第79話: 帰還
「……死んだか?」
俺が慎重に近づきつつ、アイアンタートルを見下ろす。
「死んだふりかもしれん」
ブタオが斜め後ろで呟いた。
〈さすがにビビりすぎでは?〉
チアキの冷静なチャットが届く。
「私が試すっス!」
コハルが元気よく一歩前に出ると、足元の小石を念力でふわりと持ち上げ、山なりに放った。
石がぽすんとアイアンタートルの頭頂部に当たる。
……沈黙。
「よっしゃー倒したー!」
「よっしゃー帰れるー!」
俺とブタオが声を合わせてガッツポーズ。
〈それでは魔石を回収しましょうか〉
チアキが業務的に告げる。
「え~……めんどいな。チアキの空間魔法で丸ごと持って帰っちゃだめ? 魔石5万とかなんだろ?」
〈捕まりたいならそれでいいかと〉
……真顔で怖いこと言わないでくれますか?
「じゃあ、ちゃんと魔石回収するけど……どこにあるんだ? ゴブリンと同じ心臓なら、探すの大変だぞ」
〈頭の中にあるらしいです〉
……沈黙。
「「「ジャーンけーん!」」」
「「「ポイ!」」」
……負けた。
「………………」
俺は無言でナイフを取り出し、アイアンタートルの巨大な頭部に向かって膝をついた。
「でけぇな……」
ぶつぶつ言いながら、分厚い皮を裂き、筋肉の層を避け、骨を砕き、やっとの思いで魔石に到達する。
血まみれ。
体力ゲージ、たぶん3割くらい減った。
「ふぅ……これ、絶対割に合ってねぇ……」
その後は、残ったアイアンタートルの死体をチアキに任せて、空間魔法でコンパクトに収納。
「チアキ、ナイスぅ……」
〈恐縮です〉
これは割に合わないわ。
他の探索者がスルーする階層なの納得です。
「これで盾、何個くらい作れるんだろうな?」
空間魔法に収納されるアイアンタートルを見送りながら、俺がぽつりとつぶやく。
「100個くらい作れるんじゃね?」
ブタオが適当に答える。
「さすがにそれはないだろ……」
「え、じゃあ50個くらいっスかね?」
コハルが適当に予想する。
〈盾の外側だけアイアンタートルの甲羅を使えばいいのでもっと作れるのでは?〉
チアキがチャットを送ってくる。いつもながらに現実的な見解だ。
「まぁ、考えたって分かんないな。とりあえず帰ろうぜ」
ちょっとだけ迷子になりかけたが、なんとか地上に戻るゲートに辿り着き、全員で光の中へと足を踏み入れた。
──地上。
無骨な部屋に戻ってきたことに安堵しつつ、俺たちは管理所の受付に向かった。
「アイアンタートルの魔石、ひとつお願いしまーす」
俺が差し出した魔石を受け取り、受付嬢が機械に通す。
「こちら5万円になります。ご査収ください」
「現金給付か。ずっと振り込みだったから懐かしさを感じるな」
「大して日数経ってないけどな」
ポチ袋に入った5万円を両手で受け取り、そのまま財布にねじ込む。
「この後の飯代にしよっか。焼肉か、寿司か、それとも……」
「焼肉、いいっスねー!」
「よーし、それじゃこのままナツミのところに向かうかー」
全員で駐車場に向かい、ブタオのワンボックスカーに乗り込む。
……が。
「ブタオさん、ちょっと……その……今日も匂いが……」
コハルが鼻を押さえながらぼそっと言う。
<もうちょっとケアした方がいいですよ>
チアキも相槌を打つ。
こっちは言葉のチョイスがソフトだが、内容は容赦ない。
「……うっ」
ブタオが静かに涙目になっていたが、俺は紳士だから黙ってるぜ。
それでも車はしっかりと走り出す。
次の戦いに備えるために──俺たちは今日も、着々と装備を整えていくのだった。
戦うのはゴブリンだけど。
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現在のゴブリン牧場の状況(996匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス214匹)
ハイメス182匹
ハイメス赤ちゃん32匹
・スカー檻(スカー + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(198匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん137匹
マジシャン赤ちゃん31匹
ファイター赤ちゃん30匹
・ヤリ檻(55匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス30匹
・探索部隊(486匹)
ハイオス335匹
マジシャン66匹
ファイター65匹
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