11話 お金がない!
個人的にはサラディンを苦労人キャラにしたいですね。
どうにかこれで千体。レベルで言うと上級戦闘員と同じくらいだ。長時間戦い続けたこともあり、疲労はピークに達している。
この訓練は、ワンランク上がるごとに一時中断することが出来る。ちょうど千体を倒した優斗は迷うこと無く中断を選んだ。
「はあ……」
体に疲労がたまっている。出来ればマッサージでもしてもらいたいが、してくれる人がいない。せめて飲み物で喉を潤そうと自販機のもとへ行くが、ひとつ問題が生じた。
「俺は金を持ってない!」
考えてみればそうだった。死んだときに魂以外はあちらの世界に置いてきてしまったのだから、所持品があるわけがない。
喉が乾いてしょうがないが、金がない。どうしようか考えていると、すぐにある人物の顔が浮かんだ。ナビに登録してある番号からサラディンを選び、コールボタンを押す。
『はい、サラディンですが』
「サラディン大変だ! 俺は金を持っていない!」
いきなりナビから聞こえた大声に、サラディンは爽やかに驚く。
『お、落ち着いて。優斗くんだよね?』
「あ、はい。そうです」
サラディンも驚くほどの口調の変化だった。
『別に話しやすいならため口で構わないよ。えっと、お金に関して話してなかったっけ?』
「何にも」
『ああ、それは悪かったね。今から説明させてもらうよ。まず、お金なら優斗くんはすでに持っているはずだよ。ナビを見てみれば、右上に所持金が表示されているだろう』
ナビのモニターを展開し、右上を確認してみる。そこには、2500ポイントと表示されていた。
「サラディン、このポイントって単位の大きさがよくわからないんだが」
『それは、向こうの世界で言うと円の百倍くらいかな』
えっと、2500×100=250000。てことは……
「25万円もあるのか!」
『そんなにあるのか!』
二人とも驚いていた。なぜこれだけの金が一日で手に入ったのかが不思議だ。幼馴染みを助けるために行った戦闘では、十数体しか倒していない。稼いだとしても一万が限界だろう。
『ち、ちなみに今日は何をやっていたんだい?』
「訓練場で勝ち抜き戦方式のやつをひたすら……」
『何体抜きまでやったんだい?』
「千体抜きまでやったんだが」
『そんなバカな!』
勝ち抜き戦は戦えば戦うほど賞金が増えるシステムで、同時に上級戦闘員になるための資格を得る場でもある。大抵の人は、上級戦闘員になるまでに数年はかかる。生前にした妄想が足りず、中途半端な技でしか戦えないためである。中には、性的な妄想しかしなかったために非戦闘員として本部や各施設で働くものもいる。
『ちなみに、優斗くんは生前にどれだけの妄想をしたんだい?』
「エブリデイ・エブリタイム。物心ついたときにはすでに妄想をしてた気がするな」
笑いながら言う優斗に対し、壮絶に落ち込むサラディン。ここまでのクラスになると、もはや思い付く技はすべて生前に妄想をしていると言えるレベルだろう。
食事に行くと言った優斗から通信が途切れると、サラディンは手元の水を飲み干して自らを落ち着かせてからこう言った。
「そんなバカな……」
食事を済ませた優斗は、疲労も限界に達しているため自分の部屋に戻って寝ることに決めた。今日のことを整理しながら寝るとしよう。
俺は、いつものように咲と登校した。浩介との談義に熱くなり、授業中は浩介の言っていた遠距離攻撃をイメージトレーニングした。確か、その辺りで嫌な寒気を感じたはずだ。確信はないが、あれが原因としか考えられないだろう。
そして放課後。いつもと違う積極的な咲に誘われ、公園に行った。そしてあの帰り道だ。あの痛みはいまだに忘れられない。もし俺が妄想をしていなかったら、あのグロテスクな光景には耐えられなかっただろう。こっちの世界に来たときに正常でいられたのは奇跡のようなものだ。
こっちの世界では色々あった気がするな。ただ、絶望しきった咲の顔しか思い出せない。今も彼女は泣いているだろうか。早く助けなければならない。
サラディンから聞いた話だが、絶望に囚われた人間を助け出すにはイーターを倒すのが手っ取り早いという。イーターはもともと絶望を吸収するために人を喰らう。イーターを倒すことにより、その絶望を喰らう器が剥き出しになり、獲物の絶望のみを吸収するという。それを繰り返せばいずれ、咲は絶望から解放されるようだ。
「咲を助けられるように頑張らないといけないな」
ここまで整理し終えたところで、優斗は意識を眠りへ落とした。
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