73話 対面
大きな扉がある。豪華な装飾が施され、これひとつあれば、一生暮らしていけるのではないか。芸術的、財産的に見積もったとして、この大きな扉の価値を測ることは難しいだろう。
中からは、先程とは比べ物にならないほど、強烈な殺気を感じる。いや、殺気とは少し違う。しかし、誰も感じたことのないこの感覚は、敵が人間ではなく創造主であるということを思い知らされる。
まだ姿も見ていないのに、気圧されていてどうする。気合いを入れ直した優斗は、扉に手をかけた。
鈍い音を響かせながら、扉はゆっくりと開いていった。
「これは……?」
中にあったのは、果ての無い暗闇だった。壁があるわけでもなく、宙に浮いているかのように、その部屋は成立していた。
一歩踏み出す。ガラスのような、透明な足場が広がっている。シンプルながら、いかにもラスボス、といった感じの部屋だ。
皆が入ると、扉は消え去った。後戻りは出来ない、ということか。
前方を見据えると、そこには男がいた。黒いローブに身を包んでいる。見た目は二十歳を過ぎたくらいだろうか、創造主は椅子に腰掛け、不適な笑みを浮かべる。
「ようこそ、創造物諸君。それと、不純物」
ニヤリと笑い、こちらを揶揄するように言う。皆が怒りの色を見せるが、創造主は気にする素振りを見せず、こちらを見据える。
見つめられただけで、体が硬直してしまう。冷酷に、こちらを汚物としか見ていないように、創造主はその目を細めた。
「君たちが来たのは、俺を殺すためだろう? それ以外に、あの世界を救う方法はない」
さあ来いと言わんばかりに、創造主はこちらを煽る。
「なあ」
優斗が口を開く。
「あんたは何で、こんなことをするんだ?」
唯一、この問いだけが、創造主と交わす会話だろう。
「んー、そうだな。教えてやろう」
創造主は、多少考える素振りを見せてから答えた。
「簡単に言えば、暇潰しだ」
「そんな不条理な!」
「そう、不条理。だけど、それも俺なら許されるんだよ。何故かわかるか?」
そんな不条理な事が許される理由など、あってはならない。暇潰しなどという理由で、命を奪ってはならない。
創造主は不適に笑う。
「簡単なことだ。俺が、世界の創造主だからだ」
「世迷い言を!」
「そうだ、世迷い言だ。しかし、それも創造主は許されるんだよ」
完全に狂っているのか? そんなことを根拠に、こんなことをするのか?
「お前たちは、何か勘違いしていないか?」
「勘違い? 何をだ」
創造主は、少し間を置いてから話し出した。
「例えばの話だ。君たち人間は、ゲームをやるだろう? 結末が既に決まっている物語を、キャラクターが演じる」
「それが、何だと言うんだ?」
「そのゲームを作ったのは誰だ? ゲーム会社だろう。 ならば、この世界がゲームだとして、君たちは何だ?」
創造主は不適に笑う。
この世界がゲームだとして、俺たちが物語を演じるキャラクターだというのか? すべての行動に台本があって、今、俺たちは無意識の内に演じているだけだと、そう言いたいのか?
「困惑するのも無理はない。そうなるように、俺がプログラミングしたのだからね」
この思考すら、創造主は虚構だと言い放った。だとすれば、今、創造主と戦ったとして、勝ち目はないのでは? 嫌な思考が、頭から離れようとしない。
「つまりは、そう言うことだ。死守護者諸君は、諦めることだね」
「何を言っているのかな?」
そう言ったのは、剛力だった。彼は一歩前に出る。そして、創造主に反駁するように、話し始めた。
「随分と粗末なゲームを作ったものだ。バグだらけじゃないかな? 異世界から人が入ってきた時点で、君は、世界の制御が出来なくなったことに気づいた筈だ」
そして、剛力は核心をつくように言う。
「今の君では、私たちに干渉できない」
創造主が絶句する。図星だったのだろう、予期せぬ事態に狼狽の色を見せる。
剛力の言う通りだった。少しでも違うものが混じれば、もともとあったものとは全く違うものになってしまう。
剛力は最初から、それに気づいていたのだろう。狼狽える創造主を嘲笑するように、剛力は笑みを浮かべた。
「サラディンとアイカ君は後方支援を、優斗君と奏君は私と共に前衛を頼むよ。浩介くんは、オールマイティに動いてくれ」
「「「「「了解!」」」」」
全員の声が重なり、各自が戦闘体勢に入った。




