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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第三百十三話:新たな戦いの始まり

『じゃあ、また来るよ。面白い『商品』ができたら、声をかけてくれ』


次元商人レンと名乗る男は、まるで隣町へ買い物にでも行くかのように、その言葉を残して光る裂け目の向こう――日本の闇へと、再び姿を消した。彼の介入によって時空の暴走はぴたりと止まり、壁にはただ、不安定に揺らめく半透明な扉の残像のようなエネルギー体だけが、不気味な静寂を保っていた。


後に残されたのは、呆然とする私たちと、床に散らばる小麦粉、そして、作りかけだった奇跡のラーメンの名残だけだった。世界の崩壊という絶対的な危機は去った。だが、その代わりに訪れたのは、安堵とは程遠い、もっと底知れない、未知なる脅威への予感だった。


「……行っちまった」最初に沈黙を破ったのは、ドルフさんの、呆然とした声だった。「一体、何だったんだ、今の奴は……。次元商人?商品?デリートだと…?」

「少なくとも、我々の世界のことわりの外にいる存在だ」ジロが、床に残された微かな魔力の残滓を分析しながら、冷徹に、しかし隠しきれない興奮と共に言った。「あの扉を意図的に維持し、世界間を自在に移動する技術……アトランティスの叡智をも、遥かに凌駕している。奴は、個人か、あるいは我々の知らない巨大な組織か……いずれにせよ、厄介なことになった」


ケイレブ様は、無言で、今は静かになった扉の残像を睨みつけていた。彼の騎士としての本能が、あの男――レンが放っていた、底知れない、遊戯を楽しむかのような冷たい気配に、最大限の警戒を発していた。

「奴は言った。『扉を壊すな』と。そして『邪魔をするなら、世界ごと削除する』と」ケイレブ様は、低い声で確認するように言った。「我々は、人質に取られたも同然か」


その言葉に、ミーシャは青ざめ、マヤは不安そうに私のエプロンの裾を掴んだ。ゴークは「ふざけやがって!」と拳を握りしめている。

レン。彼の目的は何か? なぜ今になって現れたのか? そして、彼が言った「商品」とは、一体何を指すのか? 私たちの異世界でのラーメン文化か、それとも、もっと別の何かか?

謎ばかりが、私たちの頭の中で渦巻いていた。


私は、皆の不安を振り払うように、パン、と手を叩いた。

「……今は、考えても仕方がないわ。一つだけ確かなことがある」

私は、仲間たちの顔を見渡し、静かに、しかし力強く言った。

「私たちは、勝手に開けられたこの扉と、勝手に現れたあの男の都合に、振り回されるわけにはいかない。私たちの戦いは、まだ終わっていないんだから」


私の視線は、厨房の壁にかかった古時計へと向けられた。もうすぐ、日本の夜明けが来る。夜明けと共に、日本の当局が、本格的にこの場所の調査に乗り出してくるだろう。私たちがここに留まることは、あまりにも危険すぎた。


「帰りましょう」私は、決意を込めて言った。「私たちの厨房へ。そして、態勢を立て直す。守るべきものが、また一つ増えただけよ。今度は、二つの世界と、そして、あのふざけた『商人』から、私たちの食卓を守るの」


私の言葉に、仲間たちの目に、再び闘志の光が宿った。

私たちは、日本の安宿に残してきた荷物を手早くまとめると、源さんの厨房を後にした。源さんは、ただ黙って、私たちを店の外まで見送ってくれた。彼の目には、もう戸惑いはなかった。ただ、これから始まるであろう、私たちの新しい戦いへの、静かなエールが込められていた。


物置の扉――今は静かに揺らめくだけの次元の裂け目の前に、私たちは再び立った。

ジロが、最後の確認を行う。

「エネルギーレベルは、極めて低いレベルで安定している。だが、いつまた暴走するとも限らん。あるいは、あの男が、再びここから現れる可能性も…」


私は、振り返り、最後に一度だけ、日本の路地裏の風景を目に焼き付けた。

朝の光が差し込み始めた、懐かしい故郷の空。だが、それはもう、ただの感傷の対象ではなかった。私が守るべき、もう一つの故郷。そして、私たちの新しい戦いの、もう一つの戦場。

「行きましょう」

私は、仲間たちを促し、扉の向こう、異世界の厨房へと、その身を滑り込ませた。

最後に扉をくぐったジロが、何重もの封印と監視の術式を、扉とその周辺に施していく。

ガチャリ、と物置の扉が閉まる音が、私たちの短い聖地巡礼の終わりと、そして、二つの世界にまたがる、新たな戦いの始まりを、静かに告げていた。

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