第73話: ゴブリンたち、10階層に挑む
昼過ぎ、心地よい風が頬を撫でる中、俺とブタオは管理所の駐車場に軽バンを停めた。
エンジンを切り、ドアを閉める音が静けさの中に響く。
「さて、今日も稼ぐぞー」
管理所に入る。
「おお、ナツミさん。また来てたのか」
ナツミはソファに座り、足を組んでこちらを見てニヤリと笑った。
「まだ暇だからね。仕事があったら、そりゃあもちろん来ないよ」
その言葉に、俺も苦笑して肩をすくめる。
「なるほど……万が一の時は責任取りませんからね?」
「ふふ、ありがと」
軽いやり取りのあと、俺たちはダンジョンへと向かった。
ダンジョンの大部屋に足を踏み入れた瞬間、いつも通りむわっとした熱気とともに、ゴブリンたちがぎゃあぎゃあ騒いでいる。
視線を向けると、あちこちに探索から戻ったゴブリンたちの姿がある。
いつもよりも密度が濃く、広い部屋が狭く感じるほどだ。
「おおう……ほとんど帰ってきてそうだな」
思わず感心した声が漏れた。
これだけの数が無事に戻ってきたのは素直に嬉しい。
俺は深呼吸をひとつして声を張り上げた。
「よし、整列しろー!」
ゴブリンたちはギャギャと鳴きながら、慣れた様子で種族ごとにきちんと整列していく。
その姿はまるで訓練された部隊のようで、どこぞの体育大学の集団行動を思わせる。
俺とブタオ、コハルでそれぞれの列を確認していく。
ハイゴブリン201匹
マジシャン50匹
ファイター50匹
ブタオが腕を組んで頷く。
「……ファイターは2匹死んだか。でも盾を持ってないやつだったっぽいな」
「おお、盾の効果、しっかり出てるじゃないか」
盾めっちゃ優秀じゃん。
これは余裕でペイするな。
「……ハイゴブリンは67匹死んだか」
あいつらは我ら四天王の中で最弱……
4匹以上いるけど。
お前らのことは5秒くらい忘れない。
心の中で小さく手を合わせ、俺は次の作業へと意識を向けた。
「よし、魔石の回収いくぞー!」
俺の掛け声にゴブリンたちはギャギャと声を上げ、慣れた動きでエナメルバッグを運び出してくる。
列を成し、次々と俺たちの前にバッグを差し出す。
バッグの口を開けて中を覗き込むと、どのバッグも半分ほどが魔石で埋まっている。
「……150個ないくらいか?」
ブタオが覗き込んで数を推測する。
「9階層になるとやっぱりマジシャンが出てくるし、ハイゴブリンの数も増えるだろうからめっちゃ稼げるんじゃね?」
俺はニヤリと笑い、手元の魔石を見つめる。
「ゲッヘッヘ……どれだけ稼げるかな。夢が膨らむぜ……!」
そのまま、俺は声を張った。
「昨日の各チームから、一番多くゴブリンを倒したやつは前に出ろ!」
わらわらと前に出てくるゴブリンたち。数えてみれば、マジシャン13匹、ファイター12匹だった。
「今回はハイゴブリンはいなかったか。ニンジャが特別に優秀なだけか」
あのござるゴブリン……やっぱり只者じゃねぇ。
「よし、ヤリ部屋のオスどもと交代だ! お前らの番だ、行ってこい!」
俺の言葉に、前に出たゴブリンたちは雄叫びを上げながら、意気揚々とヤリ部屋へと駆け込んでいった。
次の作業へと移る。
「檻Bのゴブリンを外に出せ! そしてオスの赤ちゃんを檻Bに移動させろ!」
メスゴブリンたちが慣れた手つきで赤ちゃんを運び、赤ちゃんたちはギィギィと鳴きながらトンネルをくぐって檻Bの中へと入っていった。
「さて……全部でどれくらいだ?」
整列したゴブリンたちを数える。
ハイゴブリン335匹
マジシャン66匹
ファイター65匹
「……盾、足りないなぁ」
俺は小さく唸り、ちらりとナツミに視線を送る。
「ナツミさんや……盾の補充っていけます?」
ナツミが答える。
「材料が今ないから無理ね。それに、大して換金額が高い鉱石でもないし、あんまり納品されないのよ」
「えー……」
肩を落とす俺に、ナツミはにやりと笑った。
「自分たちで採ってくれば?」
「え、自分たちで取れるの!? どうやって?」
「秋田の鉱山ダンジョンで取れるわよ」
「いや、遠いわ。もうちょっと近場でない?」
ナツミは少し考え、ポンと手を打った。
「んー……渋谷ダンジョンの7層に出てくるアイアンタートルとか狩ってきたら? チアキがいるんだから素材は空間魔法で回収できるでしょ?」
その言葉に俺たちの目が輝いた。
「それだ!」
俺は振り返り、勢いよく指差す。
「チアキ! 行ってきてくれ!」
<ええ!? 私一人ですか!?>
チアキのチャットが飛んでくる。俺は即座に言った。
「いやいや、お前のためにザ・ニートのコハルもつけてやる!」
「ニートじゃないっス! ……あれ、でも私ここで何にもしてないかもっス……」
自爆で精神ダメージを負うなよ。
「コハルの念力なら、ほとんどの魔物は問題なく対応できるんじゃないか?」
「できるかもっスけど……全然戦闘とかしたことないっスよ。不安っス……」
ふむ、不安そうだな。
「がんばれ」
「そこはついてくって言ってほしいっスー!!」
コハルの必死の訴えに、結局俺たちは折れる形になった。
「……わかった、じゃあ明日の午前中に全員で行くぞ!」
「まじかー」
ブタオはテンション低めだ。
怪我するリスクがあるもんな。
わかるわかる。
その様子を見ていたナツミがふと思い出したように言った。
「ところでさ、あんたたちレベルいくつなの?」
「俺とブタオが10で、コハルも10。チアキが7だな」
<あ、私8に上がってます>
「上がってるんかい!」
「そりゃあそのレベルなら7層なんて余裕よ。探索者の中でももう中堅クラスの下位くらいあるんじゃない?」
ナツミの言葉に全員目を見開いた。
「……え、マジで?」
「そりゃそうよ」
「……まともに探索したことないけどな」
「俺も……」
「私もっス……」
<私も……>
ナツミは呆れたように笑って肩をすくめた。
「相当珍しい探索者チームね……。流石にあなたたち装備が貧弱すぎるから、私の工房で装備、買っていきなさい」
「それは営業ですか?」
「営業よ」
なんだと?
そんなあからさまな営業に俺が負けると思うなよ!
「このあと買いに行かせてもらいます!」
いや、安くしてくれるし行かない選択肢なんてないよね?
「よし……それじゃあ、お前ら! 今日も頼んだぞ!」
俺の声が大部屋に響くと、ゴブリンたちの目が一斉にこちらに向いた。
小さな体がビシッと背筋を伸ばし、誰もが真剣な表情を浮かべている。
「今回は10階層だ! お前らの力、見せてこい! しっかり生きて帰ってこいよ!」
『おいっすー!!』
『了解っす隊長!』
『やったるぞー!』
熱気に満ちた声が部屋に響き、ゴブリンたちは勢いよく駆け出した。
緑の群れが、次々とゲートの中へ消えていく。
「……さて、俺たちも戻るか」
ブタオが気だるそうに言い、俺たちはその足で管理所へと引き返した。
管理所に戻り、すぐに魔石の換金作業に入った。
ゆきが計測機を操作し、次々とエナメルバッグの魔石を流し込んでいく。
小気味よい機械音が響き、モニターに数字が並んでいく様子を、俺たちは固唾を飲んで見守った。
「……3421個。換金額は……1570万4000円」
ゆきの落ち着いた声が告げた瞬間、俺たちの表情が一気に弾けた。
「1500万超えてきたーーー!!」
「1人あたり350万超えたーーー!!」
俺とブタオが発狂し、コハルも「マジっスか!?」と目を輝かせた。
チアキも<おめでとうございます>とチャットを送ってくる。
俺たちはその勢いのまま管理所を後にし、ナツミの工房へと車を走らせたのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(996匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス214匹)
ハイメス182匹
ハイメス赤ちゃん32匹
・スカー檻(スカー + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス20匹)
ハイメス19匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(198匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん137匹
マジシャン赤ちゃん31匹
ファイター赤ちゃん30匹
・ヤリ檻(55匹)
マジシャン13匹
ファイター12匹
ハイメス30匹
・探索部隊(486匹)
ハイオス335匹
マジシャン66匹
ファイター65匹
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