60話 創世主
敵サイドです。
「どうしたんだファイ? なんか疲れた顔をしてるぞ?」
黒いローブを纏った長身の男――カルは、自身の相棒であるファイに声をかける。彼女の様子がいつもと違うことに気づき、心配して話しかける。
ファイはカルの方を向く。その真剣な表情からは、事の深刻さが伝わってきた。
「赤城浩介を殺められなかった。ボクたちでは手に負えない」
「相手はただの人間だろう。手こずる理由がどこにある?」
「アイツは異界の存在だ」
「なんだと!」
異界の存在と聞いた途端、カルは先ほどまでの余裕を失ったかのように焦りを見せる。
「相手の実力はどうだ?」
「ボクじゃ動くことすら無理だったよ。それほどの力を持ちながら、まだ手加減をしているようだったんだ。次元が違いすぎるよ」 苦笑いをしながらファイは答える。普段は弱音を吐かないようなファイがこれ程までに焦っているのだから、相当な手練れだろう。
「じゃあどうするよ? 創世主さんにでも報告するか?」
「そうだね。そうするよ」
ファイはカルに背中を向けて歩いていった。その背中を見つめながら、カルは思考する。
(ファイがあそこまで恐れるとはな。どれ程の実力があるか……)
もしかしたら、デッドガーディアンズや藤堂を気にしている暇はないのかもしれない。やはり、ゲーム感覚ではなくさっさと片付けるべきか。
「ファイ、待て。俺もついていく」
「そんなにボクのことが気になるの?」
そう言って、ファイはカルを上目使いで見つめる。毎度のことながら、冗談なのか本気なのか。カルにはわからない。
「冗談言ってないで、さっさと行くぞ?」
「ちょ、置いてかないでってば!」
二人は創世主のもとへ向かう。
長い廊下を歩き続ける。近づく度に感じる圧力が高くなっていくようで、足取りが重い。
創世主。彼が言うには世界を造り出した者らしいが、詳細は知らない。どちらかというと、聞きたくないという感情が勝っているのだろう。
数分間歩き、ようやく扉が見えた。
大きな扉を開く。ゆっくりと開いて、やがて中の様子が露になる。
一面を黒く塗りつぶしたような暗闇。その暗闇に散りばめられた幾つもの星々。足場は円形の半透明なガラスのようなもので、直径は五十メートルといったところだろう。
少し踏み外せば暗闇に飲まれてしまいそうで、二人の恐怖心を煽る。カルは自分に引っ付いているファイを引き剥がすと、前方を見据える。
白く長い髪に長身。全身を黒いローブで纏った彼は、見た目は人間そのものだ。
「カル、ファイ。二人ともよく来たね」
床と同様に半透明なガラスのようなもので出来ている椅子に座りながら、彼は笑みを浮かべている。
「まったく、今回はまた壮大な空間だな。いちいち空間の操作をされると困るんだが」
「いいじゃないか。いかにもラスボスって感じがするだろう?」
行動とは裏腹に、無邪気に笑う。まだ二十歳を過ぎたかというくらいのこの青年が創世主を名乗っているのだから、当初は驚いたものだ。
「……あんたも物好きだな。まあいい、報告しなければいけないことがある」
創世主の言葉を軽く流しながら、カルは本題に入る。創世主は興味津々なようで、カルの発言を笑顔で待っている。
「異界の存在がいる」
「バカな!」
先ほどの笑顔はどこへ消えたのか、今は怒りに顔を歪ませている。
「私の造り出した結界は完璧なはずだ! 簡単にすり抜けられるものか!」
「あんたが結界を造り出す以前から存在していたらしい。なおかつ、かなりの手練れだ。ファイではまったく敵わなかった」
「――ッ!」
創世主は驚きの表情を見せる。しかし、それはすぐにいつもの笑みに戻る。
「なるほどね。ちょうど退屈していたところだし、楽しませて貰おうかな」
創世主は嬉々とした表情を浮かべる。久々の獲物がよほど嬉しかったのだろうか。最近は平行世界の傍観だけだったためにフラストレーションが溜まっていたのだろう。
「すごく楽しみだ。少し泳がせてからでもいいかもしれないね。カル、ファイ。二人にはそいつの監視を頼むよ」
「「りょーかい」」
二人は部屋を後にする。扉の奥からは嬉しそうな、どこか不気味さを感じさせる笑い声が聞こえてきた。
ファイみたいな性格のキャラはかなり大好きです。




