オープンキャンパスの出会い
第49話
「オープンキャンパスの出会い」
春。
東京の音楽大学ではオープンキャンパスが開かれていた。
全国から集まる高校生たち。
講義体験。
模擬レッスン。
キャンパスツアー。
ソフィーアも学生スタッフとして手伝いに参加していた。
声楽科の紹介係。
来場者の案内。
そしてミニコンサート。
いつも通りの一日になるはずだった。
ところが。
昼前。
キャンパスの空気が急にざわついた。
「え?」
「うそでしょ?」
「あれ……」
「本物?」
ソフィーアは首を傾げた。
何が起きたのか分からない。
視線の先を見る。
そこには二人の少女がいた。
よく似た顔。
明るい笑顔。
どこか人を引きつける空気。
周囲の学生が騒ぎ始める。
「M&Yじゃない?」
「えっ、本物?」
「ファイブピーチ★の二人よね?」
「テレビで見たことある!」
「全国ツアーやってるあの双子?」
ソフィーアはますます不思議そうな顔になる。
「どうしたの?」
近くにいた友人が驚いた顔で振り向く。
「ソフィーア、知らないの?」
「何を?」
「あの二人」
「ううん」
「日本でたぶん一番有名な高校生双子だよ」
「そんなに?」
「そんなに」
すると。
その双子の方から近づいてきた。
光子と優子だった。
ソフィーアは少し緊張した。
だが、二人はまるで昔からの友達のような笑顔だった。
光子が手を振る。
「こんにちはー!」
優子も続く。
「声楽科の人?」
「うん」
「ソフィーアです」
「わー!」
光子が目を輝かせる。
「日本語めっちゃ上手やん!」
ソフィーアは少し照れた。
「ありがとう」
優子が尋ねる。
「どこから来たと?」
「ウクライナ」
「おー!」
二人が同時に反応した。
「すごーい!」
ソフィーアも聞き返した。
「あなたたちは?」
「うちら?」
光子が胸を張る。
「博多!」
優子も続く。
「福岡たい!」
ソフィーアは少し考えた。
「博多……ラーメン?」
二人が吹き出した。
「まずそこなんや!」
「まあ合っとるけど!」
そこからだった。
会話が止まらなくなった。
「東京どうね?」
「楽しい」
「電車迷わん?」
「最初は迷った」
「やっぱり!」
「三軒茶屋で何回か間違えた」
「うちらも迷う!」
周囲の学生たちは唖然としていた。
初対面なのに。
まるで昔からの友達みたいに話している。
ソフィーアは気づいていなかった。
幼い頃。
戦争の最中。
病院で歌った映像を見ていた双子が、この二人だったことを。
一方。
光子と優子も気づいていなかった。
四歳の頃。
母・美鈴のスマホで見た、あのウクライナの少女が目の前にいることを。
運命は時々、こんな形で再会する。
本人たちが気づかないまま。
その日の体験授業。
声楽科の教室で、ソフィーアが歌った。
教室は静まり返る。
透き通る歌声。
柔らかく広がる響き。
光子が小声で言う。
「うまかね……」
優子も頷く。
「めっちゃうまか……」
演奏後。
二人は真っ先に拍手した。
ソフィーアは嬉しそうに笑った。
そして帰り際。
光子が言う。
「また会えるとよね?」
「たぶん」
「じゃあ連絡先交換しよう!」
「いいよ」
優子が笑う。
「東京で困ったら相談乗るけん!」
ソフィーアも笑った。
「私の方が東京長いよ?」
一瞬の沈黙。
そして全員が吹き出した。
その日から。
ソフィーアは急速に博多弁を覚え始める。
「なんしようと?」
「よかよ」
「ばりうまい」
「たい」
「やけん」
「よかろうもん」
音大の友人たちは困惑した。
「ソフィーア、日本語どこで覚えたの?」
「東京」
「その語尾は東京じゃない」
光子と優子の影響は絶大だった。
やがてソフィーアは、
ウクライナ語。
ロシア語。
英語。
日本語。
そして――
博多弁。
五つの言葉を自在に使い分けるようになる。
それは後に。
日本とウクライナを結ぶ活動の中で、大きな力になる。
だが今はまだ。
ただ三人とも笑っていた。
音楽大学の教室で。
未来のことなど知らないまま。
次回予告
オープンキャンパスをきっかけに仲良くなったソフィーアと光子・優子。
三人は連絡を取り合いながら、それぞれの夢へ向かって進んでいく。
そして二年後。
光子と優子が正式に東京の音大へ入学する。
再会の場所は、あの日と同じキャンパス。
次回、
第50話
「三人の新入生歓迎会」
偶然だった出会いは、やがて人生を変える友情へ育っていく。




