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第77話 クリスマス・ダンス・パーティー 中編

『それでは、これよりフリータイムとなります』


 会場の方からそう言う声が聞こえてきた。


「優梨ちゃん。俺、何か飲み物を取ってくるよ。何が良い?」

「炭酸系なら何でも」

「了解。ここで待っててな」


 志芭は椅子から立つと、側の入り口から会場の中に入っていった。優梨は一息つくと、何の気なしに辺りを見回した。


「(ん……?)」


 今優梨がいる場所はバルコニーの端に当たる。バルコニーは壁沿いに続き、優梨から少し離れた場所で曲がっている。その曲がった先の方から声が聞こえてきた。盗み聞きは良くないと思いつつも、何故か優梨はその微かに聞こえてくる声に引かれた。椅子から立ち上がり、壁に身を寄せるようにして隠れた。そして、角の先をそっと覗いた。


「っ…………!?」


 声を上げそうになって咄嗟に口を抑えた。角を曲がってすぐある休憩スペースに匡利と梨香子がいた。話声は梨香子が匡利に何かを言っている声だった。一体何を話しているのか、優梨は耳を澄ませた。


「――佐塚くん、あまりにも酷すぎるわ!」

「…………」

「ペア練習もほとんどしてくれないばかりか、本番のダンスも1回きり。そればかりか、男子はポケットチーフをペアの女子のドレスと合わせるのが伝統なのに……っ!」

「…………」

「っ、いったいどういうつもり!? 答えてっ!」


 どこか涙交じりに聞こえる梨香子の声に優梨は息を呑んだ。いつもの冷静さはどこに行ったのか、こんな風に声を荒げる姿はさすがに優梨も目にした事はない。優梨からは梨香子の背中しか見えないが、荒い呼吸に合わせて肩が上下しているのが微かに見えた。

 匡利は視線をずっと逸らしていたが、ゆっくりと梨香子の方を見た。その瞳は、優梨も目にした事がないほど冷え切っていた。


「……どういうつもりも何も、お前の目的は十分に果たせているんじゃないのか?」


 どこか冷たい声が匡利の口から発せられた。その言葉には優梨ばかりか梨香子も首をひねった。


「私の、目的ですって……?」

「お前は何のために俺とペアを組んだ」

「何のためにって、あなたと踊りたいからに決まっているじゃない」

「……本当にそうか?」


 梨香子が言葉を詰まらせるのを優梨は感じた。いったい匡利が何を言おうとしているのか、優梨には全く分からなかった。


「……多少なりはその気持ちもあったんだろうな。だが、お前が俺とペアを組んだ目的の大半は、優梨への嫌がらせだろう」

「…………っ!」


 梨香子は息を呑み、言葉を失った。優梨は大きく目を見開き、口を塞いで思わず漏れそうになる声を抑えた。


「ペアを決める時も、優梨が一緒になる授業の練習の時も、そして今日の本番も……。お前は優梨に見せつけ、見下し、優越感に浸ることしか考えていない」

「そんな事……っ」

「お前の優梨に向ける視線、俺が気付いていないと思っていたか?」

「それは……」


 気付いていないと梨香子は思っていた。そこまでの関心を匡利が優梨に向けていると考えようとしなかったからだ。それに反していることに、梨香子は冷や汗が流れるのを感じていた。優梨には見えていないが、顔色も悪くさせている。


「(匡利……気付いていたんだ……)」


 優梨もいくら何でもこればかりは匡利も気付いていないだろうとずっと思っていた。そうでなかったと知り、不思議と胸が熱くなって視界が少しだけ滲んだ。

 そんな2人をよそに匡利は話を続けた。


「それと、お前の周りにいる奴の何人か、優梨に直接危害を加えているな?」

「……っ、そんなの、私は知らな――」


 さすがに誤魔化さなければと思ったのか、否定の言葉を言おうとした。しかし、匡利には通用しなかった。


「知らない、と言うのか? 判明している犯人はいずれもお前を慕っている人間だったぞ。一部は俺も見知っている奴だった」

「っ、でも! 私が頼んだわけじゃないわ!」


 梨香子がそう言うと、匡利はどこか冷ややかな鋭い視線を向けた。あまりないその視線に、目の前にいる梨香子はもちろん、離れた所から見ていた優梨も肩を揺らした。


「頼んではいないだろうが、やったことに対して止めるどころか礼を言っているだろう。一部の者には褒美付きで」

「っ…………!」

「確かに直接は頼んではいないが、お前のやっている事は頼んだも同然だ」


 図星なのか、梨香子の身体が震え出した。さすがに優梨もこれには驚いていた。まさか嫌がらせの犯人に梨香子がそんなことをしていたとは思わなかった。加えて、それを匡利が知っている事も意外だった。

 梨香子が何も言えず俯いていると、匡利はため息を吐いて梨香子から視線を逸らした。


「お前がただ純粋に俺とのダンスを望んでいたのなら、ペアになったのだから俺もそれに応えた。……だが、優梨への嫌がらせが目的である以上、俺はそれに加担する気はない。最低限の義務は果たすが、それだけだ」


 匡利がきっぱりと言い切ると、梨香子はギリッと拳を握りしめた。優梨はなんだかいたたまれない気持ちになり、その場から離れようとした。


「優梨ちゃん?」


 不意に声がして振り返ると、戻ってきた志芭が手にしていたドリンクのグラスをテーブルに置いているところだった。


「そんな所で何しているんだ」

「あっ……」


 何か言おうと口を開きかけたところで、優梨は近づく足音に気付いた。まずいと思い、急いで志芭の側に駆け寄ると、壁の向こうから鬼のような形相で梨香子が現れた。


「汐崎、優梨……っ!」

「ひっ……」

「宮岸?」


 梨香子がいることを知らなかった志芭はもちろんのこと、見たこともない形相と地に響くような声色に優梨は息を呑んだ。梨香子には優梨しか見えておらず、何かをぶつぶつと呟いている。


「あなたが……あなたがいるから……あなたさえいなければ……っ!」


 叫んだかと思うと、梨香子は真っすぐ優梨に向かってきた。あまりの事に咄嗟に動けず、梨香子が手を振り上げたのを目にすると、優梨は目を閉じて身を竦めた。そんな優梨を側にいた志芭が庇うようにして抱きしめた。次の瞬間にはバチーンと激しく痛そうな音が響いた。しかし、優梨と志芭には何の衝撃もなかった。

 恐る恐る目を開けると、顔を青ざめさせて固まる梨香子と優梨たちの間に立つ匡利の姿があった。その様子に、今さっき叩かれたのが匡利なのだと悟った。


「匡利……」

「佐塚、お前……」


 これには優梨も志芭も驚いて声をかけるが、うまく言葉が続かなかった。匡利を叩いてしまった梨香子は涙目になり、顔をしかめた。


「どうして……何故、そんな子を庇うの!?」

「…………」

「佐塚くんはいつもそう……その子ばかりを見て、私に少しも見向きしない。その子に嫌がらせをしたことを責めるのなら、あなたがそうさせているのよ! あなたが、私を見てくれないから……っ!」


 梨香子は涙を浮かべながら叫ぶようにそう言った。その場にいる誰も梨香子に返す言葉が見つからず、しんと静まり返った。聞こえるのは大声を出したことで荒くなった梨香子の息遣いだけだ。


「――何の騒ぎです?」


 不意に声がして、その場にいた全員が聞こえてきた方を見ると、エリカと雅貴が立っていた。


「あなた方、他の皆様は気付いていませんが、そのように騒いではこの場に相応しくありませんわよ」

「まぁまぁ、エリカ。……ところで君たち、フリータイムも半分が過ぎたよ。踊らなくて良いのかい?」


 エリカが苦言を呈すると、それを宥めるように雅貴が声をかけて話を逸らした。

 優梨はチラッと他の3人を見たが、とてもそんな雰囲気ではなかった。どうしたものかと思っていると、志芭がため息を吐いた。


「あのさ、後は俺が引き受けるから。優梨ちゃんと佐塚、一緒に踊ってきたら?」

「えっ?」

「…………」


 突然の志芭の申し出に優梨は目を丸くし、匡利は訝しげに志芭を見た。


「俺はもう疲れて踊れねぇしさ。佐塚も確か1回しか踊ってねぇだろ? 行って来いよ」


 そう言って、志芭は優梨と匡利の背を押した。優梨はチラッと梨香子を見るが、歯を食いしばって俯き加減のまま動く気配はない。次に匡利を見るが、思案顔で何も言わない。最後に志芭を見ると、ニッと笑みを浮かべたかと思うとゆっくりと声に出さず口を動かした。


『クリスマスプレゼント』


 その口の動きを読み取った優梨は、顔をクシャッと歪めて潤む瞳から涙を零さないように必死になった。そんな優梨に志芭は苦笑を浮かべると、匡利に目を向けた。


「行けよ。ここは、お前らがいない方が良いだろう」


 そう言われ、匡利はチラッと雅貴に視線を向けた。その視線に気付いた雅貴は微笑みながら頷いた。


「…………すまない」


 少し思案した後に匡利は、志芭に聞こえるか聞こえないかの声でそう言うと、優梨の手を取った。そのまま優梨の手を引いて歩き、雅貴とエリカに軽く頭を下げてからその場を離れた。

 優梨は一度後ろを振り返るが、梨香子の表情は分からない。一方の志芭は笑顔で手を振っている。そんな志芭に微笑み返し、優梨は匡利に引かれるまま建物の中へと入っていった。


 優梨たちが室内に入り、その姿が人の陰に見えなくなると志芭はまた長いため息を吐いた。


「お前も結構考えなしだな」


 梨香子に向かってそう言うと、梨香子はやっと顔を上げて志芭を睨んだ。


「佐塚を責めたところでお前のやったことに正当性はねぇだろ」

「あなたに何が分かるって言うのよ」

「お前の気持ちは知ったこっちゃねぇけど、優梨ちゃんに手を出したのは間違いだよ。佐塚を手に入れたいと思っていたなら、尚更な」

「何ですって……!?」

「なぁ、あんたもそう思わねぇ?」


 志芭は未だにその場に残っていたエリカに目を向けてそう聞いた。その突然の問いに、エリカはもちろん側にいた雅貴も目を丸くしていた。何かを察したのか、すぐに雅貴は人が近づかないようにするために少し離れて行った。それを確認し、エリカは志芭に向き直った。


「私に言っていますの?」

「あぁ」

「何故私に?」


 エリカが問い返すと、志芭は肩を竦めた。


「俺さ、正直言ってあんたと宮岸って同類だと思っていたんだよ」

「同類?」


 エリカは眉を潜め、もの言いたげに目を細めた。


「そう。あんたは加村誠史を好きで大野ちゃんとライバル関係だ。それに宮岸と優梨ちゃんも同じような関係だ。でも、あんたと宮岸は決定的な違いがあるってこの1か月で分かった」

「…………」

「あんたはさ、受け入れられているんだよ。優梨ちゃんたちにも、大野ちゃんにも、それから加村誠史にも」


 志芭がそう言うと、エリカは不敵な笑みを浮かべた。一方で梨香子は信じられない物を見るような目をエリカに向けた。


「……受け入れられているかどうかは私には分かりませんが、あなたがそう感じたのならそうなのでしょうね」

「確実に受け入れられているよ。それに、あんたはそうなった理由(・・・・・・・)をきちんと分かっているんじゃねぇの?」


 少しの間、志芭とエリカは互いを見つめ合った。そのうち、エリカがクスクスと笑い出した。


「あなた、大した観察眼ですね」

「勘も鋭い方なんでね」


 悪戯が成功した子どもみたいな笑みを浮かべて志芭が言うと、エリカも口元に小さな笑みを浮かべた。それから梨香子に目を向けた。目が合うと、梨香子はキッと睨むようにしてエリカを見た。そんな視線もエリカはどこ吹く風だ。


「あなた、本当に愚かなことをなさいましたね」

「何ですって……っ? 私のどこが愚かだと言うの!?」

「汐崎さんに直接的であれ間接的であれ手を出したこと、佐塚くんの側から汐崎さんを排除しようとしたこと、汐崎さんを追い落とそうとしたこと……その全てです」


 梨香子は言葉がうまく見つからないのか、何か言いたげに口をパクパクとさせていた。すると、エリカはもう一度志芭に目を向けた。


「あなた、あの方々と接する際に心得るべきことは何か、分かりますか?」

「接する際に? さぁ……特に意識した事はねぇからな……」


 志芭は考えるが、特にそれらしいことは思い浮かばなかった。しいて言えば、ファンクラブの規定だ。


「……『対象者の友人・家族には異性・同性関係なく、危害を加えてはならない』」

「ファンクラブの規定ですね。端的に言ってしまえばそういう事です。この場合、あてはまるのは『家族』です」

「っ、でも! 佐塚くんとあの女は、実際は家族でも何でもないじゃない!」


 梨香子がそう叫ぶように言うと、エリカは非難するような視線を向けた。


「そう考えている時点であなたは佐塚くんに選ばれないのですよ」

「何を根拠に……っ!」

「彼らがシェアハウスで生活している事は当然ご存じでしょう? そして、彼らがお互いを『家族』と呼んでいる事も」

「そうは言っても、所詮シェアメイト同士の赤の他人じゃない」


 さも当然と言わんばかりの言い草に、エリカは顔をしかめた。もはや軽蔑の視線を梨香子に向けている。


「……本当に愚かですこと。だから間違うのですよ」

「なっ……いくらあなたでも、この私をこれ以上愚弄したら承知しないわよ!」

「……あなたこそ私を誰だと思っているのです。あなたのお父様がどこと取引しているのか、お忘れになって?」

「それは……っ」


 梨香子は悔しそうに拳を握りしめた。皆まで言わずとも、エリカの言う意味を理解したらしい。それが分かると、エリカはため息を吐いた。


「……本当に、きちんと理解していない方々が多くて、加村くんたちも大変ですわね」

「あんたはちゃんと分かっているって言うのか?」


 志芭が聞くと、エリカは当然と言わんばかりの笑みを浮かべた。


「さすがに最初は分かりませんでした。でも、彼らを見ていればすぐに理解できましたわ。彼らは本気でお互いを『家族』だと思っているのだと……その絆は本当の家族(・・・・・)以上なのだと……」

「…………」

「私はこれでも貴族の娘です。人と人の繋がりを理解し、自分がどのように振舞うべきか考えるよう心得ているつもりです。……だからこそ、彼らのその絆は何よりも尊重すべきなのだと理解しました」

「……たとえ理解したところで同じじゃない。あなただって加村誠史を手に入れたいのではなくて? だからこそ、いつもあんなに大野さんと争っているじゃない!」


 エリカは頭が痛いと言わんばかりにこめかみを一瞬押さえ、ため息を吐いた。


「えぇ。確かに争っていますわ。ですが、少なくともあなたのような姑息な真似も卑怯な手も使っていません。そのようなことをして加村くんが手に入っても、私は少しも嬉しくありませんもの。それに……あなたのようになりたくありませんから」

「な、んですって……!?」

「理解していないようですがあなた、今回の事で佐塚くんがあなたに振り向くことはおろか、これから先の関係も全て潰えましたよ」


 梨香子は眉を潜め、エリカの言葉の真意を探ろうとした。側で聞いている志芭も理解できないのか首を傾げている。


「……彼らの絆は本当に強固なもので、互いが何よりも大切なのです。逆に、他人へは本当の意味ではなかなか心を開きません。恐らく、彼らに本当に心を開いてもらえた方はごく僅かでしょうね」

「…………」

「彼らの何がそうさせているかは、さすがに分かりませんわ。ですが、心を開いてもらえた時、それは彼らと“一生の関係”を結べたことを意味するのだと、私は考えています」

「一生の、関係……」


 一瞬、志芭の脳裏には先ほどの優梨との会話が浮かんだ。


『私は、あなたの恋人にはなれないけれど、これからも良い友人でいてくれませんか?』

『これで終わりじゃねぇんだな?』

『うん。これからも友人として、良い関係を築いていきたいな』


 エリカの話を聞き、初めてこの会話の重みを理解した。

 確かに心の全てを開いてくれたわけじゃない。それでもいつかは開いてもらえるかもしれない。その先の関係はどうなるのか……。そうなるための最初の“権利”を自分は得たのだと、志芭は気付いた。

 なんとも言えない高揚感が胸に広がり、志芭は思わず自分の胸元をギュッと握りしめた。その様子に、自分の言いたいことを志芭は理解したのだとエリカは分かった。そして、睨むように見つめてくる梨香子に向き直った。


「どうやらあなたも多少は理解できたようですね?」

「っ…………」

「あえて言いますが、確かに私は加村くんをお慕いしている者同士として大野さんと争っています。加村くんがどちらを選ぶのか、それが分かる時まで正々堂々と争います。ですが、彼女が加村くんの『友人』であり『家族』であることには何の異論もありません。もし、この先加村くんが大野さんを選んだ時は潔く身を引く心積もりです」

「…………」

「そして、その後は彼らの『友人』として関係を築いていきたいですわ。そのために、私は今から加村くんたちとの関係を築いているのです」

「…………っ」

「あなたはその『友人としての関係』を築く権利すら失ったのですよ。己の欲望ばかりで彼らの関係の本質を見誤り、汐崎さんに手を出したのですから……」


 エリカの話に梨香子は絶望したように顔色を失くした。フラフラと足元がおぼつかなくなり、側にあった椅子に座り込んだ。そのまま俯き、顔を上げようとしなかった。その様子を少し眺めると、エリカは室内へと入っていった。志芭もその後を追って中に入った。

 中に入ると、何人かが踊っている最中だった。その中には優梨と匡利ももちろんいた。優梨の表情はとても嬉しそうだ。それを目にして少しだけ切ない気持ちが湧いたが、不思議と辛くはなかった。


「あなたもなかなかお人好しですね」


 不意に横にいたエリカがそう言った。的を得たその言葉に、志芭は肩を竦めて苦笑するしかできなかった。


「俺もそう思うよ。……でも、あの子が幸せそうにしているならそれで良い」

「……あなたも、彼らに受け入れられたのではないですか?」

「そうなら良いな。……なぁ、あんたはさ、どこまで分かっているんだ? 優梨ちゃんたちの事」


 そう聞くと、エリカはチラッとだけ志芭を一瞥して視線をホールに向けた。


「ほとんど何も知りませんわ。彼らは非常に秘密主義ですから」

「……だよなぁ」

「ですが……」


 エリカの言葉に続きがあり、志芭はもう一度視線を向けた。エリカは視線を合わせようとはしなかった。


「恐らく私たちが想像でき得る以上の事を抱えているのだと思います。想像を絶するような、何かを……」

「…………」

「もちろん、私はそれが何であろうと加村くんたちが話してくださった時は受け入れる心積もりです。その覚悟は、私以外にも何人かはしているのでしょうね」


 そう言ってエリカが向ける視線の先には、咲緒理の隣にいる沖田、雅樹の隣にいる矢尾板治士、優梨と葵のファンクラブ会長であるひかると智壽、そして少し離れた所で様子を伺っている雅貴がいた。他にも目を向けた人は数人いるが、その誰もが優梨たちを心から想う人たちだった。


「あなたはどうですか?」


 エリカに聞かれ、志芭はエリカの方を振り向いた。その表情は真剣そのものだった。エリカを見つめ、志芭は匡利と踊る優梨を見た。答えは考えるまでもなかった。


「――俺もだよ」


 そう言うと、エリカは満足そうに笑った。


「きっと彼らを通して、あなたとの関係もこれから繋がり続けるのでしょうね。志芭尚樹さん」


 エリカはそう言い残し、離れた所で待つ雅貴の元へ戻って行った。エリカの言葉に志芭は目を見張り、しばらくして笑みが零れた。


「俺の名前、知ってたのかよ。……それも悪くないな、白鳥ちゃん」


 さすがに恐れ多くて呼べなかったその名を笑い交じりに呟いた。エリカのおかげで、優梨たちを見て切なくなった気持ちがどこかへ行ってしまった。


「(一生の関係、か……目指すよ、俺は。だから、君は君の幸せを目指せよ。優梨ちゃん――)」


 曲が終了し、匡利と別れてこちらに向かってくる優梨を笑って見つめながら、志芭はそう願っていた。


ここまで読んで下さりありがとうございました!


今回はエリカが大活躍(?)ですね。

文中でエリカが語る信条は、連載を始めた頃から意識していた事です。

今後この想いがしっかりと彼らに伝わるように、頑張って書きたいですね。


ダンス・パーティー編ももう少しで完結です。

もう少しお付き合いくださいませ。



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