにょ!?」
どうやら「調味料」という単語から、彼女たちは塩や砂糖を連想したらしい。
というか、どうやらこの異世界には『生姜焼きのタレ』のような調味料は存在しないようだ。
「いや、まあ、確かにこいつには砂糖もたっぷり入ってはいるんだが……だからってそのまま飲む物じゃないしな……」
これ以上追及されるとボロが出そうだったので、オレはそっと生姜焼きのタレをアイテムボックスの闇へとしまい込んだ。
猫娘たちが名残惜しそうな目で虚空を見つめている。
よし、気を取り直そう。
次こそ、次こそ絶対に本物の飲み物を引き当ててみせる!
オレは再びじゃんけんのポーズを作り、念入りに、これでもかとクロスした両手をこねくり回した。
「当たれ~! 当たりやがれチクショウ! ――とうっ!!」
半ばヤケクソ気味に【GO!】のボタンをタップし、三度目となるガチャの挑戦を開始する。
――残り課金ポイント:17800p。
パパパパ~♪
『宝箱の中身は……使い魔【ペン太】でした!』
う、うおおおおお!? ペン太! ペン太が出やがったァァァーーーッ!?
――ペン太。
それはDTCのサービス初期に実装されて以来、いくらリアルマネーを注ぎ込んでも一度として引くことができなかったレア使い魔である!
オレはペンギンのペン太を、両手で高く掲げると、小躍りしながら、喜びをあらわにした。
このペン太は、ゲーム内で『ペンギンシリーズ』と呼ばれる使い魔だ。
種類としては2種類しかおらず、それが【ペン太】と【ペン子】。
その違いは単純明快にオスかメスかである。
見分けるポイントは頭にリボンが付いているかどうかで、今オレが掲げているリボンのない方が、オス格のペン太だった。
ガチャ実装当初から存在する最古参の使い魔なのだが、とにかく排出率が低く、出ないことで有名だったのだ。
唯一にして最大の欠点は、「一切戦闘ができない完全な愛玩用」という点。
だが、そんなものは些細な問題だ。
可愛いは正義。
その圧倒的な愛くるしさから、プレイヤーたちの間での人気は凄まじく高かったのである。
そんな憧れのペン太が、今、オレの腕の中にいる。
ぎゅっと抱きしめてみると、羽毛は驚くほどフワフワで、確かな温もりが伝わってきた。
しかも、現在のオレが「幼女」であるせいだろうか。
言葉にできない妙な安心感が全身を包み込んで、めちゃくちゃ癒やされる。
――って、おい待て。
今オレが本当に欲しかったのは、こいつじゃない!!
ケモ耳様たちに献上するための、冷たくて美味しい飲み物だろ!?
「ガァァァ~!」
オレが心の中で否定をした瞬間、オレの表情の変化から何かを察したのか、ペン太は不細工なき声を上げて抗議してきた。
……まあ、いいか。こいつはこいつで、オレの精神安定剤としての役割がある。
必要な存在であることは確かだ。
絶対に手放してなんかやるものか。
オレはペン太をもう一度強く抱きしめながら、心の中でそう固く誓った。
と、そこでふと我に返る。
視線を感じて横を見ると、猫娘たちが全員、完全に唖然とした表情でこちらを凝視していた。
……やばい。テンションが上がりすぎて、幼女の姿で自重の欠片もない奇妙な小躍りを披露してしまった。
気づいた瞬間、恥ずかしさのあまり頭のてっぺんからボンッと煙が噴き出す幻覚が見えるほど、顔がカッと熱くなった。
恥ずかし死ぬゥゥゥゥーーッ!!!
「ねえ、それ……使い魔?」
「ヨッシーちゃんが、急に変な生き物を召喚したにゃ……」
「……きっと、非常食なにょ」
「食べるの?」
こいつは誰にも食べさせねェェェ!!!
っていうか、この愛くるしいペンギンを食べるなんていう発想、オレの辞書には微塵もねェェェ!!!
「非常食じゃないやいっ!」と、オレはペン太をぎゅーっと抱きしめ、半ば涙目で彼女たちに全力で抗議した。
しかし、実際のところ、このペン太の召喚はある意味では大勝利、いや大当たりの部類だった。
こいつはただ可愛いだけの、ただの役立たずなマスコットではないのだ。
「ペン太――『水球』だ!」
「ガァァァ~!」
オレがビシッと指を差して命じると、ペン太は短い翼をパタパタとさせながら、愛らしい鳴き声とともに水属性の魔力の光を発生させた。
続けてペン太のくちばしの前に、きらきらと輝く小さな水滴が出現する。
その水滴は見る見るうちに膨れ上がり、瞬く間に直径40センチメートルほどの、綺麗な球体の水へと成長した。
「その変な子、魔法が使えるの……っ!?」
「お水がふよふよと空中に浮いているにゃ!」
「それって、本物の水の魔法なにょ!?」
「すご~い! お水だぁ!」
そう、ペン太は攻撃魔法こそ使えないものの、初歩的な水魔法を扱うことができる。
しかも、ペン太の生成する水は『そこそこ美味しい』という、設定が存在していたのだ。
まあ、その水魔法には一切の攻撃判定がないから、戦闘ではただの嫌がらせにしかならないんだが。
「どれどれ……」
オレは宙に浮く水球にそっと手を触れ、小さな両手で水をすくい取ると、毒味を兼ねて少しだけ口に含んでみた。
――冷たっ。そして、美味い。
その水は驚くほどすっきりとしていて、嫌な癖が全くない。
まるで大自然の雪解け水、市販の高級な天然水に近い味わいだ。
喉がカラカラに渇いていた補正もあるのだろうが、五臓六腑に染み渡るように美味しく感じる。
「ごくごく……ぷはっ! ――このお水、すごく美味しいぞ!」
「本当にゃ!? う、うちも飲むにゃ!」
「うちも飲むにょ!」
「にゃにゃ! ほんとだ、すっごく冷たくて美味しいお水にゃあ!」
最年少のルナが真っ先にオレの真似をして水を口に含むと、その直後、堰を切ったように猫娘たち全員がペン太の水球へと殺到した。
両手で水をすくい、夢中になってごくごくと喉を鳴らして飲み始める。
やはり彼女たちも、限界を超えて喉が渇いていたようだ。
「ガァァァ~!」
自分が出した水を美味そうに飲み干していく少女たちの姿を見て、ペン太はどこか誇らしげに、満足そうな鳴き声を上げた。
怪我の功名、あるいは物欲センサーの奇跡。
こうしてオレは、異世界における最初の頼れる相棒?――【ペン太】との出会いを果たしたのだった。
ご覧いただきありがとうございます!
喉がカラカラの猫娘たちのために、必死でドリンクを狙ってガチャを回し続けた第12話。
引き当てたのはコーラでも天然水でもなく、まさかのペンギンでした(笑)。
ゲーム時代は完全なハズレ(※ただし超激レアの見た目枠)だったペン太ですが、このリアル異世界においては、無限に冷たくて美味しいお水を生み出せるという超有能なライフラインへと進化を遂げました。
ドヤ顔で鳴くペン太と、夢中で水を飲む猫娘たちの姿には、作者自身も書いていてほっこりさせられました。
非常食にならなくて本当に良かったです……!
頼もしい(?)相棒も加わり、少しずつ賑やかになっていくヨッシーの異世界旅。
果たして一行は、無事に女神の塔を抜け出して猫娘たちの村へとたどり着けるのか?
続きもどうぞお楽しみに!




