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古代文明の遺物「カップラーメン」を再現したら、聖女と間違われました  作者: 神楽坂ミコト


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第三百十二話:第三の勢力

『悪いが、その『扉』、壊してもらっては困るんだ。―――俺が、ようやく見つけ出した、故郷あっちと、新しい遊びこっちを繋ぐ、唯一の道なんでね』


その、あまりにも場違いで、飄々(ひょうひょう)とした声。厨房に転がり込んできた見知らぬ男の言葉は、世界の崩壊を前にした私たちの極限の緊張感を、一瞬にして奇妙な困惑へと変えた。

男は、埃を払いながらゆっくりと立ち上がると、まるで旧知の友人にでも会ったかのように、私に向かってにこやかに笑いかけた。


「やあ、初めまして、と言うべきかな? 麺聖女――いや、『特異点シンギュラリティ』リナ。君の噂は、色々な『次元チャンネル』で聞いていたよ」


彼の言葉は、私たちの知らない法則で脳内に直接響いてくる。そして、彼の存在そのものが、この世界の、いや、二つの世界の法則から、わずかに浮き上がっているかのような、奇妙な違和感を放っていた。


「……あなたは、誰?」

私が、オリハルコンの包丁を構え直しながら、警戒して問いかける。ケイレブ様もジロも、この男が放つ未知の魔力エネルギーに、最大限の警戒態勢をとっていた。

男は、肩をすくめた。

「俺? 俺はただの、しがない『旅人』さ。ちょっとばかし、世界と世界の間を渡り歩くのが得意なだけだよ」


彼がそう言った瞬間、崩壊しかけていた壁――時空の裂け目が、まるで彼の言葉に従うかのように、ピタリとその暴走を止めたのだ。紫と黄金の渦は消え去り、そこには再び、半透明な扉の形をした、不安定ながらも静止したエネルギー体が残された。

「なっ……!?」ジロが、信じられないというように目を見開く。「暴走が、止まった…?いや、違う!彼が、止めたのか…!?」


「まあね」男は、こともなげに頷いた。「せっかく繋がった『道』なんだ。こんなところで壊れてもらっちゃ、俺の計画が狂うんでね」

彼は、私たちの驚愕など意にも介さず、興味深そうに厨房を見渡した。

「ふぅん。ここが、あのジロ・サイトウさえも手玉に取るという、噂の厨房か。なるほど、面白いエネルギーの匂いがする。過去と未来、そして二つの世界の法則が、奇跡的なバランスで混じり合っている。…まるで、出来損ないのシチューみたいだが」


その、あまりにも不遜な物言い。だが、彼の言葉には、私たちとは比較にならないほどの、次元の違う知識と経験に裏打ちされた、絶対的な自信が満ちていた。

「あなたは…!」私は、確信に近づきながら、問い詰めた。「あなたも、私たちと同じ……あの世界からの『転生者』なの!?」

「転生者、ね」男は、その言葉を面白そうに反芻した。「まあ、広義ではそうかもな。ただし、君たちみたいに、運悪く死んでこっちに来たわけじゃない。俺は、自らの『意志』で、この世界を選び、そして『扉』を開いたのさ」


自らの意志で、世界を渡る。

その言葉は、私たちにとって、あまりにも衝撃的だった。

彼は、偶然の産物ではない。明確な目的を持って、この世界に干渉してきた、第三の勢力。魁人かいとが警告した、扉を維持する力の、正体。


「さて、と」男は、パン、と手を叩いた。「自己紹介がまだだったかな。俺の名は、レン。まあ、しがない『次元商人』だとでも思ってくれればいい」

彼は、私たちが持つ異世界の食材と、日本の厨房の調理器具を交互に見比べ、商人の目で値踏みするように、にやりと笑った。

「君たちが、二つの世界で面白い『化学反応』を起こしているのは知っている。素晴らしい『商品』だ。俺はね、それを、もっと高く売れる『市場マーケット』に、届けたいだけなのさ」

彼の言葉には、善意も悪意もない。ただ、全てを自らの利益と好奇心のために利用しようとする、純粋で、そして底知れない、商人の欲望だけがあった。


「扉は、俺が管理させてもらう」レンは、一方的に宣言した。「君たちの交流は、俺の『ビジネス』の邪魔にならない範囲でなら、黙認してやろう。ただし、この扉を壊そうとしたり、俺の計画の邪魔をしたりするなら――」

彼の笑顔が、一瞬だけ、氷のように冷たくなる。

「――その時は、君たちの愛する二つの世界ごと、この宇宙から『削除デリート』させてもらうことになるかもしれないね」


それは、あまりにも巨大な力を持つ者からの、静かな、しかし絶対的な脅迫だった。

彼は、私たちに背を向けると、まるで自分の家のように、物置の扉――今は不安定に光る次元の裂け目――へと、躊躇なく足を踏み入れた。

「じゃあ、また来るよ。面白い『商品』ができたら、声をかけてくれ」

その言葉を残し、彼の姿は光の中へと消えていった。


後に残されたのは、呆然とする私たちと、壁に空いたままの、不気味に静止した時空の裂け目だけだった。

世界の崩壊は、一時的に回避された。だが、それは新たな、そしてより予測不能な脅威の支配下に置かれたことを意味していた。

私たちの厨房は、今、二つの世界の運命と、次元商人レンの気まぐれな野望の狭間で、危うい綱渡りを強いられることになったのだ。

新しい戦いの幕が、静かに、そして不気味に上がった。

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