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第85話 明けましておめでとう 後編


「優梨ちゃんたちは『成長の儀』ってするの?」


 唐突に君枝から聞かれた。


「成長の儀って、確か『成人の儀』と同じ4月1日に行う儀式ですよね?」


 この世界での日本の成人式は優梨の前世の時と違い、満20歳の4月1日に執り行われる。ただ、その内容は優梨の遠い記憶の物とはかなり異なるようだ。


「そう。『成人の儀』はその名の通り、成年を迎えたことを祝福する儀式ね。そして『成長の儀』は満18歳で行う儀式よ。聞いたことある?」

「ん~……そういえば俊哉さん(後見人の方)がやるかどうか18歳までに考えてくれって言っていたような……」

「その様子だとあまり考えていなさそうね」


 考え込む優梨に君枝は苦笑した。


「成長の儀はね、成人にはなっていないけれどもう子どもでもないこと、もう十分身も心も成長したということを示す儀式なの。それを受けると役所から証明書がもらえるの」

「証明書?」

「そう。その証明書があると未成年の内は保護者の許可が必要なこと……例えば、家を借りたり一部の仕事に就いたり、それこそギルドの登録とかが自分の判断でできるようになるの。もちろん、その証明書があっても未成年の内はできないことも色々あるけれどね。そして親や後見人が持つ権利や義務が無くなるの」

「そうなんですね」

「うん。元々孤児院にいるような子ども向けの制度なのよ。孤児院のほとんどが18歳で出なきゃいけないでしょう? でも、未成年だから色々と枷が多すぎて問題を起こす子が多かったことからできた制度なのよ。そのうち希望を出せば私みたいな後見人がいる人も儀式を受けることができるようになったの。……私は受けようと思う」


 君枝は膝の上の拳をギュッと握った。


「成人するまで今のままでいるつもりだったんだけれど、あなた達に……朔夜くんに出会って決めたの」

「…………」

「多分ね、あの人たちはそのうち自分たちに都合のいい相手と私を結婚させるつもりなのよ」

「えっ……」

「それに気付いたのは去年よ……だから私の後見人になったのよ」

「そんな事できるんですか? 先輩の意思は無視ですか?」

「それができちゃうのよ。……本来なら本人の意思が尊重されるべきなんでしょうけど、最終的に未成年の内は決める権利があるのは本人じゃなく、両親もしくは後見人よ」


 何故俊哉が優梨たちに成長の儀を受けるか考えるように言ったのか優梨は初めて理解できた。この世界では親や後見人の子どもに関する権利が強すぎる。通常ならさほど困らないであろうその権利は、人によっては重い枷となっていた。


(未成年)の私にはこれ以上どうすることもできないと思って、高校を卒業したら遠くに逃げるつもりだった。成人までの2年間だけなら何とかなると思って……」

「…………」

「でも、朔夜くんが『成長の儀』のことを教えてくれて。この儀式を受ければあの人たちが私を縛る権利が無くなるから、後見人であることを縦に好き勝手できなくなるって。もちろん遠くに行く必要もないって言ってくれて……」


 優梨は朔夜がどうして君枝にそのことを教えたのか分かったような気がした。


「(朔夜の事だから、俊哉さんに言われた後すぐに儀式について調べたんだろうなぁ)」


 君枝と出会って過ごすうちに、きっと彼女の話を朔夜も聞いたのだろう。朔夜は君枝を失わないために、彼女が知らなかったその儀式のことを教えた。自分たちは受けるつもりはなく、情報として知っていたに過ぎないその儀式は思わぬところで君枝の助けとなった。

 ある意味この儀式は後見人との縁を切ることを意味する。成人ほどではないにしろ、自由が増える分責任も増える。しかし、彼女のように意思を無視した行いや理不尽な扱いから逃げるには最善の策だった。


「――すぐじゃないけれど、きっといつか優梨ちゃんたちとたくさん関わるようになると思うの……その頃には優梨ちゃんたちの“秘密”を教えてほしいな」


 不意に聞こえてきた言葉に優梨は目を見張った。思わず君枝に振り向くと君枝は苦笑していた。


「……これはね、私だけじゃなくてあなた達を大切に想う皆が願っていることよ。特に、今日ここに呼ばれている私たちはね」

「っ…………」

「優梨ちゃん達が何か大きな“秘密”を抱えていることは解っているの。それがあなた達にとって簡単に話せないことも理解できている。きっと、今私が優梨ちゃんに話したことよりもずっと複雑で、それを打ち明けるには想像以上の勇気がいるんだろうなって……」

「…………」

「その秘密がどんなことなのか全く想像できないけれど、私たちはそれを受け入れる覚悟ができているよ。もしかしたら最初は驚くかもしれないけれど、今までのあなた達のことを思えば、それだけでその全てが無かったことにはならないよ。……無かったことにできないくらい、今の私たちはあなた達が大切になったから」


 優梨は唇をギュッと固く結んだ。そうしなければ、折角の化粧が崩れてしまいそうだから。


「だから、ね? 私たちは待っている。あなた達が話せる勇気が出るその時まで……ずっと待っている」


 膝の上で震える優梨の手を君枝が優しく握りしめた。


 申し訳ないと思った。ここまで自分たちのことを想ってくれているのに、それに応えられないことが……

 君枝だけじゃない。澄香も鈴音も侑哉だって同じように待っているのだろう。そして、ひかる達ファンクラブ会長やエリカ、志芭に雅樹と仲が良い治士だってそんな風に想ってくれているのだろう。

 こんなにも大切に想われているのに、その勇気が出ないことを優梨はただ申し訳なく感じていた。


「――君枝先輩」

「うん?」

「きっといつか、先輩に打ち明けるのは朔夜だと思います。……長くかかるかもしれませんが、その時まで待っていてください」

「……もちろん」


 微笑む君枝を見て、優梨はその時が来てももしかしたら大丈夫かもしれないと感じた。他の皆も同じだといいなと優梨は願わずにはいられなかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 全員の着付けが終わると、優梨たちは店を後にした。中央広場に向かうと、すでに慶人たちはそこにいた。


「……待ち合わせ場所選び、失敗したかな?」


 優梨の呟きに葵たちも無言で頷いた。

 慶人たちは全員、黒か紺を基調にした羽織袴姿だ。全員長身でスタイルも良いのでよく似合っている。おまけに系統の違う美形揃いで、芸能人でもいるのかと思うくらいの人集りができている。彼らに群がっているわけじゃないが、遠巻きに見つめたりカメラを向けたりしている人がいる。

 こんな状況にもかかわらず平然と優梨たちが来るのを待っているのだから、慣れとは恐ろしいと優梨は思った。


「どうやって近づこうかな……あっ、気付いた」


 どうしようかと悩んでいると、侑哉が優梨たちに気付いた。侑哉は慶人に耳打ちし、慶人もこちらを振り向いた。他の皆にも声をかけて慶人たちは向かってきた。その際に人波が綺麗に左右に分かれるのは圧巻だった。


「お待たせ」

「平気だ。もう行けるか?」

「うん」


 優梨と慶人がそう言い合う。


「神社はここから近くだが少し歩く。全員、逸れるなよ」


 慶人はそう言うと澄香の手を取った。それを皮切りに自然とペアができていく。


「よく似合っているな」

「……ありがとう、嬉しい」


 慶人に褒められ、澄香は顔を綻ばせた。


「君枝さん、着物姿も素敵ですね」

「ありがとう……朔夜くんも素敵ね」


 君枝も嬉しそうにしている。


「可愛い着物だな。鈴音によく似合っている」

「……ありがとうございます」


 鈴音は一瞬驚きつつも、微笑みながら礼を言った。


「葵、今年も可愛いね。髪型も似合っているよ」

「ありがとう! 誠史くんもカッコいいよ」


 褒められて嬉しそうにしながら葵は誠史と腕を組んだ。


「姫さんは着物も似合うんやなぁ。綺麗やし、可愛えし、言う事なしやで」

「あ、ありがとう……」


 侑哉は咲緒理の手を取りながら褒め、咲緒理は照れたように微笑んだ。


「綺麗だよ、紗奈」

「雅樹くんもカッコいいね」


 雅樹は照れつつもまっすぐ紗奈を見つめながら言い、紗奈も嬉しそうにしている。

 そんなペアそれぞれのやり取りを優梨は少し離れたところから眺めていた。


「(みんな嬉しそうだなぁ……いいなぁ)」


 葵たちの嬉しそうな表情に微笑ましく思いつつも少しだけ羨ましかった。優梨から少し離れたところにいる匡利に視線を向けるが、匡利も他の皆のやり取りを眺めているばかりだった。


 逸れないようにとそれぞれが手を繋いだり腕を組んだりしながら歩き始めた。優梨も一歩遅れて歩き出した。履き慣れない草履でいつもよりゆっくりだ。


「――大丈夫か」


 足元ばかり気にして歩いていたら、いつの間にか側に匡利がいた。皆より少し遅れる優梨を匡利は立ち止まって待っていた。


「う、うん。大丈夫」


 優梨が返事をすると匡利は優梨に合わせてゆっくりと歩き出した。気遣ってくれているのだと分かり、優梨は少し嬉しくなった。


 神社近くまで来ると、参道は人で溢れていた。ぶつからないように避けて少しずつ前に進むが、さすがに逸れそうだった。かろうじて背の高い慶人たちの頭が人波から飛び出ていて、それぞれの大体の位置は分かる。それでも少しずつ距離が空いてきた。


「(皆、お互いが逸れないので精いっぱいだよね!)」


 最終的に向かう場所は同じなので、転んだりしないように気を付けながらなんとか追いかけるしかないかと思い始めた時だ。人の流れに逆らい、避けながらこちらに向かう人影があった。


「やはり流されたか」

「あ、匡利」


 目の前まで来ると匡利は一息ついた。


「どんどん気配が離れるから何かあったかと思った」

「ご、ごめん。うまく進めなくて……」

「何もないなら良い。鳥居の側で一度慶人たちと合流する」

「分かった」


 そのまま向かおうとすると、匡利が手を差し出した。優梨はそれを見て首を傾げる。


「……そのままじゃまた逸れるぞ」

「あ、はい……」


 内心ドキドキとしながら匡利の手を取る。その手をしっかり握ると匡利は歩き出した。周りの様子を見つつも、時折優梨の様子を伺いながら進んでいく。優梨の歩調に合わせて強すぎない力でその手を引いた。優梨は手に伝わる温もりに嬉しさを噛み締めた。


 しばらくすると鳥居が見えてきて、人集りから離れた場所に慶人たちが待っていた。


「優、大丈夫か?」


 2人が来ると慶人が聞いてきた。


「うん」

「悪い。思ったよりも人が多くて、気付いたらお前を見失った」

「匡利が気付いてくれたから大丈夫だよ」

「そのまま優は匡利といろよ」

「うん」


 一息つくと、再び人の流れに乗って鳥居をくぐった。そのまま拝殿に向かう。今度は匡利と手を繋いだまま、慶人たちの後をしっかりついて行くことができた。人波の端の方を歩いているから周りを見る余裕があった。

 拝殿と参道から外れた場所にはいくつもの屋台が並び、参拝を終えた人たちが楽しそうに買い物をしている。優梨たちも参拝の後に何か買う予定だ。

 途中の手水舎で手などを清めた後、拝殿でお参りだ。順に並んで優梨は葵、誠史、匡利と一緒にやる事になった。鈴を鳴らし、用意していたお賽銭を投げ入れる。深いお辞儀を2回して、2回手を打つ。それから手を合わせてお祈りをした。


「(どうかこの1年もよい年になりますように……)」


 思うことは色々とあったが、全てをこの願いに込めた。お祈りが終わるともう一度深くお辞儀をした。次の人のために素早くそこから退き、優梨たちは拝殿の近くで集まった。


「この後どうする? おみくじでも引く」

「いいね」

「俺は遠慮する。どうせ引いても同じだ」

「慶人くん、いつ引いても全部大吉だもんねぇ」


 よほどの豪運の持ち主なのか、慶人はこれまで大吉以外のおみくじを引いたことがない。それが続くと、いつしかおみくじそのものを引くのをやめていた。

 結局、優梨たち女子だけが引いて慶人たちはそれを眺めることにした。


「やったぁ、大吉だ」

「私もよ」


 大吉を引いたのは葵と君枝だ。2番目に良い吉を引いたのは紗奈と澄香と鈴音、次の中吉が優梨と咲緒理だ。概ね皆良いものが引けたので良かったと優梨は思った。


「えっと、内容は……」


 優梨のおみくじの内容は中吉らしく良いことが多く書かれているが、中には気を付けた方がいいというのもあった。その中で気になるのがあった。


「(……『恋愛。困難だが、己の気持ちに正直であれ。さすれば吉となる』……どういうこと?)」


 ふと、以前学園祭で葵が占った時の「水晶玉のお告げ」を思い出した。あれもほぼ同じようなことを言っていた。


「(あれってダンパで終わったわけじゃないの……?)」


 胸騒ぎがして気持ちが落ち着かない。無意識のうちに匡利に目を向けていた。


「……どうした」


 優梨と目が合った匡利が聞いてきた。ハッと我に返り、優梨は首を振った。


「何でもない……」


 優梨はもう一度おみくじを見つめた。


「(……何もなければいい。あったとしても、アオやこのおみくじの言う通り、自分に正直でいればいいんだ……)」


 そう自分に言い聞かせ、優梨はおみくじを畳んでカバンにしまった。

 その後、優梨たちは屋台でお昼代わりに色々と買った。その間に優梨はおみくじのことをすっかり忘れて楽しんだ。

 神社でのやる事が終わるとギルド街に戻った。ギルド街ではあちこちで初売りをしていて、優梨たちはそこも楽しんだ。

 あと少しで夕方という時間になると店に戻った。優梨たちは荷物だけ受け取り、侑哉たちはその店で着替えた。中央広場で集まり、そこで別れることにした。


「今日は誘ってくれておおきにな。天宮」

「ありがとう」

「ありがとう、天宮くん」

「ありがとうございました」


 侑哉から順に君枝たちがお礼を言う。


「俺らも楽しめた。誘いに乗ってくれて礼を言う」

「また学校でね」


 それぞれ別れの挨拶をして帰路へとついた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 家に着くと、優梨たちは着物姿のまま夜の支度を始めた。今年は俊哉が元日から来られることになって少し張り切っていた。優梨たちが厨房で食事の用意をしている間、慶人たちはテーブルセッティングや俊哉が止まる部屋を用意してくれることになった。

 優梨たちは紐でたすき掛けをして袖をまとめ、早速作業に取り掛かった。

 ローストビーフの仕上げをして、薄く切った後は大きな皿に盛り付けた。おせちは人数分の皿や器に少しずつ盛り、残りは大きな皿や器にそれぞれ盛った。本当なら重箱に盛り付けたいが、量が量なので毎年こうしている。

 お雑煮は餅を焼いてお椀に入れ、味をつけた2番出汁で軽く煮た具材を上から盛り付ける。つゆを上からかけて飾り切りしたユズと結び三つ葉を浮かべた。

 出来上がったものを順に食堂に運び終わると、慶人たちにつられて俊哉がやってきた。


「こんばんは」

「俊哉さん! こんばんは」


 俊哉を席に案内し、優梨たちもそれぞれの席に着いた。


「明けましておめでとう。今年も招いてくれてありがとう」

「明けましておめでとうございます、俊哉さん。今年もよろしくお願いします」


 慶人が代表して言うと、俊哉は微笑んで頷いた。


「まずは食べようか。今年も優梨たちが頑張ってくれたのだろう? ありがとう」

「今年も美味しくできているといいんですが……」

「見た目だけでも十分美味しそうだよ。じゃあ、いただきます」

「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」


 そこからは思い思いに食べ進めた。今年のおせちもお雑煮も皆から好評だった。中々の重労働だったので、満足してもらえて良かったと優梨たちは安堵する。

 食事をある程度食べると、俊哉からお年玉が配られた。順に名前を呼ばれ、俊哉から直接受け取る。今回初めてもらった紗奈は、予想よりも厚い祝儀袋のお年玉に目を丸くした。


「えっ、なんかやけに厚くない……?」


 席に戻った後、隣の優梨に小さな声で聞いた。


「厚いよね。中見るとさらに驚くよ」

「……お年玉って今まで貰ったことないけど、普通多くても1万って思ってたからびっくり……」

「でも、毎年こんな感じだから、有難く受け取って大丈夫だよ」


 苦笑気味に言われ、紗奈はそっと《無限収納(インベントリ)》にしまった。


 食事が終わり、片付けの後に簡単なフルーツを食べながら俊哉と談笑を続けた。それもだいぶ遅い時間に差し掛かる頃にはお開きとなった。俊哉はこの家の2階にある主寝室をこの家で泊まる時に使っている。玄関ホールで俊哉が部屋に向かうのを見送った後、優梨たちも自室へと向かった。

 優梨は部屋に戻ると、衣裳部屋で着ていた着物を脱いだ。何時間も着ていて締め付けには慣れていたが、それでも脱ぐとホッと肩の力が抜けた。一旦部屋着に着替えると、洗濯できるものは洗濯籠に入れ、それ以外は着物を着物用ハンガーにかけた。クリーニングに出してもいいが、そのまま《清浄(クリーン)》をかけて箪笥へとしまった。

 次は鏡台(ドレッサー)の前に座って髪を解き始めた。飾りやピンを丁寧に外し、編み込み部分を解いていく。使っていた飾り類はまとめて専用の棚にしまった。そこまですると、あとはお風呂で化粧や髪についたジェルを落とすだけだ。すべて終えると、湯船に浸かってホッと一息をついた。


「ハァ~……さすがに疲れたなぁ」


 そう独り言つと、上がる湯気を見つめながら考えるのは昼間の事だ。

 君枝の過去の一部に触れ、将来への希望を目にし、自分たちへの想いを知った。


「(……今までだったらきっと考えられなかっただろうなぁ……)」


 ずっと他人を信じられなかった。それが葵たちに出会って仲間がいる喜びを知り、これ以上は何もいらないと思った。でも、ずっと自分の殻に閉じこもるつもりだったのが、いつしか人と繋がりができるようになった。俊哉に続いて龍一が自分たちを受け入れてくれて、僅かな望みが湧いていた。


「――なんて欲張りなんだろう……」


 皆がいればそれでいいと思っていた。それがいつしか“誰か”を求めるようになった。自分たちの秘密を受け入れてもらえたらと望む一方で、秘密を知って拒絶されたらと恐怖するようになった。

 皆がいればそれで良かったから“秘密”を打ち明けなかったのが、これまでの関係が壊れる事への恐怖から打ち明けなくなった。


『私たちはそれを受け入れる覚悟ができているよ』


『あなた達が話せる勇気が出るその時まで……ずっと待っている』


 君枝の言う通り、たくさんの人が同じ思いで待ってくれているのだろう。でも、今の優梨たちにはすべてを信じ切る勇気も、打ち明けることによって起こるかもしれない結果を受け入れる勇気もまだない。


「(それに、君枝さんたちのことを最終的に決めるのは私じゃない。決めるのは朔夜たちだ)」


 遅かれ早かれ“その時”はきっと訪れる。その時、朔夜たちが悲しみの涙を見せる結果にならなければいいと、優梨は願っていた。



この章はこの話で終わりになります。

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