第83話: ゴブリンさん、盾を持つ
翌日。
俺たちはまず、なっつんの工房へ向かった。
一昨日、頼んでいた盾を受け取るためだ。
「本当に300個できてるんスかね」
「やってなかったら突貫でやらせよう」
「言い方がひどいっス」
「こっちは今日10階層なんだよ」
作ってもらう側の発言ではない。
でも今日は盾を受け取って、そのまま10階層である。
多少は気が急く。
俺はゴブリンを安全圏から運用していたいのであって、自分の足で下層に行きたいわけではないのだ。
工房に着くと、床一面に小さな盾が並んでいた。
アイアンタートルの甲羅を使った盾だ。
サイズはゴブリンファイター用。
人間用よりは小さいが、ガタイのいいファイターが構えるにはちょうどいい。
「なっつん、助かった」
「次からはもう少し余裕もって言ってよね」
「善処します」
「それ、しない人の言い方じゃん」
思い立ったらなんとやらだよなっつんさん。
なっつんは盾の出来をざっと説明してくれた。
軽さよりも、火球を受けることを優先した作りらしい。
前回、10階層でマジシャンの火球にだいぶやられている。
今回はその対策だ。
<収納します>
チアキが盾に手を向ける。
床に並んでいた300個の盾が、まとめてすっと消えた。
相変わらず便利すぎる。
これ、配送業界が見たら泣くと思う。
俺たちはなっつんに礼を言い、そのまま青梅ダンジョンへ向かった。
管理所を抜け、いつもの大部屋へ入る。
昨日の赤ちゃんたちは、もう成体になっていた。
ハイゴブリンオス190匹。
ゴブリンマジシャン35匹。
ゴブリンファイター34匹。
それに、各母檻のハイメス47匹。
昨日まで転がっていた連中が、今日は普通に立っている。
もう驚きは薄い。
薄いが、数字だけ見ると相変わらずおかしい。
数の確認を終えたところで、俺は盾を配るためにファイターたちを呼んだ。
チアキの収納から盾が次々と取り出され、ゴブリンファイターの前へ積まれていく。
『盾ダァ!』
『これで燃えにくいっス!』
『前に出るっス!』
「やる気があって大変よろしい」
ファイターたちは盾を持つと、やたら胸を張った。
がっしりした体に、甲羅の盾。
見た目だけなら、でかい盾を持った原始人。
ただし中身はゴブリン。
声はうるさい。
ファイターは全部で120匹。
盾は300個。
全員に配っても、180個余る。
余った盾は大部屋の隅に重ねておく。
なんかすぐなくなった気がしてくる。
その前に、昨日言われたゲート設置だ。
今ある青梅のゲートは、2階層と3階層まで。
つまり、7階層へ行くにはかなり歩く。
「行くのやだなぁ」
「昨日、自分で設置するって言ってたっスよ」
「言ったけどさ。怪我でもしたらどうすんだよ」
「俺、腹痛くなってきたわ」
ブタオが腹を抱える。
ブタオ、それは多分来る途中に食べたメガ大盛りカレーを2杯食べたからだ。
前回もゴブリンに前後を挟まれて探索したが、これほど安全な探索もないだろう。
帰ろうと思えばチアキにゲートを作ってもらえばいいしな。
あ、なんか怖くなくなってきた。
俺たちは3階層ゲートをくぐった。
前に盾持ちファイター、左右にハイゴブリン、後ろにマジシャンを置く。
緑色の壁に挟まれて進むと、通路の先で何度か金属音が鳴った。
ハイゴブリンの背中の向こうで何かが倒れ、チビの系統らしいマジシャンが魔石を拾う。
たぶん戦闘はあった。
ただ、敵の姿はほとんど見えない。
4階層に着くと、チアキが階段脇にゲートを設置した。
青白い渦が開き、大部屋とつながる。
同じ流れで5階層、6階層にもゲートを置いていく。
作業としては順調だ。
「これ、俺たちいる?」
「チアキちゃんの護衛っス」
「なら俺、いらなくない?」
「隊長だからいるんじゃね?」
何も仕事ない隊長ってどうなの?
あれ、これってまさか仕事しなくてもお金が入るという不労所得というやつでは!?
7階層に着く頃には、俺は歩いただけでだいぶ疲れていた。
戦闘をしていないのに疲れる。
探索者としての才能がない。
「着いた……?」
「7階層っスね」
「もう帰りたい」
「チアキちゃんお願いっス」
チアキが階段脇に立ち、静かに手を掲げた。
指先に青白い光が集まり、空間が水面みたいに揺れる。
やがて、見慣れた渦がゆっくりと形になった。
<設置できました>
「よし。これでだいぶ短縮できるな」
「帰ろうぜー」
<はい>
俺たちは新しくできた7階層ゲートに入り、大部屋へ戻った。
一瞬で安全地帯。
やっぱりゲートは偉大である。
探索者が高い金を払ってでも欲しがるわけだ。
もうチアキに養ってもらおうかな?
皿洗いなら任せろチアキ。
俺をお婿にもらってくれ。
え、ダメ?
そうですか……
大部屋に戻ると、改めて探索部隊を組む。
今日は成体組を全部出す。
使う戦力は、
・ハイゴブリンオス580匹
・ゴブリンマジシャン129匹
・ゴブリンファイター120匹
合計829匹。
どこか戦争にでも行くんか?
ってくらいの迫力だ。
1000匹超えるのもすぐだな。
編成はファイターを軸に40チーム。
各チームにファイター3匹、マジシャン3匹を入れる。
余ったマジシャン9匹は適当に振り分ける。
ハイゴブリンは14匹、15匹ずつ。
これで全員だ。
盾あり、ゲートあり。
前回より条件はいい。
「今日は全員で10階層を攻略するのだ!」
『リベンジっす!』
『盾あるっス!』
『ゲートも近いっス!』
ゴブリンたちの声が大部屋に響く。
やる気はある。
ありすぎる。
こいつら、昨日休んだからか妙に元気だ。
「お前ら今日、10階層を攻略できないなら、帰ってくることは叶わないと思え」
『……ゴクリ』
「安心しろ。お前らが死んでも、第二のゴブリン、第三のゴブリンが仇を取ってくれる」
『なるほど?』
「だから生き残ることを考えず、死ぬまで戦え」
『扱いが雑っす!』
「大丈夫だ。死んでもすぐにまた生まれ変われる」
『ならいっか』
「では行くのだ! 死んでも10階層を攻略してこい!」
『『『ウラーーラーーラーー!!!』』』
ゴブリンたち雄叫びを上げながら勢いよく7階層ゲートへ吸い込まれていく。
最後の一団がゲートに消える。
大部屋が少し静かになった。
俺たちは安全な大部屋に残り、揺れる青白い渦を見つめる。
「これでどれくらい戻ってくるかな」
「結構戻るんじゃね?」
「その結構が何匹かなんだよなぁ」
「盾あるし、前よりはマシだと思うっスよ」
「そうだといいけどな」
あの盾の性能もよく分からんしなぁ。
頼むぜなっつん。
<帰還後の損耗数と魔石量で、次回以降の10階層運用を決めるのがよいかと>
「だな。盾の効果が分からないと、追加すべきか決めにくいし」
「でもまたアイアンタートル倒しに行くっスか?」
「それはやだなぁ」
いくら安いからって死ぬ確率が1%でもあるなら行きたくない。
お金で解決できるならお金で解決させてくれ。
っふ、お金で解決だなんて、俺も金持ちになっちまったもんだな。
でも最近いいもの食べ過ぎてちょっと太ってきたんだよな……
お金持ちが健康に気を遣う理由がちょっとわかりました。
現在のゴブリン牧場の状況(1228匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + ハイメス252匹 + ハイメス赤ちゃん45匹)
ゴブタロウ1匹
ハイメス252匹
ハイメス赤ちゃん45匹
・スカー檻(スカー + ハイメス21匹 + ハイメス赤ちゃん1匹)
スカー1匹
ハイメス21匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス21匹 + ハイメス赤ちゃん1匹)
チビ1匹
ハイメス21匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・ヤリ檻(55匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス30匹
・檻B(0匹)
・探索組(829匹)
ハイゴブリンオス580匹
ゴブリンマジシャン129匹
ゴブリンファイター120匹
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