71話 カルとファイ
優斗たちの足音が遠くに去っていく。後は、自分と鈴佳でこいつらを倒せばいい。
悲しいが、創造主を倒す役割は自分ではないと感じている。根拠があるわけではないが、自分の役割はここだ。
目の前の敵を見据える。
ようやく戦う気になったのか、強烈な殺気を放っていた。
「ねえ。何でそこまでして戦うの?」
小柄な少女が問う。
言葉からは感情を読み取れない。
「あの世界を守ることに、意味なんてあるの?」
声が震えている。しかし、その理由は京也にはわからない。
確かに、意味なんて考えたことがなかった。
自分はただ、鈴佳と共に暮らしていきたいだけだった。
ならば、あの世界でなくてもいいのではないか?
いや、違う。戦う理由はそこにはない。
既にわかっているはずだ。あとは、それを声に出すだけだ。
喉まで出かかった答えを無理矢理に押し出そうと、京也は声を上げる。
「俺たちのような思いをする人が増えないようにだ!」
地面を蹴って、敵の方へ飛び込んでいく。優斗ほどではないにしろ、視認出来ない速さだ。
しかし、背後から蹴られ、弾き飛ばされた。
空中で体勢を立て直しつつ、手から無数の闇の刃を放つ。無論かわされるが、体勢を立て直す時間は稼げた。
「はっ!」
右にステップし、そこから一気に間合いを詰める。しかし途中で再びステップし、敵を翻弄する。
「鏡幻」
鈴佳が援護をする。京也の姿が消えたかと思うと、いつの間にか数人に増えていた。
増加、減少を繰り返しながら敵を翻弄する。予測することも難しく、視界に入る情報はすべて虚構。
敵は成す術もなく、動きを封じられていく。
「一気に決める!」
体中からありったけの闇を放出し、巨大な刃を作り出す。それと同時に、鏡幻の効果によって京也の姿が相当な数に増えた。
「はああああ!」
刃を放つ。刹那、巨大な炸裂音と共に床が消し飛んだ。
これだけの威力なのだから、瞬間移動でも出来ない限りかわすことは不可能だろう。
まだ気は抜けない。敵の死を確認してからでなくては、勝利とは言えない。
しかし、そう簡単にやられてくれるはずもなく、
「なかなか強いね」
京也の後ろに姿を現した。いつの間に現れたのだという驚きと同時に、恐怖を感じた。
刹那、背後から強い衝撃を受け、弾き飛ばされる。今度は、先ほどとは比べ物にならない程、強い衝撃だった。
体勢を立て直す前に、前から長身の男が現れ、京也の腹に強打を入れる。
「がはっ!」
肺の中から空気が押し出され、苦しさを感じる。
鈴佳の援護が欲しかったが、小柄な少女が妨害をしているらしく、期待したいが無理だろう。
歯をくいしばる。次の衝撃に備え、少しでも痛みを堪えられるように、かつ、痛みの少ない場所で受けるように体を捻る。
「――っ!」
長身の男が驚いた表情を浮かべるが、もう遅い。
拳に力を集中し、腹部に突き入れる。拳は男の腹を貫き、その手には大量の血が付いている。
「うあ……」
男は、自分の腹部に突き入れられた腕と、大量の血を見て、狼狽の色を見せる。
出血の勢いは激しく、素人目で見ても致命傷に見えた。
しかし、まだ終わらない。
残酷かもしれないが、とどめを刺させてもらう。
手から球状に闇を放出させる。
男の体のほとんどが失われているため、死んだのは間違いないだろう。
手に付着した血を払って、小柄な少女の方を見る。
鈴佳の守りを突破することが出来ず、未だ苦戦しているようだった。
こちらに気づいていないのか、鈴佳の方に集中している。
体を闇に溶かし、姿を消す。
背後から接近をして、先ほどと同様に拳を突き入れようとする。
さすがに気がついたらしく、回避すると同時に驚愕の表情を見せる。
「カル……?」
少女は死体に対し、カルと呼んだ。長身の男の名前だろう。
数回ほどまばたきをし、再び死体を見据える。
体が震えている。怒りか、悲しみかはわからない。
「カル……」
少女はポツリと呟く。
それによって何かが弾けたのか、感情のリミッターが外れたように、少女は突然笑いだした。
「そうだ、そうだったよ。忘れていたんだ。ボクはなんてバカなんだ」
笑いながら、何かを話し始める。
しかし、その目からは涙が溢れていた。
「所詮、使い捨ての玩具だったんだ。楽しむために、捨てられた」
「何を言っている……?」
京也が問うが、言葉が聞こえていないのか、返事はない。
「創造主! どうせ観ているんだろう?」
創造主が観ているのだろうか。確かめる手段はない。
「せめて、こいつらぐらいは殺させてよ。ボクはカルの復讐をしたい。あんたも楽しみたいんだろう? ならさ、力をボクに頂戴」
何を言っているのか。
創造主から力をもらう? それほどの存在ならば容易いのだろうが、そうされては困る。
「させない!」
一気に間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。
が、突如巻き起こった爆風によって妨害され、吹き飛ばされた。
すぐ近くで何かが爆発したらしい。
それは、視認できる速さではなかった。今でさえ、何が起きたか把握しきれていない。
少女は、京也を見ながら笑っていた。
「そう、これだよ」
少女は力に溺れているのか、恍惚の表情を見せる。
「これからが本番だよ」




