第7話: ここを俺たちの牧場とする!
翌日。
俺たちは、コンビニの袋を両手にぶら下げながら、青梅ダンジョンゲート管理所にやって来た。
中に入ると、
受付カウンターでは昨日と同じ受付嬢が、スマホをいじっていた。
今日も相変わらずの無気力っぷりだ。
俺たちが近づくと──
ちらりと顔を上げた受付嬢が、
意外そうな顔をして呟いた。
「……へぇ。
また来たんだ」
声は淡々としていたが、
少しだけ、ほんの少しだけ、感心しているように聞こえた。
「もちろんっすよ!」
ブタオが胸を張って答える。
「探索者魂ってやつですわ!」
「へー……がんばってねー」
受付嬢はまたスマホに視線を戻し、
手をひらひらと振っただけだった。
(……ちょっとくらい、応援してくれてもいいだろ)
軽くへこんだが、気を取り直す。
俺たちは、建物奥にある、例の黒いゲートへと向かった。
今日こそ、成果を出す。
そのために来たんだ。
互いにうなずき合い──
俺たちは、再びダンジョンへと飛び込んだ。
ゲートをくぐった瞬間、
いつもの暗く湿ったダンジョンの空気が、肌にまとわりついた。
「……いくか」
「おう」
俺たちはバットとチロルチョコの袋を手に、慎重に歩き始めた。
いつでも戦えるようバットを強く握りしめる。
進んでいくと、すぐに分かれ道に差し掛かる。
「あっちだな」
直感で道を選びながら進むと──
やがて、小さな広間にたどり着いた。
「おっ、部屋か?」
俺たちは顔を見合わせる。
……が。
「せ、せっま……!」
広さはせいぜい三畳ほど。
しかも天井も低く、ジメジメとした空気が漂っている。
「これじゃあ、牧場ってより、ゴブリン牢獄だな」
「却下!」
小さくため息をつきながら、さらに奥へ進む。
──が、次に見つけた部屋も、似たり寄ったりだった。
「また三畳かよ……!」
ブタオが天を仰ぐ。
(そんな簡単に見つかるわけないか……)
嫌な予感を抱えながら、
それでも諦めずに探索を続けた──そのとき。
「──ギャギャ!!」
甲高い叫び声。
通路の奥から、
ゴブリンが一匹、こちらに向かって走ってきた。
「うおっ、きた!!」
慌ててバットを構える。
「ボン、俺に任せろ!」
「お!? ブタオのくせに頼もしい!」
「ふっふっふ……俺には秘密兵器がある!!」
ブブタオが自信満々に取り出したのは──
ライターとスプレー缶。
カチッ。
シュッ。
──ボォッ!!!
火柱が短く立ち上がった。
「必殺! 火魔法──ファイヤー!!」
「……お前、実は火魔法使いだったのか!」
ツッコミを入れながら、俺は火の粉が飛んでこないように全力で距離を取った。
ゴブリンは火柱にビビったのか、ピタリと動きを止める。
「「今だぁぁぁ!!」」
俺とブタオはバットを振りかぶって突撃した。
俺のバットの一撃がゴブリンの脇腹にクリーンヒット。
ゴブリンは悲鳴を上げてその場に倒れ込んだ。
地面をバタバタと転がりながら暴れるゴブリンに、ギリギリの距離から何度もバットを振り下ろす。
何度目かの振り下ろしが終わるとゴブリンがピクリとも動かなくなった。
「……勝った?」
「勝った……!」
安堵の息を吐く。
(前回よりは慣れたかもな)
とはいえ、まだまだ油断はできない。
「──魔石、回収するか」
「……」
「……」
じゃんけんをした結果、俺が負けた。
(またかよぉぉぉ……)
泣きながらゴブリンの胸をナイフでえぐり、
なんとか魔石を回収。
二人でハイタッチしてから、また探索を再開した。
──そして。
「おい、あそこはどうだ?」
「入ってみるか」
ブタオが指差す先に、大人が余裕で入れそうな大きさ穴があった。
中へ踏み込むと──
そこには、まるで50メートルプールがすっぽり入るほどの広さが広がっていた。
「すっげぇ……!」
思わず声が漏れる。
天井も高い。
空気もよどんでいない。
ここなら、ゴブリンを何十匹でも飼える。
「キタコレ!」
「俺の人生はじまってしまったかもしれん」
「よし、まずは檻だな!」
俺は周囲を見渡しながら言った。
広大な空間。
壁際には自然にできた岩の突起や段差もある。
「このへんをうまく使えば、簡易な囲いくらい作れるかもな」
「で、俺の出番ってわけだな……」
ブタオが肩をすくめる。
「頼んだぜ、土魔法使い!」
「やれやれだぜ……」
ブタオはため息をつきながら、土の床に向かって両手をかざす。
「うおおおおお……!」
顔を真っ赤にして力を込めるブタオ。
(いや、そんな気合いでどうにかなるもんなのか?)
思わず突っ込みたくなるのを堪えて見守る。
すると、地面がぐぐっと盛り上がり、
小さな土壁が現れた。
「おお、出た!」
「ふぅ……こんなもんか?」
ブタオは汗を拭いながら振り返る。
できたのは、2メートル四方くらいの、
……うっすい土の柵だった。
「おっそ!? しかもペラペラ!!」
思わず叫んでしまう。
「うるせぇ! 初めてなんだよ!!」
ブタオは肩で息をしながら叫び返した。
まあ、それでも──
「やるじゃん」
俺はバットを持って、試しに柵を軽く叩いた。
コンッ。
思ったよりも……弱そう。
(大丈夫かこれ……)
不安に思いながら、
もう少し力を込めてバットを振った。
バゴンッ!!
柵は、あっさり崩れ去った。
「ぎゃあああああ!!」
ブタオが膝から崩れ落ちた。
「テメェ何すんだー!!
俺の努力の結晶がぁぁぁ!!」
「こんな脆い檻じゃ、ゴブリンに逃げられるだろうが!」
俺は仁王立ちして言い放った。
「やり直しぃ!」
涙目のブタオが、
また土に向かって必死に魔力を込める。
1時間後──
ブタオは全身汗まみれになりながら、
なんとかそれなりに頑丈そうな土の檻を作り上げた。
「……で、できた」
よろよろと立ち上がるブタオ。
檻は高さも幅も倍近くなり、
そこそこ囲いとして使えそうだ。
さっきと同じくらいの強さでバットを振ったがびくともしなかった。
「おつかれ。いや、ほんとにできるとは思わなかった。」
「……もう無理……マジで……」
魔力を使い果たしたらしく、
ブタオはその場に座り込んだ。
「よし、いったん帰るか」
「異議なし」
ブタオが歩けるくらいまで休んでから、俺たちはダンジョンをあとにした




