35話 死する神は何を想う
死神さんの話です~
少年――後に死神と呼ばれる少年は、たった1日ですべてを失った。
少年には両親と妹がいた。子ども思いで優しい両親と、兄のことを慕う妹。そんな暖かい家庭で育った彼は、何不自由なく生活していた。家の中にはいつも明るい雰囲気が漂っており、絵に描いたような暖かい家庭だった。
ある日のこと。長期休暇に入った父親が、旅行に行かないかと提案した。皆もそれに賛成し、早くその日が来ないかと少年は心待ちにしていた。楽しみにしすぎて、前日もあまり寝付けないほどだった。
当日の朝。母親に起こされて目を覚ました彼は、急いで身支度を整える。寝癖の立った髪を手で整える。これから旅行に行くのだ。初めての海外旅行、場所はアメリカだ。学校で習った英語をうまく話せるだろうか。現地での食事はどんなものだろうか。これから行く場所のことを考えるだけでテンションが上がる。
身支度を整えると、リビングへ向かう。リビングに入るとすでに準備を終えていた父親がいたので挨拶をする。
「おはよう、父さん」
「おはよう京也。しっかり眠れたか?」
「うーん、まあまあかな」
「目の下にクマができてるぞ?」
「えっ?」
この歳にもなって眠れなかったことを見透かされたようで、少年――黒井京也は慌てる。そんな姿を父親は楽しそうに眺めていた。
「お兄ちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
後ろから妹に声をかけられる。今年になって中学に入学した妹は、社交的な面もあってすぐに友達を作った。それは家の中でも変わらず、妹がいるだけで家の中には明るい雰囲気が漂う。母親が化粧を終えたところで、家を出発した。
空港までの道程は2時間と長いが、会話をしているうちにすぐに空港に着いてしまった。初めて空港に来て、彼はその広さに驚いた。空港にいる人を眺めていると、これから旅行に行く人たちの期待や帰ってきた人の満足さが伝わってくるようだ。普段あまり外出しない母親がはぐれてしまったりとハプニングがあったが、無事に飛行機に乗ることが出来た。
飛行機が離陸すると、だんだん地面が遠ざかっていく。妹が京也にも見るように言うので窓の外を覗く。すでにかなりの高さにいるのだろう、高層ビルでさえミニチュアのように見える。そんなことを会話しながら時間を潰す。アメリカまではまだまだかかるらしいので、気長に待つ。そして翌日には、アメリカに着くのだった。
帰路。初めてのアメリカを振り返りながら、名残惜しそうに飛行機に乗る。多少ぎこちない話し方だったが、英語で会話できた嬉しさ。皆で食べた豪華な料理の数々。そのすべての思い出が素晴らしいもので、家族全員が満足することが出来た。
しばらくして、飛行機が離陸する。そこから1時間くらい飛んだあたりで事件は起こった。当初、京也は突然すぎるその事態を理解することが出来なかった。目出し帽をかぶった数名の男たちが、あっという間に飛行機内を占拠したのだ。いわゆるハイジャックである。
男たちの目的は同胞である凶悪犯の解放。無論、警察はそれを了承することは出来ない。英語だったために内容を完全には理解できなかったが、大体はこんな内容だ。解放をしようとしない警察に、男たちは苛立ちを見せ始める。そしてその苛立ちが悲劇を生んだ。
男たちは警察に対してこれでもまだ解放しないのかと言った。その直後、数発の銃声が鳴り響く。何人か死亡したらしい。死者の家族たちが涙を流してなにかを叫んでいるが、よく聞き取れない。そんな状態に陥ってもなお、警察は動こうとしなかった。
「大丈夫だ、きっと助かる」
父親が京也に言った。その言葉を信じたいが、今の光景を見てしまっては信じることが出来ない。妹は体を震わせて怯えている。それを母親が抱き締めながら、何度も何度も「大丈夫」とささやく。
ついに我慢の限界が来たのか、男が銃を乱射し始める。その銃弾は京也たちの方へも飛んできた。数十発はあるであろう弾丸から助かる術はなく、子どもたちをかばうように抱き締めていた両親は命を落とす。
「父さん」
揺らすが、返事がない。何度も揺らすが動く気配はない。
「父さん」
現実を受け入れないと言わんばかりに父の体を揺する。
「父さん!」
瞬間、自分の頬を涙が伝う。こんな簡単に、人間の命は奪われてしまうものなのか。体の震えが止まらない。恐怖……いや、違う感覚だ。この感情はいったいなんだろう。
気づいたら、体が勝手に動いていた。近くにいた男を押し倒し、強引に銃を奪い撃ち殺す。その音に気がついた男たちが発砲してくるが、先程殺した男の死体を盾に応戦する。飛行機の中ということもあり、銃は貫通性には優れない。ワンクッション置けば怖いものではなかった。しばらくの間撃ち合いが続いたが、がむしゃらに放った京也の弾が、運良く男たちを撃ち抜いたことにより状況が逆転する。
男たちが息を引き取ると、同時に機内には歓声が上がる。しかし、心地よいものではなかった。人を殺したのだ。むせ返るような血の臭いは鼻を刺激し、今にも倒れてしまいそうなほどのめまいがする。確かに大勢の命は救った。しかし、自分の両親を助けられなかった。とても楽しいはずの旅行は、地獄となってしまったのだ。
それから数年。出来る限り生き甲斐を探したが、見つからなかった。悲しみのあまり妹は自殺し、自分だけが取り残されてしまった。唯一自分を救ってくれたのは理想だった。どんな力でもいい、あのとき両親を助けられたならば、悪魔にだって魂を売れる。そう考えているうちに、彼の理想は圧倒的な力のみを求めるようになっていた。
俺は、死神になりたい。京也はそう望んだ。生死を司る死神になれば、両親の死をなかったことに出来るかもしれない。あのとき、圧倒的な力で、乗客全員を救えたかもしれない。たがらこそ、死神になりたい。
来世は死神になって、平和な世界を作ろう。悲しみを知るからこそ、素晴らしい世界が作れるはずだ。そう考えながら、京也は自身の人生をその手で終わらせた。
そして、今がある。平行世界と聞いたときは驚いたが、案外簡単に受け入れられた。力を手に入れた喜びは激しく、京也を戦いへと導く。
剛力と優斗とともに、向こうの世界での修行が始まる。
うまく描写が出来ているか不安です。




