63話 交戦
能力無効化空間を切り抜けた優斗たちは、円柱型の大部屋に到着した。
「広いな……」
半径は50メートルほどだろうか。天井は高く、正確な距離は目測出来そうにない。
黒の次は白だった。目が眩むような明るさで、優斗たちが入ってきた場所から反対側の出口にかけて赤い絨毯で道が作られている。その道を挟むようにして柱がいくつも佇んでいた。
部屋の中心に来た辺りで、嫌な感じがしてきた。何かが迫っている。
優斗が言わずとも、皆もその気配に気がついたようだ。強い殺気を放ちながら姿を現したのは、巨大なイーターだった。
ゲームでよく見るようなその姿は、ミノタウロスと呼ばれる神話内の怪物だった。金属質な見た目が、その姿の異様さを増幅させる。身長は十メートルほどで、その手には巨大な斧を持っていた。
ミノタウロスは、ゆっくりとこちらを見回す。その目に見つめられたせいか、腰を抜かして倒れてしまう者もいた。数ではこちらの方が圧倒的に優勢だが、あの怪物を相手にしたとき、まともに戦えるものは少ないだろう。
「――来るぞっ!」
瞬間、ミノタウロスが咆哮を上げる。そのけたたましい音のせいか、部屋全体が激しい揺れに襲われる。
全員が四散していき、ミノタウロスを囲むように隊列をとる。遠距離からの射撃を主体にして出来る限り死者を出さないようにする。
しかし、射撃だけではミノタウロスの動きは止められない。雷爆をいくつも作り出し、優斗はエレクトリックバングルに電流を大量に流し込む。あの体に致命傷を与えられるような、巨大な刀身が必要だ。
剣を生成し終える前に走り出す。ミノタウロスがそれに気づき、迎え撃つように斧を振るう。
横凪ぎに振られた斧を、地面を大きく蹴り体を飛翔させることでかわす。ミノタウロスの斧は優斗を捉えることはなかったが、代わりに柱を薙ぎ倒していく。
いくつもの柱が倒れ始め、その先には戦闘員たちがいた。雷爆で柱の軌道をそらそうと試みるが、柱は思ったよりも重いせいかびくともしない。
「金属生成――鉄壁!」
瞬間、部屋中に大量の鉄の壁が現れた。奏の作り出した鉄の壁は柱を受け止めている。その鉄の壁をさらに強固なものにするために、アイカの結界も重ねられてあった。
「優斗!」
「任せろ!」
飛翔が最大点に到達すると、優斗は身を縦に回転させながらミノタウロスに迫る。対するミノタウロスは斧を大きく振り上げて応戦する。空中にいる以上、斧をかわすことは出来ない。
斧が迫ってくると、今度は剛力が動く。斧の腹に己の拳を叩きつけると同時に衝撃波を発生させた。
斧を弾き飛ばされ、ミノタウロスは体勢を大きく崩した。それと同時にエレクトリックバングルから巨大な剣が作り出された。
「はああああっ!」
落下する勢いをそのままに、優斗は雷剣でミノタウロスを斬りつける。
「――!」
体を二つに分断されたミノタウロスは、声にならない叫びを上げて爆散した。
部屋が一度静寂に包まる。その中で誰かが歓喜の声を上げた。次第にそれは広がり、いつしか皆が歓喜の声を上げていた。
そうだった。戦いの繰り返しで忘れていたが、この世界は優斗の思い描く理想が現実となっているのだ。現実では起こり得ない戦いがあるからこそ、この世界には魅力がある。
歓喜の声を聞く度に、この世界に来てよかったと思える。自分のことを称賛する声が聞こえる度、望んでいた理想はこれだったんだと再認識する。
そうだった。自分は英雄になりたかった。幼い少年が抱く夢だが、今の自分はそれを捨てきれていなかった。だが、この世界ならば可能だ。長年に渡って繰り広げてきた頭の中での戦いは、今、活かされている。
浩介と会話をする度に理想は強くなり、いつの間にか数え切れないほどの能力を手に入れていた。今思えば、浩介が話す理想は戦闘を知っているかのように実用性が高かった。彼の言う遠距離攻撃の大切さも、命が懸かった本当の戦いにおいては重要なものだった。
「さて、そろそろ行こうか」
剛力が出発を促すと、皆が歩き出す。優斗は戦闘の余韻に浸りながら歩き出した。
しばらく歩いて、ついに大きな扉を見つける。中から発せられる強大な殺気は間違いなく藤堂のものだろう。
剛力が扉を衝撃波で弾き飛ばし、一気に奥に入っていく。優斗たちが後に続くように入っていくと、中では藤堂が椅子に座っていた。
かつて見た藤堂より、不気味さが増している。怒りに歪んだ顔は、以前よりさらに醜くなっていた。
「やはり来たか。死守護者共が」
表情よりは冷静に振る舞っているが、怒りのせいか声が震えていた。
「藤堂君。すまないが、君に勝ち目はない。降参してくれないかな?」
剛力が訊ねる。
「ふざけるなっ! 俺は負けないんだよ。俺が正しい。俺が全てだ」
自分に言い聞かせるように藤堂が言う。何が彼をそうさせるのか。優斗にはわからない。
「ならば、仕方ない。力で押さえさせてもらおう」
剛力が構える。優斗たちもそれに合わせて戦闘体勢に入る。
「そうか、わかった。ならいいさ、俺の力を見せてやる」
瞬間、辺りを闇が包んだ。体が重くなり、力があまり入らない。感覚も大分鈍っているようだ。結界の中に囚われたのは主力となるメンバーだけで、他の戦闘員たちは外にいるようだ。
「この結界があるんだ。いくら数が多くても意味がないな」
藤堂が笑う。しかし、皆の表情は変わらない。それどころか、明らかに余裕に満ちていた。
「アイカ!」
「りょーかいっ!」
アイカが両手を前に突き出して構える。瞬間、結界の闇が消え去った。体の感覚ももとに戻る。
「貴様、何をした!」
藤堂が怒鳴る。アイカに攻撃を加えようと手から闇を放出するが、撃ち出す前に膝をついた。
「そんなバカな。結界が効力の対象を俺に移したとでもいうのか」
「簡単なことだ。君の結界に、彼女の結界を上書きさせてもらった」
「くっ……」
「まだ間に合う。降参してくれないかな?」
藤堂はこちらを見て、何かを考えるそぶりを見せる。そして、彼は一つの結論に至った。
「バカなやつらだ。俺が降参などするはずがないだろう」
藤堂は不気味に笑う。体はふらついており、戦いを続けるのは難しいだろう。しかし、藤堂は立ち上がり、一言、
「魂解放!」
瞬間、藤堂の放つ力が爆発的に増幅した。結界の効力を無視しているかのように、体を正常に動かしている。
「俺が正しい俺が全てだ!」
藤堂は半狂乱状態で襲い掛かってきた。もはや何かを考えることすらしていないような、がむしゃらな戦い方だった。
しかし、魂解放の力は強力だった。半狂乱状態とはいえ、藤堂の持つ力は強大だ。まともに相手をすれば、勝てる見込みはない。
優斗が雷剣で斬りつけようとするが、藤堂はそれを軽くかわして見せた。そのまま優斗を弾き飛ばすと、アイカを狙う。
「アイカ!」
アイカは即座に防御結界を作り出すが、藤堂はそれを容易く破る。何重にも結界を重ねていくが、破られる速度の方が上回っていた。
「装甲変換――焔!」
奏が飛び出していく。巨大な焔の翼を作り出してそれを叩きつけるが、藤堂はびくともしない。藤堂がカウンターとして殴り付けようとすると、剛力が軌道をそらした。
数では有利なはずだが、個々の能力では大きく劣っている。全てを消耗する勢いで、優斗は力を振り絞る。
「雷鳴鎧!」
雷から鎧を生成する。雷鳴鎧に重さはなく、逆に優斗の速さを引き出す。
右手を天に向かって突き出す。藤堂の真上に雷が現れた。手を振り下ろし、振り上げ、振り下ろし、振り上げ、何度も繰り返す度に藤堂を雷が襲う。
「奥義――天地雷鳴!」
雷を使い果たすと同時に、即座に回収する。手応えはあった筈だが、藤堂の姿がない。
「殺してやる!」
背後に気配を感じたが、気づいたときには遅かった。強大な力を纏った拳が優斗を捉えようとしていた。
防ごうとするが間に合わず、体に直撃した。……はずだった。
「ぐああああ!」
何かが砕ける音と共に、藤堂が叫ぶ。砕けて飛び散ったのは鏡だった。
「すまない、遅くなった」
そこにいたのは、黒いコンバットスーツを纏った京也と少女だった。




