遠い国の双子
第41話
「遠い国の双子」
2026年7月。
ウクライナのキーウ近郊。
ソフィーアは6歳になっていた。
歌が好きだった。
踊ることも好きだった。
そして何より、人を笑顔にすることが好きだった。
避難施設や病院で歌うことは、もう日常の一部になっていた。
オレーナは歌を教え続ける。
オレクサンドルは少しずつ仕事へ復帰しながら、娘の歌う場所に灯りをともす。
まだ戦争は終わっていない。
それでも、家族は前を向いて歩いていた。
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一方その頃。
遠く離れた日本。
福岡県。
4歳になった双子の姉妹がいた。
光子と優子。
まだ幼い二人は、毎日元気いっぱいだった。
歌うことも大好き。
踊ることも大好き。
そして、人を笑わせることがもっと大好きだった。
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ある日の夕方。
美鈴がスマートフォンでニュースを見ていた。
そこには、ウクライナの避難施設で歌う母娘の映像が映っていた。
オレーナとソフィーア。
日本語字幕付きで紹介されている。
美鈴は何気なく再生した。
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透き通る歌声。
静かな伴奏。
そして翻訳された歌詞。
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たとえ夜が長くても
私たちは朝を待つ
たとえ涙が流れても
希望は消えない
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光子が動きを止めた。
「お母さん」
「ん?」
「このお姉ちゃん、上手やね」
優子も真剣な顔で画面を見ている。
「ほんとやね」
いつも騒がしい二人が、珍しく静かだった。
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歌が終わる。
しばらく沈黙が続く。
そして光子が言った。
「このお姉ちゃん、悲しい人を元気にしようとしてるんやね」
美鈴は少し驚いた。
「どうしてそう思うと?」
「だって、みんな泣いとるもん」
優子も頷いた。
「でも最後、ちょっと笑っとる」
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美鈴は、娘たちを見つめた。
まだ4歳。
それでも、歌が人の心を動かしていることを感じ取っていた。
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優子が言う。
「いつか会えるかな」
「誰に?」
「このお姉ちゃん」
光子も目を輝かせる。
「一緒に歌えたら楽しそうやん」
優子は大きく頷いた。
「うん!」
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そして二人は画面を見ながら言った。
「日本の歌も聴いてほしいね」
「いっぱいあるもんね」
「一緒に歌えたらいいね」
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美鈴は微笑んだ。
「そうやね」
その時は、本当に何気ない会話だった。
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誰も知らない。
画面の向こうの少女と。
福岡で笑っている双子が。
十数年後。
同じステージに立つことになることを。
音楽で。
笑顔で。
そして戦争を乗り越えた希望の象徴として。
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一方。
キーウ近郊のアパート。
ソフィーアは、その日も歌の練習を終えていた。
オレーナが言う。
「今日もよく頑張ったわね」
ソフィーアは笑う。
「もっと上手になりたい」
「どうして?」
ソフィーアは少し考えた。
そして言った。
「世界中の人に届く歌を歌いたいから」
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その言葉に。
オレクサンドルは静かに窓の外を見た。
遠い国にも届く歌。
そんな日が本当に来るのだろうか。
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だがその頃。
遠い福岡では。
4歳の双子が同じことを話していた。
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「世界中に歌を届けたいね」
「うん!」
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まだ出会っていない。
名前も知らない。
住む国も違う。
言葉も違う。
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それでも。
歌はすでに国境を越え始めていた。
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次回予告
ソフィーアの歌声は世界へ広がり続ける。
そして戦争は長期化し、ウクライナの人々は疲弊していく。
そんな中、オレーナは「歌は何のためにあるのか」という問いに向き合う。
一方、福岡の双子も音楽と笑いの楽しさを知り始める。
まだ交わらない二つの物語。
だが運命の糸は、少しずつ結ばれていく。
次回、
第42話
「歌う理由」
人はなぜ歌うのか。
その答えは、苦しい時ほど見えてくる。




