11:オレ、ガチャに興じる
オレはさっそくタコ焼きを、アイテムボックスから出して確認してみた。
取り出した瞬間、目の前でほっかほかの湯気が立ち上る。
あたり一面に香ばしいソースの香りがブワッと広がった。
本格的にもほどがある。
その圧倒的なクオリティーは、もはや「本物」と断言せざるを得なかった。
「じゅるり……美味そうだ……」
こぼれそうになる涎を必死に飲み込み、オレはタコ焼きを一つ、付属の爪楊枝でぷすりと刺した。
そして、おもむろに口の中へと放り込む。
「あつあつっ! はふ、はふ……う、うんまあぁぁーーいっ!!」
間違いない。
これはオレがよく知っている、あの熱々トロトロのタコ焼きだ!
ソースと青のりの芳醇な香りが鼻腔を心地よく抜ける。
外側のカリッとした衣を噛みしめると、中から出汁のしっかり染みた熱い生地がどろりと口いっぱいに広がる。
そこへタコのくにくにとした絶妙な歯ごたえ。
マヨネーズのまろやかなコクが加わり、旨味の暴走特急と化していく。
なるほど、どうやらこのリアル異世界において、ゲーム時代のネタアイテムは「本物のごちそう」として具現化されるらしい。
最悪のハズレを引き当てたつもりだったが、結果として大当たりの貴重な食料をゲットしてしまった。
おまけにゲームの設定通り、オレの『アイテムボックス』は時間経過がない仕様だ。
ということは、このタコ焼きもボックスにしまってある限り、出す瞬間までずっとこのホカホカな状態をキープしてくれるということだ。
「……すっごく、美味しそう」
「食べたいにゃ……」
「お腹空いたにょ……」
ふと視線を感じて顔を上げると、そこにはダラダラと涎を流し、羨ましそうにオレを見つめる四組のケモ耳があった。
――うわあああっ、これはいかん!!
オレとしたことが、お腹を空かせたケモ耳様たちを差し置いて、一人で至高の美食を堪能しちまっていた!
「ご、ごめんっ! 忘れてたわけじゃないんだ! ――ほら、これ君たちの分だから!」
オレは慌てて残りのタコ焼きをアイテムボックスから引き出し、猫娘たち四人の前にどんと差し出した。
「出来たてだから熱いぞ! 気を付けて食べてね!」
「――あっちぃ!?」
注意を促した次の瞬間、最年少のルナがさっそく口をハフハフさせて涙目になっていた。
どうやら直撃で火傷したらしい。
「み、みずゥゥゥゥゥーーッ! やばい、ガチャ画面オープン! 水かお茶かジュース出てくれーっ!」
オレはパニックになりながら、再び虚空にガチャ画面を展開した。
このままでは、せっかくのケモ耳様たちが美味しくタコ焼きを食べられないどころか、お口が大惨事になってしまう!
一刻も早く冷やさねば!
『マスター。少し落ち着かれてはいかがですか?』
「なんだと!? ――って、ナビ!」
ナビの冷ややかなツッコミに我を取り戻し、恐る恐る少女たちの方へと視線を戻す。
「ふぅ~、ふぅ~。……ぱくっ。……にゃああ、なにこれ美味しいぃっ!」
「本当だ! 色々複雑な味がして、まるでお貴族様のご飯みたいにゃ!」
「ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~……。熱いけど、すっごく美味しいにょ!」
「おいひい~っ!」
……あれ?
いつの間にか猫娘たちは、ハフハフと器用に息を吹きかけながら、目をキラキラと輝かせてタコ焼きを貪り食っていた。
どうやらオレの心配は、ただのな杞憂に終わったらしい。
猫の獣人である彼女らは、どうやら猫舌ではないようだ。
だがまあ、あんなに濃厚なソース味のものを食べ進めれば、絶対に喉が渇くはずだ。
ここはやはり、気の利いた飲み物を用意しておくべきだろう。
ガチャを回して、最高のドリンクをケモ耳様方に献上してやろうじゃないか!
ガチャのハズレ枠には【コーラ】【緑茶】【天然水】といった各種飲料水がラインナップされている。
それらのドリンクを首尾よく引き当てることができれば、渇きに苦しむ彼女たちに極上の潤いを提供できるはずだ。
しかも【コーラ】に関しては、先ほどのタコ焼きと並ぶ『ハズレワースト3』の常連でもある。
このハズレワースト3が排出される確率は、驚異の50パーセント。
まさに運営の悪意が詰まった極悪非道な仕様なのだ。
前世でプレイしていた時は「ドブに金を捨てさせる気か!」と殺意すら覚えた最凶のハズレ枠だ。
今この瞬間ばかりは、神に祈るような気持ちで「出てくれ!」と願うばかりだ。
オレはじゃんけんのポーズで、両手を前でクロスさせると、念入りにこれでもかとこねくり回した。
「当たれ~っ! 当たれぇぇ~っ!」
よし、これでオレの隠し運気は間違いなく跳ね上がった……に違いない。
確認のために視界の端のステータス画面をチラ見してみるが、表記されている【幸運:40】の数値は――微塵も、ぴくりともアップしちゃあいねえがな。
気を取り直して、オレは通算二回目となるガチャの挑戦へ向け、【GO!】のボタンを力強くタップした。
――残り課金ポイント:18400p。
やがて、宝箱の隙間からまたしても眩い光のエフェクトが溢れ出す。
中身が白いシルエットへと変化し、徐々にその正体をあらわにしていった。
パパパパ~♪
『宝箱の中身は……【板チョコレート 20個入り】でした!』
【板チョコレート】:カカオの芳醇な香り。食べると魔力を微弱に回復する。
結果は同じく、ハズレワースト3の最後の一角――板チョコレートだった。
「う~ん……。微妙に狙いからハズれちまったか……」
思わずため息が漏れるが、まあ、これはこれで悪くはない。
オレはさっそく、手に入れたばかりの板チョコレートをアイテムボックスから出して実体化させた。
銀紙を剥き、その茶色い誘惑に思い切り齧りつく。
「カリッ!! ……ううう~ん、美味いっ!!」
前歯に伝わるカリッとした心地よい歯ごたえ。
そこから口いっぱいに、どろりと広がる濃厚なミルクの甘み。
そして後味を引き締める絶妙なビター感が、疲弊したオレの身も心も一瞬で満たしていく。
これぞまさに至福の時。生き返る。
「なになに!? また何か出したのっ!?」
「今度は何を出したにゃ!?」
「うちも欲しいにょ!」
「にゃ~も……」
至福の甘みに浸っていたオレの元へ、凄まじい勢いで猫娘たちが殺到してきた。
……って、近くで見るとこいつら、意外にデカいな!?
一番年長のルーシーにいたっては、オレの頭一つ分以上は身長が高そうだ。
まあ、今のオレはちびっ子だから仕方がないんだが。
とはいえ、美少女のケモ耳様たちに全方位から詰め寄られるのは、ぶっちゃけ全く悪い気がしない。
「これは『チョコレート』っていうお菓子だぜ! ほら、一人一枚ずつだぞ!」
オレは板チョコレートを次々とボックスから引き出し、彼女たちに配り始めた。
そのどさくさに紛れて、最年少のルナの頭をさりげなく撫で回しておく。
その手触りは最高にもふもふで、尊さのあまり天に召されそうだ。
「これ、お菓子なの……っ!?」
「お菓子って……あのお貴族様しか食べられないっていう、伝説の食べ物にゃ!?」
「ヨッシー、もしかしてお貴族様なにょ?」
「おきぞくさま?」
……ん?
この異世界の文明レベルだと、お菓子は貴族様クラスしか口にできない超高級品なのか?
どうやら思った以上に貧しい世界のようだった。
一気に緊張した面持ちになり、猫娘たちの熱い視線がオレに集中する。
ごくりと唾を飲み込み、オレの返答をじっと待っている。
「いや、オレはお貴族様なんかじゃないぞ! だから遠慮なんてしないで、そのチョコレートを思いっきり食べるがいい!」
オレは幼女の小さな体を精一杯使ってビシッとポーズを決め、彼女たちにそう告げた。
「嘘だ~……」
「なんだか、すごく偉そうにゃ~……」
「やっぱ絶対お貴族様なにょ」
「にゃ~」
ところが、その言葉は一ミリも信じてもらえなかった。
――オレ、涙目。
「カリ……っ、にゃにこれ、めちゃくちゃ美味しいぃぃ!!」
「うままままままァァァにゃァァァァーーッ!?」
「目玉が飛び出るにょ~っ!!」
「にゃにゃにゃァァァァ~~ッ!!」
次の瞬間、口にチョコレートを入れた猫娘たちが、狂喜乱舞の大パニックに陥った。
まるで全身に電撃でも走ったかのように、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて感動している。
おお、ケモ耳様たちにそこまで喜んでもらえるなんて、頑張ってガチャした甲斐があったというものだ。
あ、ちなみにリアルな話だが、実際の猫にチョコレートを与えては絶対にダメだ。
テオブロミン中毒で命に関わる病気になるからな。
……まあ、彼女たちは『猫の獣人』であって、猫そのものではないから大丈夫なんだがな!
「よし! 次こそ、次こそ本命の飲み物を当てるぞ!」
オレは再び、ガチャの深淵へと挑むべく画面と対峙した。
さっきからケモ耳たちの熱狂ぶりに付き合っていたせいで、オレ自身の喉もカラカラに渇いてきている。そろそろ当たってくれよ、冷たいドリンク。
――残り課金ポイント:18100p。
パパパパ~♪
『宝箱の中身は……【生姜焼きのタレ 20個入り】でした!』
【生姜焼きのタレ】:某大手食品企業とのタイアップキャンペーン限定アイテム。甘辛い生姜の風味が食欲をそそる。これを一気飲みすれば、体力回復間違いなし!
――って、飲めるかァァァァーーッ!!!
オレは静まり返った心の中で、ありったけの絶叫をぶちまけた。
生姜焼きのタレをストレートで一気飲みするとか、どこの罰ゲームだ!
喉の渇きを潤すどころか、塩分過多で別の病気になるわ!
「ヨッシー、また美味しいもの出た?」
「なににゃ? なににゃ?」
「次は何をくれるなにょ?」
「にゃ~?」
目をキラキラさせて詰め寄ってくるケモ耳様たちに対し、オレは盛大に冷や汗を流す。
……大変申し訳ございません。
今回の景品、茶色いボトルに入ったドロドロのタレです。
期待に満ちたこの純真無垢な瞳を前にして、オレは一体なんと説明すればいいのだろうか――。
ご覧いただきありがとうございます!
ゲームの仕様がリアルに反映されるこの世界、タコ焼きやチョコレートの描写を描いているだけで、作者自身もお腹が空いてくる回でした。
異世界では砂糖や加工技術が貴重なのか、猫娘たちの「目玉が飛び出るにょ~!」という大はしゃぎっぷりに癒やされます。
※作中にも書きましたが、現実の猫ちゃんには絶対にチョコをあげちゃダメですよ!
それにしても、物欲センサーというのは異世界に行っても健在なようです。
飲料水を狙って「当たれ~!」と念じた結果が、まさかの生姜焼きのタレ。
体力回復効果があるとはいえ、ストレートで飲むのはさすがに正気の沙汰ではありません。
確率50%のハズレドブ地獄、恐るべしです。
はたしてヨッシーは、このドロドロのタレをどう説明するのでしょうか?
次回も応援よろしくお願いいたします!




