第67話: はじめての盾
「よーし、行くぞお前らー! 出航じゃー!」
昼下がりの陽射しの中、俺たちはブタオの白い軽バンに乗り込んだ。
エンジンの振動と共に、むわっとした空気が車内に広がる。
「……なんか臭いっス?」
コハルが後部座席で顔をしかめ、鼻をひくつかせた。
その声に、後部座席のチアキまでチャットを飛ばす。
<ちょっと匂いますね……>
「独身男性の車の匂いはこんなもんだ! 気にするな! 気にしないでください、お願いしますっ!」
ブタオがハンドルを握りながら、わずかに耳まで赤くなり、必死に言い訳する。
その焦った様子が逆に面白く、俺とコハルは思わず吹き出した。
「いつも乗ってるから俺は全然わからんけどな……」
「……ブタオさん、芳香剤とか置いた方がいいっスよ?」
「余計なお世話だ!」
軽口を交わしながら、駅前の武装堂を目指し、車は走り出す。
──その時だった。
突然、頭の中に電子音のような機械音が響く。
「おっ……?」
【レベルが10に上がりました】
「おお、レベル上がったわ……」
思わず声が漏れる。すると──
「俺もだ……! 運転中にこの音鳴るの、マジで心臓に悪いからやめてほしいわ……!」
ブタオがハンドルをぎゅっと握り、ぶつぶつ文句を言っている。
「私も上がったっス! やったっスー!」
<私も上がりました>
後ろからも喜びの声とチャットが飛んできた。
だがその直後、さらに別の通知音が頭に響く。
【スキル:意思疎通 を手に入れました】
「……あー」
「……どうした、ボン?」
「いや……その……ゴブリンと意思疎通できるようになった……」
「おおっ! それスゲェじゃん! これからもっとゴブリン管理が捗るじゃねぇか!」
ブタオが驚きと期待が入り混じった声を上げる。
だが俺は素直に喜べず、頬を引きつらせたまま言った。
「……んー」
「なんだよ、その煮え切らない顔は」
「……いやさ。『殺さないでー!』とか、『もう戦いたくないー!』とか、もしそんな声が聞こえてきたらと思うとめっちゃ憂鬱だわ……」
車内の空気が一瞬しんとした。
「あー、ご愁傷様」
「おい」
「聞きたくないっスね……それ……」
「やっぱり?」
<その意思疎通……遮断できないんですか?>
チアキが冷静に問いかけてくる。
「……んー、わからん! とりあえず明日検証するかな……」
<落ち込むのはそれからでもいいかと>
「チアキ先生……! ありがとうございます……!」
俺は後部座席のチアキの方に振り返り、手を合わせるポーズを取った。
やっぱり俺にはチアキ先生しかいない!
話しているうちに武装堂がある駅についた。
ブタオの軽バンを駅前の立体駐車場に滑り込ませ、俺たちはようやく目的地に到着した。
目の前にそびえる駅ビルの一角、重厚な看板に《武装堂》の文字が光っている。
「着いたな」
「前回はしょぼい槍買っただけだからまともに装備を買うのは初めてだな」
「しょぼい言うな」
俺たちは肩の力を抜きながら、武装堂の自動ドアをくぐった。
店内は広く、金属光沢のある防具や武器がずらりと並んでいて、空調の心地よさと相まって独特の緊張感が漂っていた。
「さて……まずは防具だな。魔法を防げるやつがあれば、それが一番だ」
「なあ、それって……どいつに着させる想定なんだ?」
ブタオが隣でぽりぽりと頭を掻きながら聞いてくる。
「それはゴブリンファイターだろ。壁役だし、前線で攻撃を防ぐのはあいつらしかいねぇ」
「なるほど……それで何個用意すんだ?」
「……それは……まあ、値段と応相談で……」
<まずは見に行きましょう>
「なんかテンション上がるっスね!」
チアキが冷静にチャットを飛ばしてきて、俺たちは頷き合うと防具売り場の方へと足を向けた。
店内の防具コーナーは、光沢のある金属鎧、獣皮のコート、奇妙な鉱石で作られた盾など、さまざまな防具で埋め尽くされていた。
各売り場には制服姿の店員が立っていたが、どこも接客中のようで、こちらに気づく気配はない。
「……とりあえず適当に見てみるか」
「おー」
ブタオが展示棚を眺め歩き、ふと立ち止まった。
「これ、かっこよくねぇか?」
ブタオが指差したのは、ガラスケースの中に鎮座する黒光りの鎧だった。
表面には禍々しい紋様が彫られ、どこか重厚な威圧感が漂っている。
「……なんだこれ……聞いたこともない鉱石使ってるって書いてあるな……」
下に添えられたプレートには『◯◯鉱製 黒炎の鎧』と誇らしげに刻まれていた。
そして、その隣には容赦のない数字。
「……2500万」
俺は即答した。
「却下で」
「なんでだよぉ! せっかくかっこいいのに!」
「高ぇわ! 俺の借金返せるわ!」
ブタオは不満げに唇を尖らせたが、すぐにコハルが割り込んできた。
「でもあれっスね……高いのを買って少数精鋭チームにするか……安く数揃えて量で勝負するか……悩みどころっスよね……」
その言葉にチアキのチャットが重なる。
<ゴブリンはこれから何匹も増えますから……高額装備を何個も用意するのは現実的に厳しいかと……>
「むむむ」
俺は腕を組んで、防具売り場の光景を見渡した。
値段、性能、数……どれを取っても一筋縄じゃいかない。
選択肢の多さが、逆に頭を悩ませるのだった。
店員がようやく俺たちの方に小走りでやってきた。
制服のベストの胸元を軽く整えながら、笑顔で声をかけてくる。
「すみません、お待たせしましたー! 何かお探しですか?」
「魔法を防ぐ防具が欲しいんですけど、どんなのがおすすめですかね?」
俺の言葉に、店員はにこやかにうなずきながら、慣れた口調で返してきた。
「魔法ですか! そうですね、どういった魔法を想定されてますか? 特定の属性を防ぐもの、全般的に軽減するものなど、種類は多岐にわたります。また、どなたが装備されるかによっても、推奨する装備は変わりますよ」
「……あー、火属性を想定してて……ただ、装備するのは……その……ここにいないメンバーなんですよね……」
「はぁ……。なるほど、今日はご本人たちはいらっしゃらないと……。それだと試着ができませんので今日は下見って形になりますかね?」
「……えっと、魔物を使役してる……みたいな……? 人型の魔物に装備させようと思ってまして……」
「おおっ……! それはまた珍しいですね……! あ、すみません……なんだかスキルの詮索みたいな形になっちゃって……!」
「いや、大丈夫っス」
店員が気まずそうに頭を下げる。
俺は一呼吸置いてから言葉を続けた。
「……具体的にどんな魔物か、聞いても大丈夫ですか?」
「どうする? 言っていいかな?」
俺はブタオたちにこっそり耳打ちするように小声で問いかけた。
「良いんじゃねぇか? バレたところで、どう悪用すんだよ」
ブタオが豪快に肩をすくめる。
「オープンで行きましょうっス!」
コハルは軽いノリでサムズアップ。
「……こいつら、何も考えてない。チアキ先生……お願いします……!」
<よからぬ輩はどこにでも存在しています。ダンジョン内での探索者による犯罪は、相手のスキルや装備を把握した上で行われることが多いです。いたずらに情報を公開するのは避けるべきかと……>
「さすがチアキ先生……信じられるのはあなただけだ! ブタオ、コハル……もっと考えろ!」
「「お前が一番考えてないだろ!」っス!」
二人の声がぴったり揃った。
「ごめんなさい」
図星すぎて逆にびっくりしたわ。
「……えっと……180センチくらいのプロレスラーみたいなやつを想像してもらえると」
「なるほど……ありがとうございます……!」
店員は頷き、棚の奥を指差した。
「でしたら……こちらのサラマンダーの皮の装備なんていかがでしょう? ほとんどの火魔法を無効化できますよ」
「ほぅ……。で、気になるお値段は?」
「5400万円ですね」
「たっけぇ!!」
「……ご予算はどのくらいでお考えですか?」
「えーと……10万くらいで……」
店員が一瞬固まり、そして笑顔を保ちながら言った。
「……それですと、紹介できるものはあまり……あ、少々お待ちください!」
そう言って店の奥へと駆け込んでいった。
数分後、ゴロゴロと台車を押しながら店員が戻ってきた。
上には無骨でごつい、大きな盾が積まれている。
「こちら、火鉱石で作られた盾になります。初級火魔法くらいしか防げませんが……何より、かなり重いです。お値段は……49800円ですね」
「買います!」
「えっ!? 即決!? あ……ありがとうございます!」
「これを50個ください!」
店員の笑顔が一瞬引きつった。
「……ちょっ……ちょっと……うちではそんな在庫、ないですね……。お急ぎでしたら、メーカーをご紹介しますので、直接発注された方が早いかと」
「じゃあ……紹介してください。それと、店にある分は全部ください」
「お買い上げありがとうございまーす!」
俺たちはデカくてゴツい盾を3つ手に入れた。
あとでチアキの空間魔法で収納してもらおう。
武器も数を揃えるならメーカーに直接依頼した方がいいとのことで、電話番号と住所を教えてもらった。
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現在のゴブリン牧場の状況(398匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス132匹)
ハイメス110匹
ハイメス赤ちゃん21匹
・スカー檻(スカー + ハイメス16匹)
ハイメス15匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス16匹)
ハイメス15匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(104匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん80匹
マジシャン赤ちゃん14匹
ファイター赤ちゃん14匹
・探索部隊(127匹)
ハイオス91匹
マジシャン18匹
ファイター18匹
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