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借金持ちの俺、ゴブリン牧場で大金を稼ぎます  作者: といとい


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第84話: ゴブリンさん、まだ帰ってこない

ゴブリンたちを7階層ゲートへ送り出したあと。

大部屋は、さっきまでの叫び声が嘘みたいに静かになった。


探索組829匹は、10階層へ向かったまま戻ってこない。

となると、今のうちにやることはひとつ。

出産チェックである。


「静かだな」


「10階層攻略いけそうっスかね?」


「盾まで用意して、探索する数も増やしていけなかったら困るぜ」


檻の中では、ハイメスたちがいつも通り赤ちゃんを抱えていた。

ゴブタロウ檻では、メスたちの足元に赤ちゃんがまとまっている。

探索組がいないだけで、大部屋が妙に広く見えた。


いつもならどこかでゴブリンが走っていたり、武器を持って騒いでいたりする。

今日はそれがない。

うちの牧場、主力がいないとただの大きい檻である。


「まずゴブタロウ檻から数えるぞ」


「了解っス」


メスゴブリンたちが、赤ちゃんを一匹ずつ回収用の仕切りへ運んでいく。

メスたちも慣れたもので、赤ちゃんを抱えて、短い土の通路へぽいぽい流していく。


工場みたいな手際だ。

いや、どっちかというと養鶏場かな?


チアキが順番に数字を出していく。


<ゴブタロウ檻は、ハイメス赤ちゃん32匹、ハイゴブリンオス赤ちゃん288匹です>


ゴブタロウ檻だけで320匹。

相変わらず数がおかしい。


<スカー檻は、ハイメス赤ちゃん2匹、ファイター赤ちゃん22匹です>


スカー檻は合計24匹。

ファイターが増えるのはありがたい。


<チビ檻は、ハイメス赤ちゃん2匹、マジシャン赤ちゃん22匹です>


チビ檻も合計24匹。

こちらはマジシャンが増える。


最後にヤリ檻。

ここはファイターとマジシャンが混ざっているので、両方生まれる。


<ヤリ檻は、ハイメス赤ちゃん3匹、ファイター赤ちゃん14匹、マジシャン赤ちゃん16匹です>


ヤリ檻は合計33匹。

出産チェックだけで、もう集計作業みたいになっている。


今日確認した赤ちゃんは合計401匹。

内訳は、ハイメス赤ちゃん39匹、ハイゴブリンオス赤ちゃん288匹、ファイター赤ちゃん36匹、マジシャン赤ちゃん38匹。

探索組は出払っている。

数字だけ見ると、牧場は増えている。

でも魔石は増えない。

換金するものもない。

探索組は帰ってこない。


「今日、することなくない?」


「ないっス」


「とりあえず帰るか」


口に出してみると、本当にやることがなかった。

ゴブリンが10階層で戦っている間、俺たちは安全な大部屋で待っているだけである。

連絡手段が欲しい。

『あ、これから大部屋に戻るっす!』とか言ってくれたら、その日のうちに魔石を回収できる。

でもゴブリン用スマホを持たせたところで、たぶん秒で割る。

そもそも画面を押せるのかも怪しい。

音声入力にしたら、大量の『ウラーーラーーラーー!!!』で全部誤作動しそうだ。


ひとまず数字だけチアキにまとめてもらい、俺たちは大部屋で顔を見合わせた。


「お前ら、このあと暇?」


「三郎ラーメンに行く」


「帰ってゲームっスね」


<SNSを徘徊します>


「よし、お前らが超絶暇人なことはわかった」


全員暇だった。

可哀想なやつらめ。

もちろん俺も暇である。

社畜時代は、暇なんてほとんどなかった。

数少ない休日も、寝て、飯を食って、気づいたら夜になっていた。


今はダンジョンでゴブリンを増やし、魔石を売り、暇な時間に何をするか悩んでいる。

人生の落差がひどい。

でも暇って素晴らしい。

暇サイコー。


「じゃあ、お前ら俺に付き合ってくれん?」


「どこ行くっス?」


「天空の城」


「っス?」


コハルが首を傾げる。

ブタオも同じ顔をした。

チアキだけは無表情のままスマホを構えている。

たぶん、天空の城で検索している。

やめろ。

そういう意味ではない。


「タワマンだよ」


「タワマンを天空の城って言ったんスか?」


「高いところに住むんだから、だいたい天空の城だろ」


「だいぶ雑っス」


「毎回ブタオの車に乗るのも悪いしな」


「俺は別にいいけど?」


ブタオは本当に気にしていない顔で言った。

それはありがたい。

ありがたいが、毎回ブタオの車に乗って移動するのも、そろそろ生活としてどうなんだという気持ちがある。


それに、今のアパートだ。

防音性ゼロ。

壁が薄い。

隣の部屋の咳払いまで聞こえる。

流石にヤッてる声までは聞きたくない。


金はある。

借金もある。

でもそろそろ借金は返せそう。


借金があるのに金使うのかって考え方もあるが、もう返せる見込みしかないので先に環境を変えることを優先したい。


俺たちは大部屋を出て、青梅ダンジョンの管理所へ戻った。

ゆきさんは受付でスマホを見ていた。

いつも通りである。


「ゆきさん、この辺でタワマン扱ってる不動産屋ってあります?」


「急に成金」


「言い方」


「駅前にあるよ。探索者向けの高い物件も扱ってるところ」


「探索者向け?」


「防音、広めの収納、武器持ち込み相談可、管理所まで車で近い、みたいなやつ」


なるほど。

探索者には探索者の住宅事情があるらしい。

武器持ち込み相談可の物件という単語、普通に生きていたら一生聞かなかったと思う。


「じゃあ行ってきます」


「いてらー」


青梅ダンジョン近くの不動産仲介店は、駅前のビルの一階にあった。

ガラス張りの店内に、物件情報の紙がずらっと並んでいる。


家賃8万円。

家賃12万円。

家賃18万円。


その辺までは、まだ人間の数字に見える。

奥の方に、月々70万円とか、月々350万円とか書かれた紙があった。

急に数字がダンジョンになるな。


店に入ると、スーツ姿の店員がこちらを見た。

一瞬だけ、目が値踏みするように動いた気がした。


まあ、分かる。

俺たちは高級物件を見に来た人間というより、ラーメン屋の帰りに涼みに来た集団に見える。

ブタオはいつも通りだし、コハルはテンションが高いし、チアキはスマホを持って無言だ。


俺も高級物件を借りる顔をしていない。

高級物件を借りる顔って何だ。


「いらっしゃいませ。本日はお部屋探しでしょうか?」


「はい。タワマンを見たくて」


「タワーマンションですね。ご予算はお決まりですか?」


店員の声は丁寧だった。

丁寧だったが、目は少しだけ冷やかしを疑っている。

俺は慌てて探索者証を出した。

なんかこういう時、身分証明できるものがあると強い。


「青梅ダンジョンで探索者をやってます」


「探索者の方でしたか」


店員の顔が、すっと営業モードに切り替わった。

なるほど、と納得したように頷く。

探索者という職業、社会的信用があるのかないのかよく分からない。

ただ、一発当てる人間がいることは知られているらしい。


「ご予算の上限はございますか?」


「上限は、まあ、特にないです」


言った。

一度は言ってみたい台詞ではあった。

でも実際に口に出すと、背中がむずむずする。


上限はない。

言葉だけなら大富豪である。

中身は元社畜の小心者だ。


店員は少しだけ目を丸くしたあと、すぐに端末を操作し始めた。

さすがプロである。

冷やかし疑惑が消えた瞬間、動きが速い。


「青梅ダンジョンへのアクセス重視ですと、まずこちらですね。車で10分ほどのタワーマンションです。月々70万円」


画面に、きれいな外観写真が出る。

高い。

でも、今の感覚だと払えない金額ではない。

この感覚がもう怖い。

社畜時代の俺が聞いたら、たぶん椅子から落ちる。


「次に、こちらです。車で15分ほど。最上階のお部屋で、月々350万円」


「さんびゃくごじゅう」


思わず復唱した。

月々350万円。

年収と聞き違えたかな?

あ、あってる。左様ですか。


でも1日で稼げる額ではある。

よし、問題なし。

ゴブリン牧場万歳。


「最上階っス!」


「天空の城じゃん」


「ボンさん、さっきの回収しにきたっスね」


「してない。物件が寄ってきた」


寄ってきてはいない。

店員が出してくれただけである。


「最後に、賃貸ではなく購入になりますが、車で20分ほどの別荘タイプの物件がございます。価格は3億5000万円です」


「別荘」


「買うっスか?」


「待て待て待て。今日、暇つぶしで来たんだぞ」


暇つぶしで3億5000万円の物件を提案される人生。

やっぱりダンジョンは人をおかしくする。

いや、俺がおかしくなっているだけかもしれない。


候補は三つ。


ダンジョンから車で10分のタワマン、月々70万円。

ダンジョンから車で15分のタワマン、最上階、月々350万円。

ダンジョンから車で20分の別荘、購入で3億5000万円。


どれも昔の俺なら、見学することすら考えなかった物件だ。

でも今は、候補として並んでいる。

怖い。

金があるって怖い。


「どれ見るっスか?」


「最上階」


即答していた。

自分でも驚くくらい早かった。

だって最上階である。

天空の城である。

モテそうじゃないか?

いや、モテるに違いない!


「最上階の物件をご案内しますね」


店員がにこやかに立ち上がった。

俺たちもぞろぞろと席を立つ。


ブタオ、コハル、チアキ、俺。

全員でタワマン内見。


ゴブリンたちが10階層で戦っている間に、人間側は最上階タワマンを見に行く。

これが資本主義だゴブリンどもよ。

キリキリ働けぇい!


⸻


現在のゴブリン牧場の状況(1629匹)

⸻⸻⸻⸻⸻⸻

・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + ハイメス297匹 + ハイメス赤ちゃん32匹)

ゴブタロウ1匹

ハイメス297匹

ハイメス赤ちゃん32匹

・スカー檻(スカー + ハイメス22匹 + ハイメス赤ちゃん2匹)

スカー1匹

ハイメス22匹

ハイメス赤ちゃん2匹

・チビ檻(チビ + ハイメス22匹 + ハイメス赤ちゃん2匹)

チビ1匹

ハイメス22匹

ハイメス赤ちゃん2匹

・ヤリ檻(58匹)

マジシャン13匹

ファイター12匹

ハイメス30匹

ハイメス赤ちゃん3匹

・檻B(362匹)

ハイゴブリンオス赤ちゃん288匹

マジシャン赤ちゃん38匹

ファイター赤ちゃん36匹


・探索組(829匹)

ハイゴブリンオス580匹

ゴブリンマジシャン129匹

ゴブリンファイター120匹

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