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光は息をしている  作者: リンダ


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リトル博多の芽

第57話


「リトル博多の芽」


 キーウの公園に、少し変わった名物が生まれ始めていた。


 幼稚園が終わる夕方。


 スヴィトリャーナとクリリナが、小さな広場に立つ。


 そして、覚えたてとは思えない勢いで博多弁を放つ。


「なんしようとー!」


「よかろうもん!」


「うちら、キーウの博多姉妹たい!」


 最初は、通りすがりの大人たちが笑った。


 次に、子どもたちが集まった。


 やがて、近所の人たちが毎日のように見に来るようになった。


⸻


 スヴィトリャーナは光子譲りの勢いでボケを投げる。


「今日は、キーウ名物ボルシチと博多ラーメンの平和条約を結びます!」


 クリリナは優子譲りの間でツッコむ。


「まず鍋の中で国際会議せんでよか!」


 周囲は大爆笑。


 ソフィーアは頭を抱える。


「誰がここまで教えたの……」


 ドミトロはカメラを構えながら言う。


「間違いなく日本側の影響だね」


⸻


 動画はSNSで広がった。


 キーウのリトル博多姉妹


 そう呼ばれるようになった二人は、いつしか地元の小さな有名人になっていった。


 公園の近くには、博多ラーメン風の屋台が出るようになる。


 明太子風味の軽食を作るカフェも現れる。


 ウクライナ語、英語、日本語、そして博多弁が飛び交う小さな通り。


 そこは少しずつ、観光名所の一つとして知られるようになっていった。


⸻


 ある夕方。


 オレクサンドルとオレーナは、公園のベンチに座って孫たちを見ていた。


 スヴィトリャーナが叫ぶ。


「笑いは国境越えるばい!」


 クリリナが続く。


「でも宿題は国境越えて追いかけてくるばい!」


 子どもたちが笑い、大人たちも笑う。


 オレーナは涙を浮かべながら微笑んだ。


「これが、本当の平和ね」


 オレクサンドルも静かにうなずいた。


「ああ。銃声じゃなくて、子どもの笑い声が響いている」


 彼は孫たちを見つめた。


 戦争で壊された街に、今は笑いがある。


 憎しみではなく、文化が根づいている。


 光子と優子から受け継いだ笑いが、ソフィーアの娘たちの中で花を咲かせていた。


⸻


 ソフィーアは、遠く福岡に動画を送った。


 すぐに光子から返信が来た。


リトル博多、完全開業しとるやん。


 優子からも続く。


これはもう博多支部キーウ営業所たい。


 ソフィーアは笑った。


「もう誰にも止められないね」


 ドミトロがうなずく。


「平和って、たぶんこういうものなんだろうね」


⸻


 文化は、大きな宣言ではなく、子どもの一言から根を張る。


 そしてその根は、笑い声とともに、キーウの街へ広がっていった。


⸻


次回予告


 キーウに根づき始めたリトル博多。


 スヴィトリャーナとクリリナの笑いは、人々の心を明るくしていく。


 だが、ソフィーアは娘たちに、笑いの奥にある歴史と祈りも伝えたいと考える。


 そして一家は、祖父母たちの記憶をたどる旅へ出る。


 次回、

 第58話

 「笑いの根っこ」


 笑いは軽いものではない。

 泣いた人が、それでも前を向くための力である。

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