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死後生活―アフターデッド・ライフ―  作者: 黒肯倫理教団
第六章

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72話 同時消滅

体調が悪いです……

昨晩からひどい頭痛と熱でぶっ倒れてます~

時間はあったので、執筆はどうにか出来ました。

 少女から発せられる殺気は格段に強くなり、少しでも気を抜けば確実にやられるだろう。

 近くにいるだけで、実力差がどれだけあるかを思い知らされる。少なくとも、今の自分では手に負えない。

 被っていたフードは外れ、中からは美しい水色の髪が現れた。己の発する力のせいか、髪の毛は宙で揺らめく。

 目の前に、天使が現れた。

 そんなことを考えている場合ではないのだが、敵だというのに、見惚れてしまいそうな位に美しかった。異性としてではなく、何か、芸術作品を観ているかのような錯覚に囚われる。

 まさに創造主の使いというべきか、その美しさは天使と形容するのが相応しいだろう。

 しかし、それとは真逆に、少女の表情は憎悪に歪んでいた。そのギャップからか、どうにも例えようのない恐怖を覚える。

 「いくよ」

 刹那、少女が消えたかと思うと、視界がぐるりと回転する。かと思うと、今度は腹部に強い衝撃を感じ、視界に少女が映るが、その姿はみるみる小さくなっていく。

 目まぐるしく視界が変わり、状況を把握することすらままならない。かといって、聴覚が捉えるのは鈍い打撃音と悲鳴だけだった。

 壁にぶつかったかと思うと、視界を覆い尽くすように何かが飛んできた。受けたダメージのせいか、即座に反応して受け止めることは出来なかった。

 「がはっ!」

 そのまま体に衝突する。視点を下に移すと、鈴佳がうずくまっていた。

 「鈴佳!」

 鈴佳はうずくまったまま「うぅ……」と呻く。生きていることに安堵しつつ、打開策を考える。

 今、少女と京也たちの力量の差は大きい。これを一瞬で埋められればいいのだが、如何せん方法が浮かばない。

 「お兄ちゃん」

 鈴佳が声をかける。ダメージが大きいのか、苦しそうに、しかし力強く話す。

 「藤堂は言ってたの。魂の解放は、誰にでも出来るって。あれは存在が消える訳じゃなくて、成仏するんだって。だから……」

 魂の解放。藤堂側の人間は、皆が一切の躊躇いも見せずに発動していたのは、このためだったのか。

 発動による戦闘力の上昇は、大きいというレベルではなく、実力を最大限まで引き出してくれるほどだろう。

 鈴佳は目に涙を一杯に溜めて、今にも溢れそうなのを必死にこらえていた。

 「だから……お兄ちゃん。一緒に敵を倒して、成仏しよ?」

 震える声で、鈴佳は提案する。

 京也は、返答には困らなかった。もしかしたら、これは最高の終わり方なのかもしれない。いや、終わり方という表現は、若干違う気がする。若いせいか、持ちうる語彙では形容できない。

 「わかった」

 出来る限り優しい笑みを浮かべ、頷く。同時に、鈴佳の目から、こらえていた涙が溢れだした。

 一分弱だろうか、その間、ファイは手出ししなかった。攻撃をしていれば、確実に勝つことが出来ただろう。しかし、手出ししなかった。正しく言い替えるならば、出来なかった。

 己の感情が邪魔をして、ファイの行動に制限をかける。自分やカルのように創造主に作られた捨て駒とは違い、あの二人には自由があったからか。このやり取りを見て、良心のあるものならば、邪魔を出来るはずがなかった。

 京也と鈴佳は深呼吸をし、互いの顔をちらりと確認する。そして、一言。

 「「魂の解放!」」

 二人から発せられる強さは、ファイの圧倒的な戦力に勝るか、あるいはそれ以上だろう。

 力を得た二人を見据えるファイは、どこか羨ましげな目をしていた。




 「お前たち二人には、これから俺の下で働いてもらうよ」

 初めて聞いた言葉は、これだった。

 目が覚めたかと思うと、いきなりそう宣言されたのだ。そして、それが初めての記憶だった。

 人間は皆、赤子として生まれ、いろんなことを学習しながら育っていく。その過程では多くの過ちを犯し、そこから多くのことを学んでいく。

 しかし、自分にはそれがなかった。気が付いたときには、言葉も理性も持っていた。容姿も一切変化することはない。当初は何も疑問に思わなかったが、人間の監視、という仕事を任されたときには驚いた。

 はじめは平穏そのものだった。一つの家族を見守り、程よく干渉をする。暖かい家庭を常に見ていたファイは、愛という感情を羨ましく思った。

 自分には家族がいない。仕事をさせるために生み出されたのだから、そのような幸せな生活などはさせてもらえないのは当然だろう。しかし、世界の監視をすればするほど、ファイの愛に対する欲求は高まっていった。

 そんな生活を続ける中、ファイは一人の男と出会った。それが、後の相棒となるカルであった。

 彼もファイと同じ境遇らしく、二人はすぐに意気投合した。といっても、仕事を任され、日々働き続けるしかない彼らには、そんな時間すら数年に一度、しかも十分にも満たなかった。

 二人はたったそれだけだとしても満足していた。娯楽の一つも知らずに生きてきた二人にとって、それは十分すぎるほどの時間だった。

 創造主がそれに気がついたのは、二人が出会ってから三十年ほど経ったある日だった。

 「仕事の話があるんから、来てくれないかな?」

 そんな素っ気ない伝言を受け、ファイは創造主のもとへ向かった。

 また仕事が増えるのだろうか。そう考えるだけで頭が痛くなってしまう。カルと会話する時間が、また減ってしまう。そう危惧していたが、内容は真逆のものだった。

 「君たちは仲が良いみたいだね。どうせなら、二人で組んで仕事をしてみないかい?」

 創造主の言葉は、二人にとってはとても嬉しいものだった。創造主は「その代わりに難しい仕事になる」と言っていたが、二人で仕事が出来るならば気にならない。当初はそう考えていた。

 内容はこうだ。死人の中から良い理想を持った者を選び、それを異世界で実現させる。彼らがどのような反応をするかを見て、データとして記録する。一定期間毎に理想を喰らう者、すなわちイーターを放ち、一掃する。それを何度も繰り返していくというものだった。

 当然、精神が普通でいられるわけがなかった。何千と同じことを繰り返すうちに、いつしかファイは、その惨劇を喜びとするようになった。喜びとまではいかなくとも、カルも同様に何も罪悪感を感じなくなっていた。

 それは、苦痛に精神が押し潰されなくなるように、無理矢理に精神が適応したからだろう。二人の人格は大きく変わってしまったが、唯一、互いの関係だけは守り抜いた。

 そしてある時、異変が起こった。イーターによる殲滅が失敗したのだ。あり得ないわけではなかったが、初めての事態に、二人は驚いた。

 いつしか彼らは死守護者(デッドガーディアンズ)と名乗るようになった。人数も増え、戦力も増し、確実に理想世界を築き上げていった。

 創造主にそれを報告したところ、彼は大きな興味を示した。そして、彼はすぐに行動に移った。

 「あの世界は今から玩具(おもちゃ)だ。愉しくなるように、君たち二人は役者を揃えてくれ」

 彼の言う役者は、個性的な人物が多かった。中でも、創造主が一番興味を示したのは藤堂と呼ばれる存在だった。

 藤堂が生まれると、創造主は最大限の不幸を彼に与えた。何をやっても報われず、生涯孤独の身。一般人からは想像も付かないほどの苦痛を与えておきながら、自殺を許すことはなかった。

 それは悲惨なものだった。自殺をするために、藤堂は幾度となく苦痛を味わってきた。その度に死ねず、激痛だけが残る。

 そんな彼を理想世界に放り込めば、どうなるかは知れたことだった。

 彼に賛同するように、多くの死者が集まった。当然、彼らもカルとファイがそうなるように仕組んだのだが、再び、予想外の事態が起きた。

 京也。人生で多くの苦しみを味わっていた彼は、藤堂のもとへ行くだろう。二人はそう考えていたが、彼は死守護者(デッドガーディアンズ)を選んだのだった。

 それほどまでに、彼の精神は強かった。今思えば、あのときに排除しておくべきだっただろう。彼の代わりはいくらでもいる。台本通りにやっていればよかったのだが、創造主がそのままにするようにと言ったのだ。

 嫌な予感はしていた。そして、その予感は正しかった。現実、カルは京也に殺されたのだ。自分の命も危ない。これもまた、創造主の娯楽でしかないのだろう。悲しいとしか言いようがなかった。




 「終わり……かな」

 自分のことである。ファイは既に戦う力も気力も使い果たしていた。反対に、京也たちはまだまだ戦えそうだ。

 京也たちが身構えたのを見て、自信の敗北を悟る。今のファイには避ける力も残ってはいない。

 二人がこちらに攻撃を放つ。それをまともに受けたファイは弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。鈍い衝撃が身体中に走り、直後、全身が脱力する。

 自分が光になって消えていくのがわかる。今残っているのは意思だけだ。

 「悲しい人生だった」

 そう呟く。京也たちも限界が来たのか、体が消え始めていた。

 しかし、自分は一人で消え行くのだ。彼らは涙を流しながら、しかし笑いながら、抱き合いながら消えていく。同じ、消えるという現象だというに、これほどまでに違うものなのか。

 ファイは、生まれて初めて涙した。今まで溜め込んだ感情が、一気に溢れ出してきた。一人で消え行く悲しみを、どうやって耐えろというのか。

 薄れ行く意識の中で、頭の中でカルの声が響く。いや、幻聴ではなく確実にいた。自分を暖かさが包み込んでいる。いつかカルと出会ったあのときのような、暖かさだ。ファイを抱き締めながら、カルは「大丈夫だ」とだけ囁いた。

 「悪くは……ないかな」

 嗚咽しながら精一杯に強がるが、カルは察しているかのように「まったく」と苦笑しながら言った。

――カル、愛してる。

 その言葉を最後に、ファイは消え去った。それと同時に、京也と鈴佳も消え去った。


今回ファイ視点にしたのは、その方が書きやすかったからです。

まとまり方的にもこの方が良いかなと思ったので、ファイ視点にしました。

見直しが出来ていませんので、誤字があるかもしれないです。

見つけた場合は教えていただけると助かります~

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