第66話: ゴブリンさん、全然帰ってこれない
「うっ……お、重っ……」
俺は汗を額に滲ませながら、両手いっぱいのエナメルバッグを抱えていた。
その後ろで、同じくエナメルバッグを何個も積み上げているブタオが、息を切らしながらボソッと呟く。
「……こんだけ持つ必要、あったか?」
「……むしろ足りないって。これからもっともっと稼ぐんだぜ?」
昼過ぎの太陽が容赦なく俺たちを照らす。
ようやくの思いでダンジョン管理所にたどり着き、扉を開けるとひんやりとした空気が迎えてくれた。
「ふぅ……生き返る……」
「お疲れっス! 大量っスね!」
俺たちはあいさつもそこそこに、そのままダンジョンの入り口をくぐる。
「コハル、頼む……」
「おっけっスー!」
俺とブタオの手が限界に近づいていたのを察したのか、コハルが前に出てきた。
手をスッと掲げると、エナメルバッグの山がふわりと宙に浮かんだ。
「さっすがだな……」
「念力様様だわ……」
軽やかに進んでいくコハルの背中を見送りつつ、俺たちもダンジョンの奥へと歩を進めた。
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大部屋に入ると、どさりと音を立ててエナメルバッグの山を床に置くコハル。
その視線の先、俺たちも目を凝らした。
「……あれ?」
広いはずの大部屋が、妙に閑散として見える。
ゴブリンたちが戻ってきてはいたが、その数はあまりに少ない。
「……ぱっと見、50匹もいねぇな……」
「いや、これ……どんだけ減ったんだよ……」
ゴブリンたちに声をかけ、種類ごとに整列させていく。
ギャギャと鳴きながら並んでいく姿は、どこか疲れ切っているように見えた。
数を確認する。
「ハイゴブリン……20匹。ゴブリンマジシャン……5匹。ファイターも5匹……」
ブタオと目を見合わせ、どちらともなくため息が漏れる。
「結構減ったな……」
静かな空気の中で、俺はポツリとつぶやく。
「9階層って、そんなに攻略難易度高いのかね……?」
隣でブタオが首をひねった。
「ゴブリンマジシャンが出るだけなら、ゴブリンファイターで耐えれるからそこまで厄介でもねぇ気はするけどな……」
「普通に連戦で疲れるんじゃないっスか?」
コハルが眉を寄せ、しみじみとした声で言った。
その瞬間、チアキからチャットが飛んでくる。
<ゴブリンマジシャンがファイアーボールを連発できたら、ゴブリンファイターでも耐えられませんね……>
「……むむむ。なるほど、原因は複数ってことか」
俺は腕を組み、大部屋に漂う熱気と、ぐったりとしたゴブリンたちの様子を見渡しながら、次の一手を考え始める。
「……とりあえず、まずは魔石を回収するか」
俺は場を仕切るように声を上げた。
ぐったりとしたゴブリンたちが、魔石の詰まったエナメルバッグを次々と運んでくる。
「半分は埋まってるな」
ブタオがひとつのバッグを開け、中を覗き込んで呟いた。
中には鈍い光を放つ魔石がギッシリ……とまではいかないが、上々の結果である。
1つあたり150個前後といったところか。
「戻ってきたバッグは……20個か」
俺は数を数え、思わず眉をしかめた。
「魔石回収係……帰って来れなかったかやつが多いな」
「……11匹、お亡くなりになってるな」
ブタオのその言葉に、全員が一瞬黙り込む。
「南無ー」
「南無ー」
「なむーっス」
<軽いですね>
心の中で手を合わせつつ、俺は思った。
換金額は期待できる。でも……これは正直、もったいねぇな……
気を取り直して、次の作業に移る。
「檻Bの成体ども、外に出ろー!」
俺の声に、檻Bの成体ゴブリンたちがぞろぞろと出てくる。
それを見計らって、メスゴブリンたちがオスの赤ちゃんをトンネル経由で檻Bに移動させ始めた。
流れるような作業に惚れ惚れする。
「……さて、数を確認するか」
探索に出すゴブリンたちを見渡しながら数えていく。
「ハイゴブリン、91匹……ゴブリンマジシャン、18匹……ファイターも18匹……合計127匹か」
「……昨日より少ねぇな……」
「無理させるのは禁物かもな……」
俺はブタオと顔を見合わせ、微妙な表情でうなずき合う。
「よし、マジシャンとファイターは1匹ずつ配置して、18チーム編成だ」
「「ギャー!」」
ゴブリンたちが一斉に声を上げ、チーム分けが進んでいく。
各チーム、8、9匹程度のまとまりになる。
「……よし、今日は8階層まででいい」
「9階層はいいのか?」
ブタオが確認してくる。
「この数だと全滅しそうだしな。やめとくわ」
「安全でいいと思いますっス!」
コハルがにこっと笑う。
「よし、お前ら行ってこーい!」
「「ギャギャギャー!!」」
ゴブリンたちが勢いよく3階層に繋がるゲートを通っていく。
「んー、じゃあ今日はこのあと装備を買いに行くか。9階層は装備がないと厳しい気がする」
「お、いいな。《武装堂》行くか」
「私、《武装堂》行くの初めてっス!」
<私も初めてです!>
「よし、今日の稼ぎは装備に当てるぞー!」
「「異議なーし!」」
<異議なしです!>
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ダンジョンを後にし、管理所に戻った俺たちは、早速魔石を提出した。
「ゆきちゃーん、今日の分ですー」
エナメルバッグから魔石を流し込み、ゆきがカチカチと計測機のスイッチを操作する。
「……1942個。812万5000円ね」
「おおお!」
「1人あたり……約180万か。苦しゅうない!」
「やばいっス! 今年中に1億の借金返せそうです!」
<このペースで増えていくならコハルさんは来月にも返せそうですけど>
チアキ先生は冷静だなー
俺も来月には借金返せるかも?
「よし、お前ら、装備買いに行くぞー!」
「あなたたち、探索する気になったの?」
ゆきが少し驚いたようにこちらを見る。
「あ、いや。ゴブリンの装備です」
「……なるほどね。行ってらっしゃい」
ゆきがわずかに笑みを浮かべる。
「よし、行ってきまーす!」
俺たちは意気揚々と管理所を後にし、武装堂を目指すのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(398匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス132匹)
ハイメス110匹
ハイメス赤ちゃん21匹
・スカー檻(スカー + ハイメス16匹)
ハイメス15匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス16匹)
ハイメス15匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(104匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん80匹
マジシャン赤ちゃん14匹
ファイター赤ちゃん14匹
・探索部隊(127匹)
ハイオス91匹
マジシャン18匹
ファイター18匹
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