第76話 クリスマス・ダンス・パーティー 前編
やっと本番……!
優梨たちが会場入りをしたのは割と最後の方だった。そのため、会場中から注目を浴びた。同時に驚きや感嘆の声も聞こえてきた。また、男女ともに悔しげな声も交じっているのに気付いた。
「(あぁ。皆すごくかっこいいし、可愛いもんね)」
悔しげな声の理由に予想づいた優梨は少し苦笑していた。
そんな優梨たちに近づく1組のペアがいた。
「皆さん、ご機嫌よう」
「エリカ」
エリカだった。エリカはシャンパンゴールドのドレスにアップスタイルの髪型だ。身に着けているアクセサリー類も優梨たちに負けず劣らずの豪華さだ。どれもエリカの雰囲気によく似合っていた。
「あっ」
エリカのペアの相手を見て志芭が声を上げた。優梨もその人には見覚えがあった。
「やぁ、志芭」
「部長」
彼は西園寺雅貴。サッカー部の部長で、匡利と志芭の先輩だ。前生徒副会長でもあるので、その名前と顔を知らない人は滅多にいないであろう人だった。
エリカは葵と誠史の元へ向かい、雅貴は優梨と志芭のもとに来た。
「汐崎さん、初めまして。西園寺雅貴です。うちの志芭が世話になっているね」
「いえ……」
声をかけられ、優梨は咄嗟に頭を下げた。
「……それに、マネージャーが大分迷惑をかけているようだね」
そう言われ、優梨は驚いたように顔を上げて雅貴を見た。
「あ、の……何故それを……?」
「俺、大野葵さんのファンクラブ会長の松井智壽と親友なんだ。それに彼は男子弓道の部長だろう? あと、君のファンクラブ会長をしている天堂ひかるとも親しくてね。だから、君の話をよく聞くんだよ。色々とね……」
「……そう、ですか」
「君に一言謝りたくてね。エリカに頼んで連れてきてもらったんだ」
「エリカに……」
チラッとエリカの方を見ると、葵と誠史だけでなく咲緒理や紗奈たちを交えて何やら楽しげに話している。それでもこちらを伺うように時々視線を向けてきている。
「本当にすまないね。俺はもう引退の身だから具体的には何もできないけれど、何かあれば遠慮なく言ってくれて構わない。それなりに人脈もあるからね」
「……ありがとうございます」
「志芭、ペアになったんだからパートナーはしっかり守るんだぞ。ただし、足にだけは気を付けるように」
「もちろんです」
志芭が力強く頷くと、雅貴は微笑みを浮かべてその場から離れた。エリカに声をかけ、彼女を連れて移動していった。2人の姿が見えなくなると、志芭が長く息を吐いた。
「あぁ、びっくりした……」
「そうだね」
「まさか部長が声をかけて来るなんてな……意外と優梨ちゃんとの関係も近かったし」
「うん。松井先輩ともひかるさんとも繋がりがあるとは思わなかったな。あとエリカか」
さすがに匡利と志芭との繋がりは分かっていたが、その3人までは優梨も知らなかった。
「そもそも、エリカと西園寺先輩の関係って何なんだろう……?」
「さぁな。……もしかしたら、石井と大和あたりが知っているんじゃねぇの?」
「……確かに」
帰ったら朔夜と玲の2人に聞いてみようと優梨は心に決めた。
エリカたちと入れ替わるようにやって来たのは慶人とそのパートナーだ。
「よぉ。お前ら、よく似合っているな」
優梨たちのドレス姿を見て、慶人はにこやかに言った。慶人の言葉はもちろん嬉しかったが、隣にいるパートナーの子が優梨たちは気になった。
「紹介するぜ。俺のペアの澄香だ」
「く、日下部澄香です……よろしくお願いします」
澄香はたどたどしくも優梨たちに自己紹介をした。とても可愛らしい雰囲気で、着ているドレスの愛らしい感じがよく似合っていた。
澄香はすでに分かっているかもしれないが、優梨たちも澄香に倣って自己紹介をした。
「もしかしたら、これから何かと関わると思うから、よろしくね」
誠史が最後にそう言うと、澄香は少し驚いたような顔をしていた。その表情が、何だか随分前の自分たちと重なって優梨たちは笑みを零した。
「悪いが、一度生徒会だけで集まる。その間、澄香を頼むぜ」
慶人はそう言って、優梨たちのもとに澄香を残して行ってしまった。
「皆、集まっているな」
「朔夜、玲」
慶人が行った直後に、今度は朔夜と玲の2組がやって来た。
「紹介する。俺のペアの萩原君枝さん」
まずは朔夜がパートナーである君枝を紹介した。
「咲緒理と沖田は、学園祭実行委員ですでに会っているな」
「うん」
「せやな」
「2人とも、久しぶりね。皆もよろしく」
咲緒理と侑哉に声をかけ、次に優梨たちにもにこやかに君枝は声をかけてきた。1歳しか違わないが、それだけでもどこか大人っぽい雰囲気があった。
「次は俺だな。俺のパートナーの藤崎鈴音だ」
「は、初めまして。鈴音です……」
いつか優梨が話していた通り、とても可愛らしい大人しい感じの子だった。黒髪が似合い、大和撫子とはこういう子のことを言うのだろうと優梨は思った。
「すまないが、俺も生徒会の集まりに行く。その間、鈴音を頼むな」
玲がそう言って離れて行くと、鈴音はどこか不安そうだった。
「優梨ちゃん」
志芭に声をかけられて振り向くと、志芭が視線を周りに向けた。それにつられるようにして見ると、先ほどから集まっている視線の一部が、その場に残された澄香と鈴音と朔夜の横に立つ君枝に向かっている事に気付いた。
「(あー……だから、慶人と玲はわざわざここに連れてきたのね)」
葵たちの方に目を向けると、葵たちもすでに気付いている様子だった。優梨たちは澄香と鈴音と君枝を挟むように立ち、他愛もない話をした。誠史たち男子はその後ろに立ち、話に加わりつつも周りに目を向けていた。
それからしばらくして、パーティー開始の挨拶があった。話すのは城徳学院の生徒会長だ。その後ろに城徳学院の生徒会メンバーが立ち、横には藤永学園の生徒会メンバーである慶人たちが立っている。もちろんその中には、匡利と梨香子がいる。
梨香子は紫のドレスに、いつもはストレートの黒髪を巻いてハーフアップにしている。元々美人だと優梨は思っていたが、今は更に艶やかな雰囲気もあるように見えた。
そして、匡利は慶人たちと同じように黒の燕尾服を着ている。ただ、彼の胸元のポケットチーフの色は白だ。
「(やっぱり匡利もかっこいいな……できたら、少しでも側に行って話したいな……)」
優梨がそんな風に思っている中、賞に関しての説明になった。
『――なお、今夜のダンス・パーティーには事前に知らせているように様々な賞があります。主に投票制で、こちらが知らせる終了までに必ず投票をしてください。投票箱は会場のいたる所にあります。さらに現在ペアを組んでいると思いますが、必ず1曲は踊ってくださいね。1曲踊ってもらえれば、後は何曲踊っても構いません。何なら、全曲踊って下さっても結構ですが、明日は筋肉痛で動けなくなることを覚悟してくださいね』
そう言うと会場中から笑いが起き、優梨もクスクスと笑っていた。
『パーティーの後半はフリータイムです。その時間はペアに関係なく、好きなお相手と踊って構いません。友達同士で踊るのも、いい思い出になると思いますよ。また、会場には様々な料理とドリンクを用意しています。そちらもどうぞ楽しんでください。それでは、お待たせいたしました。クリスマス・ダンス・パーティーを開催します!』
生徒会長の言葉と同時に音楽が流れ始めた。すると、会場のあちこちから人がホールに出てきてダンスを踊り始めた。優梨たちは、ひとまず1曲目は見送ることにした。雰囲気を知りたいのと、まだ慶人と玲が戻っていないからだ。
「あっ、戻ってきた」
葵の声に振り返ると、慶人と玲がこちらに向かって来ていた。
「なんだ。お前らも踊らないのか?」
「雰囲気をまず味わおうと思ってね~」
慶人が聞くと、近くにいた葵が答えた。その言葉の意図に気付いたのか、慶人は「ありがとうな」と言っていた。
「とりあえず、各々好きなように動くか」
慶人がそう言うと、優梨たちは頷いてそれぞれ動き出した。
「葵、あっちの方に行ってもいい? 澤田がいるんだ」
「うん」
「姫さん、向こうに行ってみようか」
「そうだね」
「紗奈、ナオの所に一度行っても良いか?」
「うん、良いよ」
「澄香。向こうの方が人少ねぇから、行くぞ」
「うん」
「君枝さん、俺たちはあちらに行きましょう」
「そうね」
「鈴音、一度ドリンクでも飲んで落ち着こう」
「は、はい……」
それぞれ男子の方からパートナーに声をかけ、あちこちに分かれて行った。優梨としては、慶人と朔夜と玲の3人が自分たち以外の女の子に優しく接している姿が新鮮だった。
「(……本当に大事な人が見つかったんだね。みんな)」
なんだか微笑ましく感じ、思わず頬が緩みそうだった。
「優梨ちゃん、俺らはとりあえずここにいるか?」
「うん、そうだね。あっ、曲が変わった」
1曲目が終わり、次に移った。ホールで踊っていた何組かが入れ替わり、その場にまだ残るペアもいた。そして、その入れ替わった中に匡利と梨香子がいた。2人を目にした途端、優梨の胸がドキリと鳴るのを感じた。
匡利と梨香子のペアは、相変わらずお手本のような洗練された踊りだった。その途中で匡利の肩越しに優梨は梨香子と目が合った。すると、いつもと同じフフンッとどこか優梨を下に見て小馬鹿にした笑みをした。
「うわぁ。宮岸の奴、感じ悪ぃな……」
志芭も目にしたのか呆れたような声を上げた。
「いつもあんななのか?」
「うん、まぁ……」
言葉を濁して返事をすると、志芭はため息を吐いて肩を落としていた。
「やっぱあの2人は上手いな……佐塚の奴はメチャクチャ仏頂面だけど」
「……そんなに仏頂面?」
なんとなく匡利の顔を見られていない優梨は、志芭の言葉に首を傾げた。
「あいつ、いつも表情は硬ぇけど、今日はいつも以上に硬ぇ気がする」
「そう……」
どうかしたのかと思っていると、それほど長くない曲なのかもう終わった。同時に何組かがホールから捌けていき、その中には匡利たちもいた。優梨は心なしか梨香子の表情が不満げのような気がした。
「優梨ちゃん、次踊ろうか」
「うん」
次の曲になる前に優梨は志芭に引かれてホールに出た。見ると、葵や咲緒理たちも一緒だった。葵たちと目があうと、嬉しそうに軽く手を振られ、優梨も振り替えした。
そして、曲が流れ始めて一斉に踊り出す。優梨と志芭は、慶人やエリカのおかげでかなり上達し、彼らからもお墨付きをもらっていた。思っていた以上に上手く踊れていることに、優梨は自然と笑顔になった。
「こうして踊れると、やっぱり楽しいね」
「あぁ。天宮には本当に感謝だな。……練習中は鬼だとしか思えなかったけど……」
「アハハ……」
志芭の若干引きつった笑みに優梨は苦笑いしかできなかった。側で見ていた優梨も内心「鬼だ……」と思っていたことは2人には内緒だ。
次の曲に移ってからも優梨たちはその場に残った。今度はアンジュとアレックスのブラウン兄妹とエリカたちのペアもいた。アレックスと目が合い、手を振ってきたので優梨も振り返した。
エリカたちはさすがとしか言いようがないダンスだった。文句のつけどころのない完璧な踊りで、会場中から称賛の声が上がった。それに負けず劣らず、アンジュとアレックスもさすが兄妹と思うほどの息がぴったりなダンスだった。見目麗しい2人なので、尚のこと視線を集めた
「あの2人って兄妹だっけ?」
「うん。しかも双子だよ」
「金髪の美男美女の双子ペアか」
「うん。しかもダンスもすっごく上手だね」
「……ベストカップルはあの2人かもな」
「確かに」
2人はアレックス達を目にしながらそう話していた。
優梨たちは全部で4曲ほど踊った。段々ドレスを着ながらのダンスに慣れて行き、後半の方では本当に楽しんで踊れて始終笑顔だった。さすがに連続で踊ると少し疲れ、4曲目が終わる所で2人はホールから捌けた。
かなり体が温まっていたので、少し冷やそうと優梨たちはバルコニーに出た。冬空の下だが、建物全体に魔法がかけられているのか、外に出ても涼しい程度で寒くはなかった。バルコニーは建物をグルッと囲うように繋がっていて、所々で外側に半円状に出っ張っている。その出っ張り部分は休憩スペースなのか、テーブルと椅子が用意されている。すぐ側にあったスペースの椅子に優梨は腰を下ろした。
「ふぅ……いっぱい踊ったね」
「そうだな。さすがに少し疲れたか?」
「うん。でも、すごく楽しかった」
「そうか……」
優梨の向かい側に座る志芭は、ジッと優梨を見つめてきた。その視線に、優梨は首を傾げた。
「志芭君?」
「いや……こうして見ても、やっぱり綺麗だな。優梨ちゃん」
「フフッ、ありがとう。志芭君はたくさん褒めてくれるから嬉しいよ」
「本当の事だからな。……なぁ、優梨ちゃん。本当にありがとうな」
急な志芭のお礼に優梨は目を丸くした。志芭は穏やかな笑みを浮かべ、優梨を見つめた。
「今回、俺とペアになってくれて。……こんな綺麗な優梨ちゃんと一緒に踊って、楽しく過ごせて、今俺スゲェ幸せなんだ」
「志芭君……」
「最高の思い出になったよ。……この先さ、俺が誰か別の人を好きになって付き合ったとしても、今日の事は一生忘れねぇと思う。それくらい、スゲェ楽しくて幸せだった。本当に、ありがとう」
そう笑顔で言う志芭の言葉に、優梨は胸がギュッと締め付けられた。
「……私こそ、ペアになってくれてありがとう。志芭君がとても優しいから……ずっと笑顔でいてくれるから、私も笑顔で楽しむことができた」
「優梨ちゃん……」
「だからね、志芭君。……私は、あなたの恋人にはなれないけれど、これからも良い友人でいてくれませんか?」
優梨がそう言うと、志芭は驚いていた。それからすぐに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「これで終わりじゃねぇんだな?」
「うん。これからも友人として、良い関係を築いていきたいな」
「……やっぱり今日は最高の日だよ」
優梨と志芭はお互いに手を出し合い、固く握手を交わした。そして、どちらからともなく笑い合っていた。
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