第8話: ゴブリンさんを捕獲!
ダンジョンから戻ってきた俺たちは、
例によって、受付嬢のところへ向かった。
カウンターの奥では、今日もスマホをいじる姿。
近づくと、彼女はちらりとこちらを見て、無表情で言った。
「……魔石、ないの?」
「一個っす」
俺は即答した。
堂々と、胸を張って。
しかし、受付嬢はスマホから目を離さず、
ポツリと呟いた。
「しょぼ」
「「きびしい!」」
俺とブタオは同時に声を上げた。
受付嬢は、ふーん、とだけ言って、鼻で笑った。
そのままゴツイ機械で魔石の品質を確認すると、千円札をスマホを見ながら渡してきた
(くっそ……なんかムカつく……!)
小さくプライドをえぐられた気分だった。
「……ちくしょー!」
プレハブの建物を出た俺たちは、
裏手の細い道に回り込んだ。
自販機で缶コーヒーを二本買い、
ベンチに腰を下ろす。
プシュッ、と缶を開ける音。
そして、無言でゴクゴク飲む。
「なんなんだよ、あの受付嬢」
「ほんとだよ。あんな態度取るか、普通」
ブタオは缶を握りしめながら、ムスッとした顔で言った。
「顔がいいだけじゃん」
「そうだそうだ!」
「おまけに胸が──」
ブタオが両手で丸を作るジェスチャーをした。
「でけぇ……!」
「でけぇな!」
「でけぇよな!」
「しかも上から睨んでくるから、余計に強調されんだよ!」
「それな!」
「多分あれはFと見たね」
「いや、Hもあり得る」
「……俺、探索者で稼いだらあの子と結婚すんだ」
「その気持ち、ちょっとわかる」
「「……」」
二人で空に浮かぶ雲を眺めながら、缶コーヒーをぐびっと飲み干した。
建物裏の自販機でコーヒーを飲み終えた俺たちは、
そのまま近くのコンビニに向かった。
派手な外食をする気分でもない。
コンビニの店先で、
それぞれおにぎりを二個ずつと、温かいお茶を買った。
「寒ぃな……」
「冬だもんな」
俺たちは人気のないビルの影に腰を下ろし、
コンビニ袋からおにぎりを取り出す。
パリッと包装を剥がして、
一口。
──しみる。
(……うめぇ)
米と塩だけの、素朴な味。
腹が減ってたこともあるけど、
それ以上に、今の俺たちの心に、じんわり染みた。
「ブタオ、また明太子かよ」
「うるせぇ。俺のソウルフードだ」
ブタオは大事そうに明太子おにぎりを頬張った。
「たまには昆布とか梅とかにしろよ」
「お前こそなんで塩むすびなんだよ。平凡すぎだろ。だからボンなんだよ」
「ブタに言われたくねぇ」
「いつかてめぇを食う」
「お巡りさんここにサイコパスがいまーす!」
互いに突っ込み合いながらも、
どこか静かな時間が流れる。
まるで、戦いの前のひとときの休息みたいに。
──食い終わったら、もう一度ダンジョンだ。
今度こそ、ゴブリンを捕まえる。
俺たちは、缶のお茶を飲み干して、
再びゲートビルに向かった。
再びゲートをくぐった俺たちは、
昨日作った大部屋を目指してダンジョンの中を進んだ。
空気は冷たく、湿っている。
「……いた!」
通路の先に、
一匹のゴブリンが姿を現した。
ぎらぎらとした目で、こちらを睨んでいる。
ブタオと顔を見合わせる。
(作戦、開始だ)
俺はバッグからチョコを取り出し──
思いっきり、ゴブリンに向かって投げた。
ポトン。
チロルチョコが、ゴブリンの足元に転がる。
「……」
ゴブリンはそれを見下ろし──
何の興味も示さず、こちらに牙を剥いた。
「──くわねぇじゃねぇかよ!!」
「知るかよ!!」
俺たちは叫びながら、ダッシュで後退した。
「作戦失敗!作戦失敗!!」
「やべぇ、あいつ足はええぞ!!」
後ろからギャギャギャ!!と奇声を上げて追いかけてくるゴブリン。
「ブタオ!火魔法使え!」
「……火魔法?」
「お前が火魔法っつったんだろうが!」
「そうだった!」
ブタオはポケットからライターとスプレー缶を取り出し、足を止めて振り向きざまに火をつけたライターにスプレーを吹きかけた。
「くらえい!」
──ボォッ!!!
先ほどと同じようにゴブリンがびっくりして火に気を取られている。
俺はブタオの横を潜り抜け、バットを思いっきりゴブリンの側頭部にぶち当てた。
ゴインッ!
ゴブリンは糸が切れたように地面に倒れ込んだ。
「やったか!?」
「やっちまった!」
ブタオと2人で恐る恐るゴブリンの生存確認をする。
鼻からちゃんと息をしている。気絶しただけのようだ。
「よし!生きてる!」
「じゃあ例のアレを確認するか」
「……ああ」
俺たちは無言でゴブリンの股間に視線を向けた。
ゴクリ、と生唾を飲む。
(頼む……頼む……!)
もしここでメスゴブリンだったら──
俺たちの牧場計画は、一気に加速する!
期待を込めて、そっとゴブリンの腰布をめくった。
──ぶらんっ。
「……」
「……」
沈黙。
そして、絶望。
「オスだあああああああ!!!!!」
俺たちは二人して天を仰いだ。
「くっそ、なんでだよ!!」
「9割がオスって聞いてたけどさああああ!!」
「1割引けねぇ男って、どうなんだよ!!」
バカみたいに騒ぎながらも──
「……ま、しょうがねぇか」
「とりあえず、飼育できるか試してみるしかねぇな」
気を取り直して、
ゴブリンの足をがしっと掴んだ。
「よっと」
ズルズルズル……
土の床を引きずりながら、ゴブリンを大部屋に運ぶ。
途中で角にぶつかって「ギャッ」とか声を上げてた気がするが、
気のせいということにしておく。
やがて、午前中に作った檻に到着した。
ブタオが頑丈な土の柵を確認して、親指を立てる。
「いけるいける!」
「よし、ぶち込むぞ!」
せーの、と声を合わせて──
ゴブリンを檻の中に投げ入れた。
ズサァッ!
土埃が舞い上がる。
ゴブリンはぴくりとも動かない。
(……よし、今のところ順調だ)
「さて……こいつをちゃんと飼えるかどうか、だな」
俺たちは、檻の中で眠るゴブリンを見下ろしながら、
静かに息を吐いた。




