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死後生活―アフターデッド・ライフ―  作者: 黒肯倫理教団
第三章

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29話 紅き戦場の妖精

奏の話です。

 奏はいきなりのことに戸惑っていた。アイカと名乗る少女は、優斗を見つけるなり抱き付いていた。あれほどの度胸は奏にはないため、アイカのスキンシップだけで差が開いてしまう。

 「はあ……」

 今日何度目かのため息をつく。アイカは自分より二歳年下の14歳だ。その彼女と大差ないサイズの胸を恨めしく思うが、今更どうなることではない。

 今日も出来る限りのおしゃれをしたつもりだったが、アイカのインパクトに負けてしまい気づいてもらえなかった。

 恋とはこれほどまでに辛いことなのかと、奏は驚いていた。昔から友達のいなかった奏は、身を守ることに必死で恋などする余裕がなかった。

 当然、思い描いた理想の中には友達もいた。だが、人付き合いの苦手な奏では、たいしたイメージトレーニングにはならなかった。

 どうすれば目立つことが出来るのだろうか。アイカが来てから、奏は自分の影が薄くなってしまったような、そんな錯覚に囚われる。アイカに優斗を取られ、昔のように一人になってしまうのではないかと不安に駆られる。

 今自分に出来ることはなんだろうか。日常生活では目立てない。ならば、戦闘で頑張ればいいだけのことだ。アイカに出来ることはせいぜい結界を張ることだけだろう。自分には遠距離からの援護射撃に加えて近距離での物理攻撃も可能だ。今のところは優斗の攻撃だけで足りているが、いずれ優斗だけでは倒しきれない敵が現れるだろう。その時こそ、優斗の気を引き付けることが出来る。

 自分の理想は何か。ふと、考えてみた。以前の自分は、身を守るための力を欲していた。それゆえに他者を拒むような金属を理想としていた。

 ならば、今の自分の理想は何か。鏡を取り出して顔を見つめる。燃えるような赤い髪は、優斗に対する愛の熱さを表すようだった。

 今の自分の理想――赤く燃え上がる炎だ。己の道を邪魔する敵を焼き払い、優斗を求める。頭の中で想像するだけでも体がぞくぞくする。背中から羽のように噴出させた炎で戦場を舞うように駆け、敵を焼き払う。

 だが、時すでに遅し。生前の理想とは真逆の、他者を拒む理想から他者を求める理想。今更能力の変更など出来ない。ナビをいじりながらため息をつくと、視界の中に戦闘道具屋という文字を見つけた。能力ではないにしろ、炎が使えるようになるかもしれない。そう考えた奏は、戦闘道具屋に向かった。




 「いらっしゃい」

 渋い声の中年の男が店の奥から姿を現す。剛力ほどではないにしろ、かなりの筋力量だ。

 「炎が使えるようになる道具を全部見せてください!」

 「全部か? ……わかった」

 意味深な表情をしてから、店主は奥に入っていく。数分間待つと、店主はたくさんの道具をもって出てきた。

 「これはどうだ?」

 渡されたのは銃で、見た目はライフルといったところだろうか。しかし、奏のイメージする美しさを持っていないため却下。続く道具も同様に、美しさがない。何度か断り続けていると、店主は道具を持って奥に行ってしまった。わがままだっただろうかと考えていると、店主が再び何かを持って出てきた。

 「お望みの品は、これだろう」

 店主が持ってきたのはコンバットスーツに付いているような装甲で、燃え上がるような赤色をしている。いかにも炎と言った感じの装甲は、奏の興味を引く。

 「これは、かつてイーターとの大規模な戦争があったときに死んだ戦闘員の装甲だ。これを装備していた女は紅き戦場の妖精とまで称えられた英雄の1人だ」

 「紅き戦場の妖精……」

 奏のイメージとぴったりな能力かもしれない。しかし、なぜ装甲だけ残っているのだろうか。臨海基地で見た限りでは、コンバットスーツの装備者が死ぬと同時にスーツも消えたはずだ。

 「なぜ装甲だけ残っているのか不思議に思っているだろう。簡単な説明をするならば、この装備者が装甲だけを外していたからだ」

 「外していた?」

 「そうだ。詳しい事情は知らんが、何か一時的に外す必要があったんだろうな」

 「えっと、この装甲の効果は何ですか?」

 「自在に炎を操り、物理攻撃から遠距離攻撃、翼を展開して飛行する能力もある」

 「それ買います!」

 「金は要らない。もともとただの遺品だからな」

 そう言って、店主は奏に装甲を手渡した。奏のナビを貸すように言われ手渡すと、何やら操作をしてから渡してきた。

 「これでいつでも装甲の変更が出来るだろう。装甲変化と言ってみるんだ」

 「装甲変化!」

 奏が声を上げると、体の中を熱い何かが駆け巡るような、しかしそれでいて心地よく感じる。奏の体の大きさに合わせ、装甲の形も変化した。今までなかったかのような、不思議な力を感じる。

 「他人の装甲は体力の消耗が激しい。ここぞという時だけ使うようにしておくんだ」

 「わかりました!」

 親切な店主にお礼の言葉を言い、奏は店を出た。紅き戦場の妖精、その響きだけで嬉しくなる。これで優斗の気が引けるかもしれないと考えると、心が踊る。

 明日に備えて、奏は早めに休憩に入った。


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