第6話: 作戦会議
ビールを三杯空けたあたりで、
ふと俺はグラスを傾けながら言った。
「なあ、ゴブリン牧場……作ろうぜ」
「は?」
ブタオはポテトを咥えたまま、間抜けな声を出した。
「ゴブリン、飼育して、繁殖させて、魔石量産するんだよ。超合理的だろ?」
「……バカか?」
即答だった。
ブタオはポテトを置いて、マジな顔になる。
「そんなことできんのかよ。
ていうか、ゴブリンって自然発生するんじゃねぇの?」
俺はニヤリと笑った。
「それがさ、普通の魔物とゴブリンは違うんだよな──」
グラスを回しながら、俺は語り出す。
ダンジョンから現れる魔物たち。
その発生メカニズムは、今でもほとんど解明されていない。
突然、何もない場所にポツリとスライムが生まれていたり。
骨だけだった骸骨が、ある日突然動き出したり。
誰も、魔物が『生まれる瞬間』を見たことがない。
まるでダンジョンそのものが、命を編み出しているかのように──。
ただ、例外がいる。
ゴブリンだ。
ゴブリンだけは、赤ん坊の姿で発見されることがある。
小さな身体、か細い声。
まるで人間の赤子のように泣き叫ぶゴブリンの幼体。
そして──
ダンジョン黎明期、ある事件が起きた。
女性探索者が、ゴブリンの出現するダンジョンで行方不明になり、
数ヶ月後に保護されたときには、既に妊娠していた。
生まれたのは、
人間とは異なる、奇形のゴブリンだった。
この事件以来、
ゴブリン系モンスターが生息するダンジョンへの女性探索者の立ち入りは、
「極力禁止」する流れになった。
特に、ゴブリン繁殖のリスクが高いと噂されるダンジョン──
たとえば青梅ダンジョンなんかは、
今ではほとんど男しか足を踏み入れない。
というか男もほとんど行かない。
ゴブリンばっかり出るし、金にならないし、危険だし。人気がない。
──でも。
考えようによっちゃ、チャンスだ。
「つまりな」
俺はブタオに向かってグラスを掲げた。
「ゴブリンは自然発生じゃなくて、繁殖で数を増やしてる。
それを俺の『飼育』スキルで加速させたら──」
「……魔石、量産できる?」
ブタオが、半信半疑ながらも目を丸くする。
俺はニヤリと笑った。
「よし、作戦はこうだ!」
ビールを飲み干して、俺はドンッとテーブルを叩いた。
「ゴブリンを飼育して、増やして、魔石を量産する!
それで俺たちは大儲けだ!!」
「おお……!」
ブタオが素直に感心した顔をする。
だが、すぐに顔をしかめた。
「……でもよ、そもそも飼育スキルって、どうやって発動すんだ?」
「……あ」
言われて、俺は固まった。
(確かに。なんとなく使えるだろうと思ってたけど……)
頭の中で、スキル発動のイメージを探る。
「たぶんだけど……何か食べ物を与えるといい気がする」
「む? なるほど。家畜の世話をするのと同じ感じか」
ブタオが、ふむふむと納得した顔でうなずく。
「じゃあ、餌か。……何あげりゃいいんだ?」
「うーん……草?」
「野菜……とか?」
「魚?」
「虫?」
二人して、頭を抱える。
「いや、待てよ。ゴブリンって人型だろ? 雑食なんじゃね?」
「そっか。何でも食うなら、もっと選びやすいな」
俺たちは腕を組み、真剣に考えた。
「……でもさ、持ち運びやすくて、腐らなくて、ゴブリンが喜びそうなもん……」
「コンビニ弁当?」
「高ぇよ!」
「缶詰?」
「重い!」
悩みに悩んだ末、俺はふと思いついた。
「──チョコじゃね?」
ブタオが顔をしかめる。
「は?」
「いや、甘いものってエネルギー源だし。
チョコなら小分けできるし、腐らねぇし、持ち運びも楽だろ?」
「……」
ブタオはしばらく沈黙したあと、ビールをぐいっと飲み干した。
「……まあ、ダメ元で試すくらいなら、いいか」
「だろ?」
ニヤリと笑い合う俺たち。
たとえ根拠が薄くても、
今の俺たちにできるのは、動き出すことだけだった。
「じゃあ、明日コンビニでチロルチョコでも大量に買うか!」
「おっけい!」
俺たちは、まだ見ぬゴブリン牧場に夢を馳せながら、
グラスを鳴らした。
ビールをもう一杯おかわりして、
俺たちは空いた皿を片付けながら、作戦会議を続行していた。
「……餌やりは、それでいいとしてさ」
ブタオが、ぽりぽりとポテトをかじりながら言った。
「どこで飼育するんだよ。ゴブリン」
「ダンジョンには、通路だけじゃなくて、たまに小部屋とか大部屋があるらしい」
俺はスマホで見たダンジョン探検記事を思い出しながら言った。
「へぇ、部屋みたいなのがあるのか」
「そう。で、そこを使う。
ゴブリンたちを囲って、そこで育てる」
「なるほどな……」
ブタオは顎に手を当て、考え込む。
「でもさ、逃げられたらアウトだよな? どうやって逃げないようにすんだ?」
そこで、俺はニヤリと笑った。
「──お前の、土魔法の出番ってわけだ」
「俺!?」
ブタオが目を丸くする。
「養鶏場みたいな檻が作れれば、いけるんじゃねぇかな」
「いやいやいや……そんなでっかいもん、俺に作れるかなぁ……?」
「やってみればいいだろ。
できなかったらまた作戦会議だ」
俺はグラスを軽く掲げて、笑った。
ブタオも苦笑しながら、グラスをぶつける。
「まるで動物園だな」
「ゴブリン園、開園だな」
「バカか」
軽口を叩きながらも、
どこか心の底では、期待していた。
たった一匹倒すのにビビり散らした俺たちが、
今は、ダンジョンの片隅でゴブリンを育てる未来を真剣に描いている。
(──悪くない)
本気で思った。
やれるかどうかなんて、分からない。
でも──
このバカな挑戦を、俺たちはちょっと本気でやってみようとしていた。




