第78話: 作戦完了
「うわぁ……やっぱ元気かぁ」
俺はゲートの端からそっと顔を出して、目前にいる鉄の怪物を見上げた。
「元気っスねぇ……」
コハルが小さく呟く。
その声は震えていたが、目の奥には闘志も見える。
アイアンタートルは、あれだけ壁に激突したというのに、全くこたえていない様子だった。
むしろ──普通に怒ってらっしゃる。
ギラリと鋭い目がこっちを睨んできて、甲羅の表面がわずかに震える。
「よし、コハル。やってくれ」
「了解っス!」
コハルはぐっと拳を握りしめ、深く息を吸った。
「……ッふー……んぬぬぬぬぅ……!!」
眉間にしわを寄せ、足を踏ん張り、目を閉じて集中する。
念力を練るというのは、どうやら筋トレと同じように力を込める作業らしい。
アイアンタートルが、ほんのわずかに動きを止めた。
「……浮いてる?」
かすかに、ほんの数センチ。
地面から、その巨体が浮かんだ。
「……いけるか?」
……と思ったのも束の間、ズシィンッと地響きを立てて、アイアンタートルはすぐに地面へと戻った。
「……あ、ダメっスね。重すぎるっス」
コハルが肩を落とし、膝に手をついて息を吐く。
「あー、だめかぁ」
作戦会議のとき、確かにコハルは言っていた。
「大型モンスターは浮かせるの厳しいかもっス」って。
その通りだったな。
だが、まだ手はある。
「来た来た来た来た来たーッ!」
ドスン、ドスン、ドスンと、地鳴りのような足音とともに、アイアンタートルが再び突進してくる。
その目は怒りに燃え、金属質な甲羅は鈍い光を反射していた。
「今だ! 逃げろ逃げろ!」
俺の合図と同時に、全員で入ってきたゲートとは別のゲートへと駆け込む。
直後、ガァンッ!!!
アイアンタートルは、俺たちが突如姿を消したことに戸惑う間もなく、そのまま壁に激突した。
その衝撃で地面がびりっと震える。
「うわ、今のは痛そうだな」
「ゲートってチートだな」
ブタオが壁にもたれながら息を吐く。
「安心安全だな」
「心に余裕があるっスねぇ」
コハルもローブの袖で額の汗を拭いながら微笑んだ。
ピコッとチャットが鳴る。
<恐縮です>
まじめな返答をくれたチアキに、俺は親指を立てる。
今回、チアキが設置したゲートは全部で3箇所。
2つでも十分だったかもしれないが、念には念を入れての対策だった。
これにより、俺たちは任意のゲートに逃げ込み、すぐさまアイアンタートルとの距離を取ることができる。
「よし、コハル。次だ」
「はいっス!」
コハルは足元に転がっていた岩のひとつを指さし、念力でゆっくりと持ち上げる。
ボーリングの球くらいの大きさはあるだろうか。
そのままぐいっと腕を伸ばし、アイアンタートルの頭めがけて、ぐるんと投げ放つように飛ばした。
ゴッ!
鋭い音が響き、岩がアイアンタートルの頭にクリーンヒットした。
「おお! ストライク!」
「いやいや、今のはデッドボールじゃね?」
「細かいことはいいんだよ!」
俺とブタオのやり取りに、コハルは小さくガッツポーズ。
岩が命中した頭部から、じわりと血がにじみ出している。
どうやら、ある程度のダメージにはなったようだ。
「よし……効いてるな!」
「でも怒ってるっスよ、めっちゃ!」
案の定、アイアンタートルはさらに怒り狂った様子で、こちらに向かって突っ込んでくる。
「よーし、ゲート入るぞー!」
今度は誰も慌てない。
俺たちは落ち着いて、それぞれの位置にあるゲートへとスッと飛び込む。
直後、ズガァンッ!!!!
またしても壁に突っ込むアイアンタートル。
……学習しないな、あのカメ。
「楽でいいな」
ブタオのひと言に、思わず俺も苦笑する。
とはいえ、次が本番だ。
ここから──とどめを刺しにいく。
「コハル、今度はこれだ」
俺は持っていた槍を彼女に手渡す。
「ほいっス!」
コハルは槍を両手で受け取り、すぐさま念力でふわりと浮かせた。
彼女の額にうっすらと汗がにじむ。
だが、その瞳には迷いがない。
「いっけぇぇぇぇっス!!」
ズバァッ!!!
念力で解き放たれた槍は音を立てて一直線に飛び、アイアンタートルの右目にドスッと突き刺さった。
ギャァァァァッ!
魔物とは思えぬ、苦悶の悲鳴が響き渡る。
巨大な体がのけぞり、周囲の地面が震える。
「おお。かなり効いてるな」
右目から血を流し、アイアンタートルは明らかにダメージを受けていた。
が、それでも倒れはしない。
まだ息がある。
「でも、まだ決定打にはならないか……もう一発、行けるか?」
暴れ回る亀の巨体を見ながら呟くと、すかさずブタオが動いた。
「コハルちゃん、はいこれ!」
ブタオが自分の槍を手渡すと、コハルは勢いよくそれを受け取った。
「あざっス! 任せてくださいっス!!」
再び念力が発動され、槍が空中に持ち上がる。
「いけぇぇぇぇぇぇぇっス!!!」
槍が再び唸りを上げて飛んでいく。今度の狙いは──眉間。
ズガァッ!!
金属と骨を砕く鈍い音が響くと同時に、アイアンタートルの動きがぴたりと止まった。
ぐらり、と身体が揺れた後──
ドスゥゥン、と重たい音を立てて、その場に沈んだ。
「……やった、か?」
しばらく息を潜めて見守るが、もう動く気配はない。
俺たちは──あの鉄の怪物を、ついに仕留めたのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(996匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス214匹)
ハイメス182匹
ハイメス赤ちゃん32匹
・スカー檻(スカー + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(198匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん137匹
マジシャン赤ちゃん31匹
ファイター赤ちゃん30匹
・ヤリ檻(55匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス30匹
・探索部隊(486匹)
ハイオス335匹
マジシャン66匹
ファイター65匹
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