39話 解放
ついに希望のフラグメントの出番です。
「ようこそいらっしゃいました。私はミスティ。あなたのお名前をお聞かせください」
現れた女性はミスティと名乗る。咲は緊張しつつも名前を名乗ると、ミスティが優しく微笑みながら椅子に座るように誘導する。咲は緊張しているのか、辺りをキョロキョロと見回す。
「あなたは、どの幽霊に会いたいのですか?」
「私は、幼馴染みに会いたいです」
「幼馴染みですか。それなら、今あなたの横に立っていますよ」
それを聞いて、優斗は驚く。今、優斗がいる位置は咲の真横だからだ。
「そんなに驚かなくても大丈夫ですよ」
その言葉は、咲に対してではなく優斗に対してだ。彼女の顔はこちらを向いており、優斗が少し移動しても、それを追うように顔を動かす。どうやら、優斗のことが見えているようだ。
本物の霊能者なんていないと思っていたが、これは間違いなく本物だ。まあ、自分が能力を使えるようになったことを考えれば当然だろう。
「優斗が、ここにいるんですか?」
「はい。あなたを救うために、ずっと戦い続けているようですよ」
「戦い?」
確かに今の優斗はコンバットスーツを着ており、戦闘体勢に入っている。なぜ戦っているのかわからない咲は、ミスティに聞き返す。
「咲さん。あなたは、幼馴染みを失ってとても悲しんでいますね?」
「はい」
「あなたのその感情は、人間には見えない何かに狙われています。それからあなたを守るために、彼は戦っているのです」
「この感情が? でも、悲しまないなんて私には無理です。大切な幼馴染みなんですよ?」
「だからこそ、私がいるのです。私なら彼の言葉を聞くことが出来る。あなたが望むのなら、彼と会話することも出来ますよ」
「出来るんですか?」
「私は霊能者ですから」
ミスティは優斗に手招きをする。優斗が移動すると、彼女は始めましょうと言った。
「優斗は、なんで私を庇ってくれたの?」
「大切な幼馴染みなんだから、当たり前だ」
ミスティはそれを咲に伝える。咲は若干嬉しそうに口を緩めるが、すぐに次の質問をする。
「優斗は、後悔してないの? すごく痛い思いをしただろうし、なにより人生が終わっちゃったから……」
これが、咲が一番気にかけていることだろう。自分のせいで優斗が死んでしまったと思い詰め、絶望に囚われる。
「俺は後悔なんてしていない。咲を守れた、それだけで満足だ」
咲は、質問の返答を聞く度に少しずつだが明るさを取り戻していく。タイミングを見計らって、希望のフラグメントを使えば絶望から解放されるだろう。優斗は、必ず来るであろう質問の答えを考える。そして、10分ほど会話をした後その質問が来た。
「優斗。私はずっと前から優斗が好きだったんだよ? 優斗は、私のことをどう思っていたの?」
「俺は、咲のことが好きだ。ずっと前から、そしてこれからもその思いは変わらない」
ありふれた言葉かもしれないが、これほど表現しやすい言葉はないだろう。その言葉を聞くと、咲の頬を涙が伝う。それは、先ほどまでの悲しみではなく、喜びや嬉しさといった感じだ。
「嬉しいよ、優斗……」
使うならば今しかない。優斗は希望のフラグメントを取り出すと、それを咲に向ける。希望のフラグメントから暖かい光が放出され、それが咲の体を包み込む。体が光に包まれて咲は戸惑うが、その暖かさを感じて身を委ねる。
「暖かい……」
咲は最後に一滴だけ涙を流すと、泣き止んだ。その顔には、生前に毎日見ていた明るさが取り戻されていた。咲はミスティにお辞儀をして店を出る。その力強い足取りを見て安心した優斗は、京也たちのところへ戻った。
「優斗君、お疲れ様。どうやら幼馴染みは救えたようだね」
2人のもとへ戻ると、剛力が労いの言葉をかける。京也も「よくやった」とだけだったが成功を祝ってくれた。
「これで、優斗君は目的を達成したわけだ。今の君には2つの選択肢がある」
先ほどの笑顔から一転、剛力は突然真剣な顔になる。
「2つの選択肢?」
「そう。今の君はやるべきことを果たした。そうなると、選択肢は2つ。1つはこのまま戦いを続ける。もう1つは、成仏することだよ」
「成仏?」
「このまま戦いを続けると、相当な苦があるだろう。もう平行世界に残る必要がない以上、私はそれを強制することは出来ないからね」
言われてみれば、確かにそうだ。平行世界に来てからずっと咲のことを考えていた。その目的がなくなった以上、この世界に残る理由はないのかもしれない。だが、まだその時ではない。まだ、この世界でやるべきことがある。
「俺は、まだ残ります」
「いいのかな? どんな苦があるかわからないのだよ?」
「覚悟はできてます」
その言葉を聞いて、剛力は満足げに頷く。剛力は次の獲物を探すためにナビのレーダーを確認すると、歩きだす。優斗は来るべき日に備え、修行を再開した。




