第65話: ゴブリンさん、9階層に挑む
「ふぅー……やっぱり昼飯のあとって、ちょっと眠いな……」
「お前、さっきまでラーメン大盛り替え玉までしてたからだろ……」
そんなやり取りをしつつ、昼過ぎに俺たちはダンジョン管理所に到着した。
扉を開けると、カウンターに座るゆきがスマホをいじっていて、その横に見慣れたポニーテールが揺れていた。
「おっ、コハルいるじゃん!」
俺はすかさず声を張り上げた。
「お前、よくも昨日サボったなーっ!」
「すいませんっスー! でも昨日でプラチナランクまでいけたっス! プロの道まで見えてきたっスよ!」
どや顔のコハルがガッツポーズを決めている。
こいつ、どこまで本気なんだよ……。
「お、おう……。よかったな……。まぁ、特に困ってなかったからいいけどさ……」
「ならよかったっスー!」
心底晴れやかな顔で言いやがった。
……ほっとこう。気にしたら負けだ。
「ま、次からはちゃんと来いよ?」
「いや、それは……わかんないっス!」
「おいっ!」
肩を落としつつ、俺たちはダンジョンへと向かった。
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大部屋に入ると、むわっとした熱気とともに、ゴブリンたちの鳴き声が耳に飛び込んでくる。
その中心で、青白い渦が二つ、ゆっくりと波紋のように回っていた。
「……おお、これなんスかー!?」
コハルが目を丸くして渦に駆け寄る。
「これか? チアキが作ったゲートだ。それぞれ2階層と3階層に繋がってる」
「すっごいっスー! ってことは……ダンジョン探索したんスね!? 私も行けばよかったっスー!!」
「次からはサボらないようにな」
「いや、それは……わかんないっス!」
「おいぃぃぃ……!」
さて、気を取り直して。
「ゴブリンども、10匹ずつ並べー!」
俺の声に反応し、ゴブリンたちはぎゃぎゃと鳴きながら整列を始める。
数えていくと──
「……176匹。1匹だけ、帰らなかったか」
「運がなかったんだな……南無ー」
静かに手を合わせ、俺たちは次の作業に移った。
「魔石回収するぞー! 持ってこーい!」
魔石が入ったエナメルバッグを回収する。
6階層までしか探索させてないから数は少なそうだ。
「……おい、ブタオ。なんかさ……」
「ん?」
「ヘロヘロになってるやつちょい多い?」
よく見ると、何匹ものゴブリンが地面に座り込んで肩で息をしていたり、壁にもたれかかってぐったりしていたりする。
ひどいやつは目を閉じて、ほぼ寝落ち状態だ。
「……やっぱ毎日戦闘させるの、さすがにキツいんじゃないか?」
俺がつぶやくと、ブタオは腕を組んで少し考えたフリをしたあと、あっけらかんと笑った。
「んー、でもさ、どうせまたすぐ増えるだろ? 気にしなくていいんじゃねぇか?」
「じゃあ、気にしなくていっか!」
「鬼畜っス……」
コハルがジト目で俺を見てくる。
<鬼畜です……>
チアキまでチャットでツッコんでくる始末だ。
うむ。
そんなのかんけぇねぇ!
「檻Bのやつら出ろー! んで、メスどもはオスの赤ちゃんを空っぽの檻Bに移せー!」
ぎゃぎゃっと声を上げ、ゴブリンたちが一斉に動き出す。
成体になったゴブリンたちが外へ出て、赤ちゃんゴブリンたちが次々とトンネルをくぐり檻Bに流し込まれていった。
「さて……探索部隊の数は……」
出てくるゴブリンの数を数えておく。
ハイゴブリン202匹
ゴブリンマジシャン31匹
ゴブリンファイター31匹
「マジシャンとファイターは均等に分けたいし……31チームに分けるか」
こうして8、9匹編成のチームが31組出来上がった。
1チームに1つずつエナメルバッグを配布し、ふと思った。
「そろそろエナメルバッグ、買い足しとくか?」
「そうだな。足りなくなってきたな」
エナメルバッグ、大事!
「今日は9階層まで行きたいけど……ゴブリンマジシャンが出てくるんだよなぁ……」
「ハイゴブリンとゴブリンファイターって、ファイヤーボール耐えられるんかね?」
ブタオの言葉に、俺は唸った。
「んー……」
「試せばいいんじゃないっスか?」
コハルが無邪気に言ってのける。
「どうやって?」
「え? 今ここでゴブリンマジシャンに打たせりゃいいじゃないっスか!」
「鬼畜ー……」
「鬼畜ー……」
ブタオと俺の声が重なる。
<鬼畜です……>
チアキまで追い打ちだ。
「なんでですか!? 正しい実験っスよ!?」
まあ……確かに必要な検証ではある。
「……やるか。ハイゴブリンとゴブリンファイター、1匹ずつ前に出ろ!」
壁際に立たせた2匹は、どこか自信ありげだ。
その姿は「俺なら耐えられるぜ」とでも言いたげだ。
「……まずはハイゴブリンな。ファイヤーボール撃ってくれ」
「ぎゃ!」
ゴブリンマジシャンが構え、火球を放つ。
轟音と共に炎がハイゴブリンを包み──
「……あ。」
瞬く間に火達磨になり、その場に崩れ落ちた。
「ダメじゃーん……」
「……あいつのことは忘れない……」
「尊い犠牲っス……」
<いや、ただお馬鹿なだけです……>
チアキの冷静すぎるツッコミが刺さる。
「次、ファイターな!」
マジシャンの火球がファイターに飛ぶ。
今度は耐えた。
だがダメージは大きかったらしく、ヨロヨロとしている。
ただ顔は勝ち誇った顔だ。
「「「おおおおおお!!!」」」
「耐えた……! 耐えたぞ……!!」
なるほど、ファイターならいける。
でも、何発もは無理だな……。三発喰らったら終わりそうだ。
「防具が必要だな」
「明日買いに行くか」
そう決め、俺はゴブリンたちに声を張り上げた。
「よし、今日は9階層まで行ってこーい! マジシャンの攻撃はファイターが体張って守れ! 以上!」
「ぎゃーっ!」
ゴブリンたちは勇ましく3階層のゲートへと消えていった。
「っあ、そういえばチアキ。空間拡張、レベル6になってからやってなくね?」
俺はふと思い出して声をかけた。
<あ、はい! ……あっ! そういえば私、昨日のでレベル7になってました! たぶんもっと広がると思います!>
「ちょーい! そういう大事なことはもっと早めに言ってくれよー!」
「それじゃあチアキ先生、よろしくお願いします」
チアキはにこっと微笑んで、すっと手を掲げた。
大部屋の空気がぴりっと張り詰める。
ぼんやりと光が満ち、壁や天井がほんのわずかに震えたかと思うと──
ゴゴゴゴ……と低い音を響かせながら、部屋が一気に上下左右に広がった。
体感で1メートル以上、ぐんと広くなったのがわかる。
「おおー、なかなか広くなったじゃん!」
俺は目を丸くして周囲を見渡した。
「これなら、まだまだ牧場を続けられるな」
ブタオも満足そうに頷く。
「よし、もう今日はこれでいいだろ。帰るかー!」
「おおー!」
俺たちは片付けを終え、そのまま管理所へと戻った。
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「ゆきー、魔石持ってきたぞー」
カウンターの奥で書類を整理していたゆきが顔を上げ、軽く目を細める。
機械に魔石を流し込み、計測を始めた。
「……2071個。金額は、291万円だね」
「おお……。昨日は6階層までだったもんな。こんなもんか」
「なんか渋く感じるな」
ブタオと俺は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「今日は……休肝日だな! しっかり肝臓を休めるぞ!」
「おけ」
肝臓を休ませるのも大事です。
「よーし、解散だー! また明日なー!」
「「おおー!」」
<はいっ!>
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現在のゴブリン牧場の状況(388匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス110匹)
ハイメス92匹
ハイメス赤ちゃん18匹
・スカー檻(スカー + ハイメス15匹)
ハイメス14匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス15匹)
ハイメス14匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(96匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん71匹
マジシャン赤ちゃん13匹
ファイター赤ちゃん13匹
・探索部隊(176匹)
ハイオス202匹
マジシャン31匹
ファイター31匹
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