第64話: チアキさん、ゲートを設置する
「チアキの空間魔法があれば……ゲートが使える!」
「ゲートって、あれだろ? 一度行った階層にワープできるやつだよな」
<はい。その階層に設置すれば、この大部屋と繋げることができます>
ブタオと俺は顔を見合わせて──同時にガッツポーズ。
「これで……無駄な移動を削れる!」
「ゴブリンたちのブラック労働、これで多少は改善できるだろ!」
まるで革命でも起きたかのようなテンションで盛り上がった。
が、ふと冷静になって頭をひねる。
「……あれ? でもさ、ゲートって、ゴブリン通れるのか?」
「え?」
思わず自分で言っておいて不安になる。
今まで、魔物がゲートを通ったなんて話、聞いたことがない。
「これ……もしや、ゴブリンはゲートNGとか……」
「ま、まさか……」
<魔物使役スキルの方もいますし、飼育スキルが効いているなら通れる可能性は高いと思います>
チアキの冷静なチャットが届く。
「なるほど……。つまり検証ってわけだな」
「だな。やるしかねぇ!」
俺は気を取り直して手を叩く。
「よし、まずは探索準備だ。その前に、赤ちゃんを回収しとこう」
「了解」
いつものようにメスゴブリンたちに声をかけ、オスの赤ちゃんを檻Bへと移動させる。
赤ちゃんたちはトンネルをくぐって次々と移されていく。
その間、俺は見守るゴブタロウの鼻ほじり姿に軽くイラつきつつ──すでに成体となっていた檻Bのオスゴブリンを外へ出させた。
「ふむ。これで探索部隊は……」
ハイゴブリン137匹、ゴブリンマジシャン20匹、ゴブリンファイター20匹。
「なかなか頼もしい布陣じゃねぇか」
「だが……」
ブタオがボソッと呟く。
「これから下の階層に行くのか……やだなぁ……」
<お二人ともすごく嫌そうですね>
チアキの遠慮がちなチャットが届く。
「そりゃそうだろ! 怪我でもしたらどうすんだ!」
「俺はずっと1階層でぬくぬくしてたいわ!」
「だよなあ……。っていうかチアキは嫌じゃねぇの?」
<空間魔法を得た探索者はゲート設置のために下層に潜るのが前提ですから……覚悟はできています>
「……チアキ、強ぇな……」
「……チアキ1人で行ってくれたりしねぇかな……」
<さすがに酷いですよ!?>
ダメらしい。
仕方ない、行くしかないな。
俺とブタオは深くため息をついた。
「……行くか」
俺は気合を入れるように、顔をパンと叩いた。
「一旦今日は様子見で、2階層までにしとこうぜ」
「そうだな。安全マージンマシマシで」
ブタオもどこかホッとした顔をして頷く。
「よし、行くぞ!」
準備を整え、意気込みも新たに歩き出そうとしたその時、チアキのチャットが飛んできた。
<あれ? チーム分けはしないんですか?>
俺は即答した。
「当たり前だ! 何かあったらどうするんだよ!」
「最大限安全マージンを取るに決まってるだろ、JK!」
<JDです>
こうして、ゴブリンたち全員を引き連れて、俺たちは大部屋を後にした。
ゴブリンたちは前方と後方に半分ずつ分け、俺たちはその中央で完全防護状態。
「……なんだこれ、むさ苦しい大名行列だな」
「だな……暑苦しいったらありゃしねぇ」
前方のハイゴブリンたちの背中がずらりと並び、その間を歩くのは、なかなかに壮観というか、ただただ密集しすぎて息苦しい。
<数が多すぎて、野生のゴブリンと出会ってもわからないですね……>
「それなー」
誰が敵で誰が味方なのか、パッと見わからなくなりそうだ。
そのままゾロゾロと歩くこと30分。
ようやく2階層への階段が見えてきた。
「……野生のゴブリン、出会ったのかな?」
「出会った気はするけど……わかんねぇな」
「まぁ、平和でいいことだ」
俺たちはそのまま階段を降り、2階層へと足を踏み入れた。
ほんのりと空気の湿度が増し、ひんやりとした感触が肌に伝わる。
「よし、チアキ。ここでゲートを設置してみてくれ」
<はい!>
チアキがそっと手を掲げる。
その指先から、光が収束し、青白い渦が階段脇の空間に現れた。
回転し続ける光の渦は、まるで水面に石を投げ込んだ時の波紋のよう。
<できました!>
「おおー……これが、ゲートか……!」
俺は思わず見入ってしまった。
その時、横でブタオがにやりと笑った。
「じゃ、入ってみるわ」
「お、おいちょっと待……!」
止める間もなく、ブタオはゲートの渦に飛び込んだ。
数秒間、静寂が広がる。
5秒後、ゲートの渦が揺れ、ブタオがひょっこりと顔を出した。
「すげぇ! さっきの大部屋に戻ったぞ!」
「おお……ちゃんと戻れるんだな」
俺はゴクリと唾を飲む。
「じゃあ、次は……ゴブリンだな。通れるか試すぞ」
近くのハイゴブリンを呼び、ゲートに入るよう指示を出した。
ハイゴブリンはちらっと俺を見た後、ゲートを一瞥し、足を止めた。
「……嫌そうだな」
その時、すぐ横にいたゴブリンファイターが、ぐいっとハイゴブリンの背中を押した。
「お前、鬼畜か……」
ハイゴブリンはバランスを崩し、そのままゲートの中へと吸い込まれていった。
数秒間の静寂。
そして──
「おおー! 入れたじゃーん!」
10秒ほどして、ゲートの渦からキョロキョロと周囲を見回しながら、ハイゴブリンが戻ってきた。
「よし……これで、ゴブリンもゲートOKだな!」
俺は拳を握りしめた。
「よし……じゃあこのまま3階層まで行っちまうか!」
「そだな。これだけの大名行列だ、怖いもんなんてねぇな!」
ブタオがにやりと笑って力こぶを作る。
俺もそれにつられて、声を張り上げる。
「よーし、行くぞお前らー!」
「ギャギャー!」
ゴブリンたちの声が洞窟内に響き、無数の足音が一斉に鳴り始める。
大名行列がさらに前進し始めた。
「……なぁ、ブタオ。ハイゴブリンの戦闘って、ちゃんと見たくね?」
「確かにな。ちょっと見てぇな」
<私も、ぜひ見たいです!>
チアキのチャットも届き、俺たちは顔を見合わせた。
「よし、前方に行ってみるか!」
俺たちは後方で守りを固めていたゴブリンファイターのうち、屈強そうなやつを2匹選び、ボディガード役に引き連れる。
慎重にゴブリンたちの間を縫い、前方部隊へと向かっていく。
しばらく進むと、前のほうからカンッ! ガンッ! と金属のぶつかる音と、短い悲鳴のような声が聞こえてきた。
「お、もう戦闘してるっぽいな……」
やや急ぎめでで前へ出ると、視界に飛び込んできたのは──
ボロい槍を持った野生のゴブリン。
その首を、ハイゴブリンが持った剣が一直線に切り落とす瞬間だった。
「おお……一発だ……!」
あまりの鮮やかさに、俺とブタオは息を呑んだ。
ゴブリンの体がどさりと崩れ落ち、血が静かに地面に広がっていく。
すぐさま一番近くにいた魔石回収係のゴブリンが駆け寄り、慣れた手つきで魔石を取り出し、エナメルバッグに入れた。
「……なかなか効率的じゃん」
「うん。これが俺らの日当になる分けだな」
その後も大名行列は乱れることなく、ひたすら前進を続けた。
1時間ほど歩き、ようやく3階層へと続く階段に到着した頃には、俺たちもさすがに少し足が重くなっていた。
「ふぅ……着いたな。チアキ、ゲートを頼む!」
<はい!>
チアキが手を掲げ、青白い渦が階段の脇にゆっくりと現れる。
波打つその光は、やっぱり何度見ても不思議な感じだ。
「よし……じゃあ──」
俺は前を向いて、ゴブリンたちに声を張り上げた。
「ゴブリンども! お前らは6階層まで適当にチームを組んで魔石を回収してこーい! 俺らはもう帰るからなー!」
ブタオが呆れ顔で言った。
「お前、鬼畜すぎだろ……」
<嫌な上司代表ですね……>
「野生のハイゴブリンがいなけりゃ余裕だろ! ……多分な!」
俺は肩をすくめた。
「帰ってくるときはこのゲートを通っていいからなー!」
ゴブリンたちが「ギャギャ!」と勢いよく返事をし、各自散開して階段を下りていった。
俺たちはそのままゲートで大部屋に戻り、さらに管理所へと帰還した。
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「魔石持ってきましたー!」
ゆきはカウンターで軽く眉を上げ、カウンター奥の計測装置を準備した。
「どれどれ……2310個。……金額は、732万3000円だね」
なな……ひゃく?
「どえええええええ!?」
「そんな高いのかよ……!?」
俺とブタオは揃って目を見開いた。
<すごすぎます……!>
ゆきは淡々と、しかしわずかに口元を緩めた。
「品質のいい魔石が112個あるね。全部ハイゴブリンの魔石だと思うよ」
「ハイゴブリンの魔石は1個3万だから……それだけで336万……!? えぐいな……!」
「コハルいなかった分、分け前が多いな……1人200万超えじゃねぇか!」
「しゃーおらーっ!!」
き、気持ち良すぎるぅぅぅぅぅ!!
<今日は……和食がいいです!>
「おっけー! 和食だ! いくぞお前らー!」
「おおーっ!!」
<はいっ!!>
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現在のゴブリン牧場の状況(388匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス92匹)
ハイメス77匹
ハイメス赤ちゃん15匹
・スカー檻(スカー + ハイメス14匹)
ハイメス13匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス14匹)
ハイメス13匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(88匹)
ハイゴブリンオス赤ちゃん66匹
マジシャン赤ちゃん11匹
ファイター赤ちゃん11匹
・探索部隊(177匹)
ハイオス137匹
マジシャン20匹
ファイター20匹
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