32話 幽霊
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午後3時。狩りも終盤に差し掛かってきて、赤い反応も大分減った。レーダーの索敵範囲を拡大してみてもほとんど反応はない。かなりの数を狩ったはずだが、いまだ希望のフラグメントは完成しない。
希望のフラグメント。イーターを倒すことで手に入る器を回収し、蓄積させる。完成した希望のフラグメントは、どれだけ深い絶望だろうと消し去ることが出来る。倒したイーターの数やランクを考えるとそろそろ完成してもいい頃なのだが、反応はないようだ。
咲を助けるためにはこれが必要だ。完成させるためには戦うしかない。優斗はナビを開き、レーダーを起動させる。いくつかの赤い点があり、黄色い点も一つ写っている。どんな力があるのかは知らないが、かなりの速さでイーターを狩っている。これほど手際よく出来るものなのかと感心しながら見ていると、その黄色い点がこちらに向かってきていることに気づく。
「ねえ、優斗? これって……」
「ああ、近づいてきてる」
「え? 何が来てるの?」
よくわからないといった表情のアイカに構えるように伝える。やがて黄色い点の主が姿を現した。
「おいお前ら。俺の縄張りで何をしてるんだ?」
服装は赤いTシャツにジーパン。黄色い髪はツンツン立っていて、赤いバンダナをしている。レーダーで確認をしなかったら通行人と間違えてしまいそうな見た目だ。口調はやや強めだが、敵と判断するにはまだ早いだろう。
「デッドガーディアンズ所属の優斗だ。お前こそ、俺たちになんの用だ?」
男はそれを聞くと顔をしかめる。多少ぶつぶつと小さな声で呟いてから、こちらを指差してきた。
「なんなんだデッドガーディアンズって! お前ら正気か?」
男は多少パニックになっているようで、多少震えている声を張り上げるように叫んだ。
「あーもう、わけがわかんねえよ。俺のことをみんなが無視するし、変な化け物には襲われるし。終いにはデッドガーディアンズだ? やってらんねえよ」
男は近くの電柱に拳を叩きつける。鈍い音が響き渡るが、通行人は気にせずに歩いていく。
「いつまでこんなことを続ければいいんだよ。クラスの奴等も俺のことを無視するし、教師まで……」
「なあ、ちょっといいか?」
ぶつぶつと呟いている男に対し、優斗が口を挟む。
「ああ? なんだよ」
ややイラつきながらだが、男がこちらの話を聞く体勢に入る。次の言葉を聞いたとき、男は驚愕の表情を浮かべた。
「お前、死んだんじゃないのか?」
「俺は、ほんとに死んだのか? 確かに車には轢かれたが、そのあとすぐに起き上がって学校に向かったんだぞ?」
「その時にはすでに死んでいたんだよ。魂だけが残って、体は置き去りにされたままだ」
「そんな馬鹿な話があるわけ……」
「そんな馬鹿な話があるんだ」
「幽霊なんているはずがない、タチの悪いいたずらならやめてくれ」
男は死を受け入れられてはいないらしい。自分の縄張りを決め、その中でひたすら待機。自分に気づいてくれる人間を待っていたらしい。学校に行っても友人は気がつかず、家に帰っても親が気がつかない。現世に魂だけ残ってしまった彼は、優斗たちとは違い、完全な幽霊だろう。しかし、なぜか能力を持っている。
多少落ち着きを取り戻した男は、まだ疑わしそうな目を優斗に向けながらだが、自己紹介をした。
「俺は浅田健仁、高校生だ。それで、あの化け物やお前らデッドガーディアンズとやらについて教えてくれよ」
優斗はイーターやデッドガーディアンズ、平行世界についての説明をする。聞いていくうちに健仁の表情は暗くなり、聞き終えたところで涙を流し始めた。
「そうだよな、俺だってあの化け物と戦ったんだ。信じるしかねえよな……」
死を認めたのか、健仁は悲しそうに俯く。青春半ばで、なおかつ誰も気づいてくれない環境に来てしまったのだから、無理はないだろう。しかしなぜ、彼は平行世界に飛ばされなかったのだろうか。優斗たちと同じように平行世界に来てもいいはずだろう。
「……てことはよ、俺はこの世界にいる限り一人のままなんだろ?」
「そうなる、かもな……」
「ならよ、俺をそっちの世界に連れていってくれよ。お前たちがこっちの世界に来れるなら、俺がそっちにいくことだって簡単なはずだ。そうだろ?」
確かにそうだ。彼をこのまま残すのも気が引けるし、出来ることなら連れて帰りたい。優斗はナビを開くと、サラディンに連絡をいれる。忙しいのだろうか、しばらく鳴っても出ないので諦めて切ろうとすると、サラディンが出た。
『はい、サラディンですが』
「サラディン、頼みがあるんだ」
『ああ、優斗君か。用件はなんだい?』
「幽霊を連れて帰りたいんだ。出来るか?」
用件を伝えるが、すぐには返事がこない。話し合うような声が聞こえるが、詳しくは聞き取れなかった。少しして返事が返ってくる。
『了解。今から転送収容の準備をするから、少し待ってて』
その言葉を聞くと、健仁は嬉しそうに顔を上げる。それから数分後、4人は本部へ転送された。
本部長室では、剛力、アリア、サラディンの3人が話し合いをしていた。
「イーターを操る男、か。アリア君はどう考えている」
剛力に質問され、アリアが答える。
「私は極めて危険度が高いと考えてます。場合によっては、早期に討伐隊を編成する必要があるかと」
「そうだね、私も同感だよ」
剛力が頷き、同意を示す。サラディンはこの危機についてかなりのシュミレーションをしたが、知能のないイーターに戦略を与える存在がいると考えると勝機は薄い。せめて、ジェノ策士が生きていればと考えるが、過ぎたことは仕方ないと諦める。
「最近は特に異質なことが多くなってきています。以前の襲撃から敵の進行ペースが変わらないことを考えると、相当な戦力があると想定されます」
「そうか……」
剛力が苦笑いをしながら頭を抱える。彼でさえここまで追い詰められているのだから、よほどの事態なのだろう。せめて、剛力ほどの力を持つものがあと数人いればと考える。かつて紅き戦場の妖精と称えられた彼女がいれば、そう考える。
剛力が期待を寄せている若い世代はどうだろうか。優斗は攻撃のバリエーション、威力ともにかなりの戦力だが、いまいち実践経験が足りない。奏は中の上といったところだろう。アイカの守りは強力だが、守るだけではどうしようもない。もう一人怪しい男がいた。だが、協調性に欠ける彼では戦場に出すのは危険だ。
進展のない話し合いにため息をついていると、ナビがバイブレーションを鳴らす。剛力に許可を得て通信を開始する。そして、用件を聞いたところでサラディンは驚愕した。剛力に許可を得るために用件を伝える。
「向こうの世界で幽霊が現れたそうです」
「幽霊?」
「はい。デッドガーディアンズに入りたいとのことなんですが……」
剛力は「これ以上のイレギュラーをどうしろと……」と頭を抱えてから許可を出した。
本部長室を出ると転送室に向かう。サラディンは転送収容の準備を始めた。
新キャラですね~




