第92話: ゴブリンさん、黒鉄装備で十二階層へ行く
翌日。
昨日、黒鉄装備を持たせた501匹を青梅ダンジョンの9階層へ向かわせた。
一晩たっているので、俺たちが大部屋に着く頃には、探索組はもう戻っていた。
大部屋では秋田鉱山組が相変わらず鉱石を運んでいる。
ただし、昨日のように目をぐるぐるさせながら台車を押している個体は少ない。
休憩という概念を覚えたらしい。
大部屋の端では、台車の横でハイゴブリンが数匹、すやすや寝ていた。
その横を、別のハイゴブリンがそっと台車を押して通っていく。
休憩中の仲間を起こさない配慮がある。
ゴブリン社会にも少しずつ労務管理が生まれている。
たぶん労務管理というより、倒れたやつを踏むと邪魔、くらいの理解だと思う。
「ゴブリンは『休憩』を覚えた」
「成長したな」
「普通のコトっス」
青梅側のゲートからは、黒鉄鉱石が乗った台車が何度も戻ってくる。
秋田鉱山5階層で掘って、青梅の大部屋へ運ぶ。
鉱石は大部屋の端に積む。
大部屋の反対側では、黒い盾と黒い武器を持ったゴブリンたちが固まっていた。
9階層帰りの探索組だ。
先頭のファイターが、俺たちに気づいて手を上げる。
ざっと見た感じ、思ったより数が残っている。
俺はチアキを見た。
<確認します>
チアキがすぐに数を拾う。
<帰還489匹です。出発時501匹から、死亡12匹。死亡はハイゴブリンオスのみです>
「十二匹で済んだか」
「ゼロに等しいな」
ファイター50匹は全員帰還。
マジシャン51匹も全員帰還。
死亡したのは、黒鉄の剣や槍を持ったハイゴブリンオスの一部だけだった。
9階層までなら、黒鉄装備はかなり効いている。
火鉱石の盾みたいな対火球の特化性能はない。
でも、普通に硬い。
普通に折れにくい。
普通に生き残りやすい。
普通に戻ってくる。
それだけで強い。
戻っていたゴブリンたちは、黒鉄装備をやたら自慢してきた。
『隊長、黒い盾、かたかったっス!』
『槍、よく刺さったっス!』
『剣、折れなかったっス!』
「陳腐な感想しかないな」
「なっつん泣くっスよ」
魔石のカバンも戻っていた。
9階層なので、12階層帰りほどの重さはない。
それでも、死亡12匹でこれだけ持って帰ってきたなら十分だ。
「ならしは終わりだな。今日から12階層だ!」
装備の残りも確認する。
なっつんが作った黒鉄装備は、盾300個、剣300本、槍300本。
昨日、9階層へ送り出した時に、ファイター50匹へ盾。
ハイゴブリンオス400匹へ剣200本、槍200本。
その時点で、盾250個、剣100本、槍100本が余っていた。
9階層で死んだ12匹は、剣持ち6匹、槍持ち6匹。
回収した装備と余りを合わせると、盾300個、剣294本、槍294本。
「12階層でどれくらい装備が返って来ないかだよなぁ」
「すぐになくなったら次になっつんが来るの6日後だぜ」
ううむ、なっつんが来るまでは装備の在庫はゼロにしたくないな。
「よし。次は出産チェックだ」
檻の方へ向かうと、昨日生まれた赤ちゃんたちはもう成体化していた。
檻B行きだった556匹は、新しい戦力になっている。
ハイゴブリンオス445匹。
ゴブリンファイター55匹。
ゴブリンマジシャン56匹。
確認した9階層帰り489匹と合わせれば、1000匹超えだ。
母檻側のハイメス赤ちゃん62匹も、成体メスになっていた。
ゴブタロウ檻のハイメスは496匹。
スカー檻のハイメスは37匹。
チビ檻のハイメスも37匹。
ヤリ檻のハイメスは50匹。
メスが増える。
赤ちゃんが増える。
翌日には戦力が増える。
この牧場、成長速度だけなら世界一を狙える。
もしかして一番強い探索者なんじゃない?
メスゴブリンたちが、今日生まれた赤ちゃんを土の滑り台トンネルへ運んでいく。
ころころ。
ぎゃあぎゃあ。
ずるずる。
赤ちゃんたちは、種類ごとの場所へ流れていく。
コハルは魔石袋を浮かせて端に寄せている。
赤ちゃんには触らない。
そこはもう運用が固まっている。
<本日の赤ちゃんを集計します>
チアキのチャットが流れた。
<ゴブタロウ檻、合計520匹。ハイメス赤ちゃん50匹、ハイゴブリンオス赤ちゃん470匹です>
「ブラック企業へようこそ」
「ブラックって認めてるんスね」
そりゃあ……ね?
<本日の赤ちゃん合計は648匹です。内訳は、ハイメス赤ちゃん63匹、ハイゴブリンオス赤ちゃん470匹、ファイター赤ちゃん57匹、マジシャン赤ちゃん58匹です>
「648匹か」
「中学、高校くらいの規模っスね」
「最終的に小国の人口くらい生まれそうだな」
「ゴブタロウ、そろそろ表彰状より休暇が必要っス」
ゴブタロウはまだいけるのだろうか?
やつをチラリと見ると、いびきをかきながら気持ちよさそうに寝ている。
大丈夫そうである。
「何階層にいかせるよ?」
「12階層一択です」
「今回はどうっスかねぇ」
合流させると、12階層探索組は1045匹になった。
ハイゴブリンオス833匹。
ゴブリンファイター105匹。
ゴブリンマジシャン107匹。
1000匹を超える部隊。
改めて見ると、かなり大きい。
前回1000匹超えた時よりもファイターとマジシャンの数が桁違いだ。
今回はもっといい結果になるだろう。
装備も良くなったしな。
黒鉄盾300個のうち、ファイター105匹へ盾を配る。
盾は195個余る。
黒鉄剣294本と黒鉄槍294本。
合わせて588本を、ハイゴブリンオス833匹へ配る。
黒鉄武器持ちは588匹。
残り245匹は、いつもの武器や拾い物を持つ。
マジシャン107匹は後方から火球。
「テメェら準備はできてるかー!」
『できてるっすー!』
『余裕っすー!』
『ちょっと眠いっすー!』
「前回の12階層は半分の同胞たちが勇ましく散って行った」
「だが、お前らは前回散っていった雑魚どもとは違う」
「右手の装備を見ろ! 黒く光沢のある素晴らしい輝きを!」
「なんかゴキみたいっス」
コハルさん、ちょっと黙ってて?
「お前らならできる! 損害を100匹以内に抑え、無事に帰ってくるのだ!!」
「やけに具体っス」
損害率10%がいいなと漠然と思ってるだけです
「ゆけい! お前らの勇姿を見せてくれ!」
「私らは見に行かないっスけど」
コハルさん、気分だからいいんだよ?
『『『ウラーーーラーーーラーー!!!』』』
いつもよりもテンション高めでゲートに吸い込まれていくゴブリンたち。
やっぱり鼓舞した時の方がやる気が違うね。
コハルが魔石のカバンを浮かせた。
12階層帰りほどではないが、それでも袋はちゃんと重い。
7階層ゲートから入り、9階層まで回った分である。
俺たちは管理所へ戻った。
受付では、ゆきちゃんがいつも通りスマホを見ている。
「換金お願いしまーす」
「はいはい」
魔石が換金機に流れていく。
結果は、1078万4000円。
「なんか感動があまりないな」
「普通に大きい金額だけどな」
「テンションがあまり上がらないっスー」
<明日に期待しましょう>
俺の不労所得たちよ、頼んだぞ
現在のゴブリン牧場の状況(3307匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + ハイメス496匹 + ハイメス赤ちゃん50匹)
ゴブタロウ1匹
ハイメス496匹
ハイメス赤ちゃん50匹
・スカー檻(スカー + ハイメス37匹 + ハイメス赤ちゃん4匹)
スカー1匹
ハイメス37匹
ハイメス赤ちゃん4匹
・チビ檻(チビ + ハイメス37匹 + ハイメス赤ちゃん4匹)
チビ1匹
ハイメス37匹
ハイメス赤ちゃん4匹
・ヤリ檻(80匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス50匹
ハイメス赤ちゃん5匹
・檻B(585匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん470匹
ファイター赤ちゃん57匹
マジシャン赤ちゃん58匹
・秋田鉱山組(966匹)
ハイゴブリンオス711匹
ゴブリンマジシャン109匹
ゴブリンファイター146匹
・青梅12階層探索組(1045匹)
ハイゴブリンオス833匹
ゴブリンファイター105匹
ゴブリンマジシャン107匹
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