64話 消去
予約投稿です。
今週は高校の修学旅行があるので、次回投稿は来週の月曜日です。
「すまない、遅くなった」
京也ともう一人、少女が現れた。髪の色も目の色も同じで、どことなく雰囲気も似ていた。
「京也、お前、今までどこに行ってたんだ? 心配したんだぞ」
「ああ、説明させてもらいたいが、今はあいつをどうにかしないといけないだろう?」
そう言って、京也は藤堂を指差す。
「ああ、そうだな」
藤堂は敵が増えたせいか焦りの色を見せる。あるいは、鏡によるダメージ反射が強力なせいか。
魂解放をしたとしても、結界の効力によって動きを制限されている状態では普段の力より少し劣るくらいだ。
そして、数の差だ。いくら単体での力が強大でも、相手の数が多ければ多いほど不利だ。上手く連携をとられてしまえば太刀打ちが出来ない。
「く、くくく……」
藤堂が笑いを堪えようとする。が、その笑いは収まらず、遂に堪えることをやめた。
「くははははは! そうだ、俺は負けない。理不尽な世界を潰すまではなあ!」
藤堂の体を闇が包み込んでいく。体を覆うように闇を纏ったその姿は、悪魔のようだった。
「俺は正しいんだ!」
瞬間、藤堂が視界から消える。相当な速さだったせいで、視認出来ずに見失ってしまう。
優斗は背後から迫る殺気に反応し、振り向きながら拳を叩き込む。案の定、優斗の拳は藤堂を捉えた。
しかし、藤堂は怯まずにそのまま前進を続けて優斗の腹部に拳を叩き込んだ。肺の中の空気が無理矢理押し出され、痛みと苦しさが同時に襲う。
藤堂の追撃が来る前に京也が遮った。自身の放出した闇を藤堂の纏う闇に流し込み、操作権限を奪い取る。解除すると同時に拳を叩き込み、藤堂を弾き飛ばす。
「まだだ!」
藤堂は再び闇を纏う。藤堂が攻撃体勢に入ろうとすると、背後から轟音と共に大きな炎球が飛んできた。
「チッ!」
藤堂が上へ回避するが、背後に現れた剛力によって地面に叩きつけられた。そのまま炎球が直撃し、爆発する。
煙の中から藤堂が飛び出し、アイカに狙いを定める。再び奏が炎球を放つが、今度は横にステップを踏んでかわして見せる。
しかし、その行動も読んでいた。
「焔鞭!」
藤堂は両サイドから迫る鞭をかわすことが出来ず、再び直撃する。藤堂は爆発によって体を吹き飛ばされ、空中で体勢を立て直そうと試みる。
追撃が来ないように無数の闇の刃を飛ばすが、その軌道は鏡によって遮られた。ダメージ反射が藤堂を襲う。
「ぐっ、ああ……」
今の藤堂は、もはや立っていることすらままならない。ふらつきながらも「俺は正しいんだよ」と呟きながら、こちらの隙を窺っている。
「もう、終わりにしないか?」
優斗が話し掛ける。
「馬鹿なことを言うな! 俺は正しいんだよ! こんなところで退くわけにはいかない」
「なんで、お前はあの世界を嫌うんだ?」
「前にも言っただろう。あの世界には、俺のように、不幸な人生を送る奴が山ほどいる。それを理不尽と言わずになんて言う?」
「ああ、確かにお前の考えは正しい。しかし、この行動と結びつけることは間違っている」
「なんだと? お前は俺の不幸を理解した上でそんなことを――」
「――くだらない」
「は?」
そう言って、優斗の横にいた京也が一歩前に踏み出す。
「俺は不幸だ、不幸だと連呼して何になる? 同情でも欲しいのか?」
「俺はただ、あの世界に復讐を出来ればいい。同情など要らん!」
「そうか。なら、お前の言う復讐は何だ?」
「俺を不幸にした世界を破壊し、神がいるならばそいつも潰す!」
「それがお前の復讐か?」
「ああそうだ」
「そうか」
京也は少し考えるそぶりを見せてから、藤堂に向かって言い放つ。
「お前の言う復讐は、単なる自己満足だ。それが正しくないことぐらい、気付いているだろう?」
「自己満足、だと?」
藤堂が頭を抱え、何かを恐れるように顔を歪めた。
「お前が復讐を成し遂げたときに、残るのは虚しさだけだ。藤堂、まだ間に合う」
「虚しさ、か。ははは……」
藤堂は手に宿していた闇を消し去る。同時に魂解放の限界が来た。
藤堂は自分の体が消えていくのを眺めながら、軽く笑う。
思えば、つまらない人生だった。何かあればすぐ不幸だ、不幸だと連呼していた。自分は不幸な面しか見つめていなかったのではないだろうか。視点を変えれば、きっとこうはならなかったのではないだろうか。
「どうやら俺は、道を誤ったようだ。……すまなかった」
そう言い残して、藤堂は姿を消した。




