第72話: ゴブリンたち、報酬を手にする
昼下がり、心地よい風が吹き抜ける中、俺たちは管理所の前に軽バンを停めた。
ドアを閉める音がパタンと響くと、目の前には見慣れた管理所の建物がどっしりと構えていた。
「さて、今日も始めるか」
軽く背伸びをして扉を開けると、すでに中ではチアキやコハル、ナツミの姿が揃っていた。
いつも通り、事務所の空気は落ち着いていて、ほんのりと書類やインクの匂いが鼻をくすぐる。
<盾は昨日回収しておきました!>
チアキのチャットが即座に飛んできた。
「お、ありがとなチアキ! 助かるわ」
俺は軽く手を上げて礼を言う。
これであとはゴブリンファイターに配るだけだな。
「じゃあ、ダンジョンに向かうか」
俺たちはダンジョンに入る。
道中、ブタオがふと立ち止まり、真剣な顔で振り返った。
「おい、お前ら。ちょっと報告がある」
「……お? なんだよ、改まって」
全員がブタオに視線を向ける。
ブタオは胸を張り、どこか誇らしげに言った。
「実は……借金返済、完了しましたーーーー!!」
廊下に俺たちの声が反響した。
「おおおおお!! やるな!!」
俺は思わずブタオの肩を叩いた。
コハルも「やったじゃないっスか!」とニヤリと笑って親指を立てる。
「お前の借金、いくらだったっけ?」
「500万だな。消費者金融、親、親戚……あっちこっちから借りまくった分、昨日全部返し切ったわ!」
ブタオが晴れやかな表情で語るその姿に、俺は心からの「おめでとう」を贈った。
「借金1抜けだな。ほんとおめでとう!」
すると、ナツミが怪訝そうに眉をひそめてこちらを見た。
「ん? 君たち、みんな借金あるの?」
「ああ……俺が3000万、コハルが1億、チアキが……えっと、10億」
ナツミは呆れたように口を開く。
「……あんたら、崖っぷちだね」
「……自覚してます」
俺は苦笑しながら、再び歩き出した。
大部屋の扉を開けると、むわっとした熱気とともに、ゴブリンたちの声が一斉に飛び込んできた。
広い空間の中、あちこちで小さな群れが動き、ざわざわと賑わっている。視線を向けると、こちらに気づいたゴブリンたちが口々に声を上げた。
『あ、隊長たちだ! お疲れっすー!』
『お疲れっすー!』
『うーい!』
その様子はまるで、体育会系の部活の後輩たちが先輩を見つけて一斉に挨拶をするような光景だった。
「完全に体育会系の後輩だな」
俺は苦笑しながら、その整然とした挨拶に妙な安心感すら覚えていた。
部屋を見渡せば、ほとんどのゴブリンたちが無事に帰還していた。
「よし、整列しろー!」
俺の声にゴブリンたちは慣れた様子で列を作り始める。
種族ごとにズラリと並び、その小さな身体がきちんと整った姿は、どこか可愛らしくもあった。
俺とブタオ、コハルで数を確認していく。
ハイゴブリン170匹
マジシャン46匹
ファイター46匹
ブタオが腕を組んで頷く。
「……おお、ハイゴブリンが4匹亡くなっただけか。優秀優秀」
「運の悪いやつらよ、南無ー」
俺は心の中で手を合わせ、彼らの健闘を讃えた。
「じゃあ、魔石回収するぞー!」
号令をかけると、回収係のゴブリンたちが列を作ってエナメルバッグを次々と運んでくる。
23チームいたこともあり、1つのバッグに入っている魔石の量はやや少なめに感じたが、それでも全体の数は昨日と同じくらいだろう。
バッグの重みを手で感じながら、思わず口元が緩む。
「今日も1000万ですか、ご馳走様です!」
その時、俺はゴブリンたちの方へ向き直り、声を張った。
「よし、今日はお前らお待ちかねのご褒美タイムだ!」
ゴブリンたちの反応は早かった。
『キタキタキターーー!!』
『ウラーラーラー!!』
『っいよ! さすが隊長!』
部屋中に歓声が響き渡り、興奮したようにゴブリンたちが小さく跳ねたり、互いに肩を叩いたりしている。
「ノリが部活の打ち上げ前そのものだな」
「うむ。それではチームごとに一番多くゴブリンを倒した奴ら、前に出ろ!」
俺の合図に、前に出てくるゴブリンたち。ずらりと並んだのは23匹。
その顔ぶれを見て、俺は少し意外に思った。
「……へぇ。全員マジシャンとファイターになるかと思ったけど、ハイゴブリンがいるな」
マジシャン12匹、ファイター10匹、そして──堂々と胸を張るハイゴブリンが1匹。
ブタオが口元を歪めてにやりと笑った。
「こいつは……期待だな」
「めっちゃ優秀なゴブリンなんスね!」
俺はそのハイゴブリンに近づき、声をかけた。
「やるじゃないか」
すると、そのハイゴブリンはキリリとした表情で背筋を伸ばし、口を開いた。
『恐縮でござる』
「なんか忍者おる!?」
武士口調なスカーもそうだけど、こいつどこでそんな言葉を覚えるんだ。
意思疎通でそれっぽく翻訳してくれてるのかな。
「こいつ語尾が『ござる』なんだけど」
「なら名前はニンジャだな」
「ニンジャっスね」
<安直……>
チアキは冷静にツッコミを入れてくる。
名前なんて適当でいいだろ!
大事なのは実力だ!
「よし! お前ら報酬として、あの檻でヤってきていいぞ!」
俺が手を指した先には、昨日作ったゴブリンたちのご褒美用の檻──ヤリ部屋があった。
檻の中は見えないよう、しっかりと壁で囲ってある。
見たくはないしね。
『ウオオオオオオ!!』
『っしゃー!』
『隊長! ありがとうございまーす!』
23匹のゴブリンたちは、我先にと雄叫びを上げ、歓喜の声を上げながら檻の中に駆け込んでいった。
その勢いは、まさに戦の勝者が凱旋するようだった。
次の作業に取りかかるか。
「よし、檻Bのゴブリンを外に出すぞー!」
ゴブリンたちがわらわらと動き出し、数分で大部屋に勢ぞろいする。
数を確認するため、種族ごとに整列させた。
ハイゴブリン268匹
マジシャン50匹
ファイター52匹
俺は頷き、声を張った。
「じゃあ、盾を渡していくぞー!」
チアキに頼むと、チアキは手を掲げ、空間魔法から盾をひとつずつ取り出して並べ始める。
その様子に、ゴブリンたちは目を輝かせていた。
「ゴブリンファイターども前に出ろ! 優先的に渡すぞー!」
『『おいっすー!』』
ファイターたちは勢いよく前に出てくると、誇らしげに盾を受け取っていった。
重さを感じつつもしっかりと両手で構える様子は頼もしさを感じる。
余った盾をハイゴブリンたちにも試しに渡してみたが──
「……あー、ちょっと重いな、こりゃ」
ハイゴブリンは腕をプルプルと震わせ、どうにも盾の重みに耐えかねている様子だった。
「やめとくか。やっぱりファイター専用だな、これ……」
盾の配布が終わったところで、俺は声を張り上げた。
「25チームに分けるぞ! そして今日の探索は9階層までだ! 盾で魔法をうまく防げよ!」
『あいよー!』
『よっしゃ、やったるぞー!!』
『いくぞー!』
昨日と同じ、いやそれ以上の熱気で、ゴブリンたちは一斉に動き出した。
小さな体が次々とゲートへ駆け込み、3層へと消えていく。
「帰るかー」
管理所に戻り、魔石の換金を行う。
「3111個……換金額は1001万2000円だね」
ゆきが淡々と告げた。
「ギリギリ1000万超えじゃー!!」
俺は思わず両手を挙げ、他のみんなも喜ぶ。
「よし、今日はイタリアンだ! ピザとパスタで乾杯だぞー!」
さてはて、明日の9階層の探索はどうなるかね。
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現在のゴブリン牧場の状況(699匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス182匹)
ハイメス152匹
ハイメス赤ちゃん30匹
・スカー檻(スカー + ハイメス19匹)
ハイメス18匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス19匹)
ハイメス18匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(167匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん133匹
マジシャン赤ちゃん17匹
ファイター赤ちゃん17匹
・ヤリ檻(53匹)
マジシャン12匹
ファイター10匹
ハイゴブリン1匹
ハイメス30匹
・探索部隊(256匹)
ハイオス268匹
マジシャン50匹
ファイター52匹
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