第62話: ゴブリンさん、8階層に挑む
昼過ぎ、俺たちは管理所へ集まった。
受付に顔を出すと、カウンター越しにゆきがひらひらと手を振ってきた。
「おつかれさまー。……あ、そうだ」
彼女はスマホを置いて顔を上げると、少しだけ声のトーンを落として言った。
「なんか最近、魔物が階層を移動してる事件が起きてるみたいだから、気をつけてねー」
「おおう……」
さらっと不穏なことを言ってくるじゃねぇか。
「それって……やばくないですか?」
コハルが不安そうに眉をひそめる。
だがゆきはあっけらかんとした顔で言い放った。
「あんたら、ずーっと1階層にいるんだから、ヤバそうだったらすぐ逃げてくればいいのよ。ダッシュで」
「た、たしかに……!」
「おれは走れるデブだから余裕」
「そっスね。逃げ足だけは自信あるッス」
<私も逃げます!>
なんというか、信頼されてるんだか、軽く見られてるんだか。
「……ま、いっか。じゃ、行ってきまーす」
俺たちはいつものように管理所を出て、大部屋へと向かった。
大部屋入り、見渡すとハイゴブリンたちがぞろぞろと戻ってきていた。
ざっと見た感じ、100匹は超えている。
「おい、整列させるぞー。10匹ずつな」
指示を出すとハイゴブリンたちがぎゃぎゃぎゃと喚きながらも、何となく列を成して並んでいく。
こちらも慣れたもので、10匹ごとにスマホでメモしながら数えていくと——
「……135匹か」
「ってことは、17匹死んだんスね」
ブタオがぽつりと呟いた。
「7階層でハイゴブリンが出るようになった割には、あんまり死んでねぇな」
「うちのハイゴブリンが強いんじゃないっスかね?」
「あるいは、7階層で出現するハイゴブリンの数がそもそも少ないのかもな」
<7階層でのハイゴブリンの出現率は、およそ10%から20%程度らしいです>
「へえ、さすがチアキ先生。博識だなぁ」
俺が感心すると、チアキは静かに首をかしげるように目を細めた。
「まあ、その程度の出現率なら……うちのハイゴブリンたちで袋叩きにすりゃ余裕ってことか」
ブタオが鼻を鳴らす。
「よし、魔石回収すっぞー!」
俺が声を張ると、魔石運搬係に任命されているハイゴブリンたちが、20匹ほど列を作って近づいてくる。
それぞれエナメルバッグを担ぎ、運んできた。
「お、今回も誰も脱落してねぇな。偉い偉い」
コハルが笑いながら拍手する。
「中身、あんまり変わってなくね?」
ブタオがひとつのバッグを覗き込みながら言う。
「うん……昨日よりも微増って感じかな。130個前後ってところじゃない?」
「おおー、これは今日もいい額いきそうっス!」
コハルがにやりと笑う。
「よしよし、換金が楽しみだな」
「よーし、次は新兵の選別いくぞー! 檻B、開けろー!」
俺の声に応じて、ブタオが地土魔法で檻の扉を開く。
ぎゃぎゃぎゃと騒がしく、ゴブリンたちが列をなして這い出してくる。
「おお……?」
その中に、ひときわ大きな影が混じっていた。
スカーを彷彿とさせるガタイの良いゴブリンが、重そうな体を引きずるようにして前に出てくる。
「……コイツらってなんの種類なんだろ?」
「ゴブリンプロレスラーじゃね?」
ブタオがぽそりと冗談を言う。
いや、本気っぽいぞコイツ。
「えっと……ゴブリンファイターじゃないっスかね? ちょっと前にフランス探索者の動画で見たことあるっス」
<ゴブリンファイター。12階層から出現する魔物ですね>
チアキの補足に、ブタオが目を見開いた。
「マジか。そいつらが、うちで生まれたってのかよ……」
「見た限り、10匹くらいはいるな。スカーの血ってすげぇな……」
スカーが1番うちで強いのか。
「じゃ、チビの息子たちー! ゴブリンマジシャンはおるかー!」
見た目ではまったく判別がつかない。なので呼びかけるしかない。
「おーい、魔法使えるやつ、前に出ろー!」
すると──
「「ギャ!」」
ちょこん、と10匹のヒョロいゴブリンたちが列を組んで前に出てきた。
「……おお? 10匹?」
「ファイターと同じ数っスね」
「お前ら、魔法使えるか? とりあえず、なんか撃ってみろ!」
俺がそう言うと、10匹のゴブリンマジシャンたちが一斉に「ぎゃぎゃぎゃ!」と叫びながら、遠くの壁に向かって火球をぶつける!
──ファイヤーボール!
ドゴォォォン!!
「おいおいおいおいおい!? 強すぎないか!?」
後ずさるほどの衝撃が、こちらまで届く。
「……これ、下手な中級探索者より強いんじゃ……」
「お前ら、それ何回撃てるんだ?」
ブタオが尋ねると、1匹のゴブリンがピッと指を7本立ててみせた。
「7回か。……連発は無理だな。温存させねぇと」
「ハイゴブリンとか強敵と遭遇した時だけにしといた方がいいっスね」
「となると、構成は──」
目の前に広がる戦力をざっと見渡す。
ハイゴブリン:179匹
ゴブリンファイター:10匹
ゴブリンマジシャン:10匹
「マジシャンは守らせる必要あるな。ファイターとセットだ。あとはハイゴブリンで埋めて──30チームでいいな。1チーム5〜6匹。10チームにはファイターとマジシャンをそれぞれ1匹ずつ入れるように」
「了解ッス!」
「よーし! お前ら、今日は8階層までいってこい!」
俺の声に、ゴブリンたちがいっせいに「ギャー!!」と応じ、大部屋を走って出ていく。
「……なあ、なんで8階層?」
ブタオが聞いてくる。
「9階層からゴブリンマジシャンが出るらしいからな。安全マージンよ」
「あー、なるほど。どう対処させるか考えとかないとな」
「だなぁ」
どうすりゃいいかね?
ゴブリンファイターなら耐えられるかな?
「よし、次は出産チェックだ!」
俺が大部屋に声を響かせると、メスゴブリンたちが一斉にぴくっと反応する。
「メスどもー! オスの赤ちゃんを檻Bに入れろー!」
ギャーギャーと賑やかな鳴き声とともに、メスたちがトンネルの入り口に赤ちゃんゴブリンを連れて集まってくる。
そのまま、赤ちゃんたちは流れるようにトンネルへ押し込まれ──次々と檻Bに落ちていった。
「何匹かな?」
ブタオがしゃがみ込んで、ちっちゃいのをひとつずつ数えていく。
「……全部で75匹!」
「おお、なかなか産まれてんな。よーし、これでOKだ。帰るぞー!」
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管理所に戻ってくると、さっそくゆきに魔石を提出する。
ザラザラザラ……と、エナメルバッグの中身を品質チェックの機会に流し込まれていく。
「全部で2612個ね。金額は……415万2000円」
「っしゃあああ!! ひゃっくまんえん! ひゃっくまんえん!! ゆきちゃんへの上納金引いたら一人あたり100万切るけど、それでもひゃっくまんえん!!」
「ひゃくまんえんくん! おかえり!」
「ウハウハっスーー!」
<私、何もしてないですー!>
チアキは気にしいだなぁ。
「気にすんなー! 全員の成果だ! というわけで……今日はフレンチ料理だー! いくぞ、ものどもー!」
「「「おおーー!!」」」
<はいーー!!>
俺たちはその夜、ちょっぴりお上品な夕食に舌鼓を打つのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(367匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス64匹)
ハイメス64匹
ハイメス赤ちゃん13匹
・スカー檻(スカー + ハイメス13匹)
ハイメス12匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス13匹)
ハイメス12匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(75匹)
ハイオス赤ちゃん75匹
・探索部隊(199匹)
ハイオス179匹
マジシャン10匹
ファイター10匹
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