第59話: ひゃっくまんえん!ひゃっくまんえん!
「おはざますー」
ドアを開けると、いつものようにカウンター後方でゆきがスマホを見つめていた。
コハルとチアキはすでに着いていたようで、ソファでくつろいでいる。
「なぁ、コハルとチアキはレベル上がったか?」
「はい! 上がったっス! ボンさんたちも上がったっスか?」
「ああ、昨日帰り道で上がったよ」
<私も上がりました!>
「おお、ちゃんとチアキも上がったか」
「これで俺らはレベル9か。で、チアキちゃんがレベル6と」
ふむ。ちゃんと全員レベルアップしているようで何よりだ。
「あんたらくらいよ。1階層から進まずにそこまでレベル上げられるのは」
「やっぱそうですよねー」
「安全にレベル上げ、最高っス」
<他の探索者さんに申し訳ないですね……>
「レベル10まで上げられるのは、探索者のうちでも約10%。あんたらは余裕で行くと思うけどね」
「ですってよ。聞きましたかみなさん」
説明しよう!
探索者は日本に1000万人いるとされている。
これはスキルを得た人数が1000万というだけで、全員が探索しているわけではない。
そこから探索者として活動するのは1%の10万人。
つまりは戦闘系や補助系のスキルを得て、それで探索しようと思った人の数だな。
ゆきちゃんが言うにはその中でレベル10にいくのがさらに10%の1万人とのこと。
レベル10というのはかなり上位なのである。
「はぁ、そんなにすごいんですね……」
<あんまり実感ないですね>
「じゃあ、ダンジョン行ってきまーす」
「いってらー」
大部屋に着くと、すでにハイゴブリンたちが帰還していた。
「おー、ちゃんと戻ってるな」
部屋の隅では、エナメルバッグを担いだハイゴブリンたちが整然と並んでいた。どうやら昨日の探索部隊が帰ってきているようだ。
「じゃあ、魔石の回収するぞー」
俺が声を上げると、ハイゴブリンたちは次々にエナメルバッグを前に差し出してきた。
ひとつずつ数えていくと、ちょうど15個あった。
どうやら魔石回収係は全員戻ってきてくれたようだ。
「……ん? 流石に全員は帰ってないか?」
ブタオがざっと並ぶハイゴブリンの数を数えている。
「……76匹だな」
「78匹いたはずだよな。ってことは、2匹死んだか」
「南無ー……」
エナメルバッグのひとつを開けて中を覗いてみる。
「……お、120個くらいかな。けど、バッグの3分の1くらいしか埋まってねぇ」
「昨日と同じくらいっスね」
「お前ら、何階層まで進んだんだ?」
俺が問いかけると、1匹のハイゴブリンが前に出て、両手で6を作った。
「ふーむ、やっぱ6階層か。となると、2000個前後が限界なのかね?」
「まぁ、検証ってやつっスね」
「よし、じゃあ次。成人したオスは出てこーい」
檻Bに向かって声をかけると、中からハイゴブリンの成体たちがぞろぞろと出てきた。
全部で50匹。
「ってことは、探索部隊と合わせて126匹だな。これなら──」
「20チームに分けられるっスね。1チーム6匹くらいっス」
俺たちはハイゴブリンたちを手際よくチームに分けていく。
「そんじゃ、各チームにエナメルバッグひとつずつ渡すぞー」
バッグを配ると、回収係っぽいハイゴブリンが嬉しそうに肩から斜めにかけていた。
「よし、6階層まで、行ってこーい!」
「「ぎゃぎゃぎゃーー!!」」
大声で返事をして、一斉にダンジョンの奥へと走っていった。
「ふぅ……それじゃあ、昨日の分の魔石も回収するか」
俺の言葉に、ブタオとコハルがうなずく。
チアキもうっすらとコクリとしていた。
大部屋の隅に目をやると、昨日処分したメスゴブリンたちから取り出された魔石が山になっていた。
「やべぇな……これ」
「山っスよ、山。魔石マウンテンっス」
その量に圧倒されながらも、俺は頼れる相棒に声をかけた。
「それでは──コハル先生、お願いします」
「了解っスー!」
コハルがふっと手を上げると、魔石の山がふわりと浮かび上がった。
ビニール袋ではもう到底無理だ。俺たちは余ったエナメルバッグを3つ持ってきていた。
コハルは念力で魔石を一塊ごと丁寧にエナメルに詰めていく。
「……これ、3つともパンパンじゃねーか」
「これは相当稼げますなぁ。ゲッヘッヘ」
魔石の回収が終わると、次は赤ちゃんの移動である。
「よし、メスどもー。オスの赤ちゃんを檻Bに入れてけー!」
俺の号令で、メスゴブリンたちが動き出す。
次々とトンネルを利用して、オスの赤ちゃんたちを檻Bへと滑り込ませていく。
「1、2、3……29匹か」
俺は指を折って数えながら、首をかしげた。
「……あれ? 一気に減ったな」
「そりゃホブゴブリン処分したからじゃね?」
「あー、それはあるかもしれないっスね」
「なるほどな……ホブの分がそっくり減ったってことか」
納得しながら、ふと視線を檻の奥へ向けると──
「お、スカーとチビの檻、それぞれにメスの赤ちゃんが1匹ずつ残ってるな」
「お前ら、あれ追加でいけるか?」
声をかけると、スカーもチビもコクリと小さく頷いた。
「おお……ちょっとずつ限界に挑戦ってか? ヤるじゃねぇか」
俺は思わずニヤリとしてから、全員に声をかけた。
「よーし、それじゃあ今日はここまでだ。帰るぞー!」
プレハブの管理所に戻った俺たちは、いつものようにカウンター前へ。
「魔石、提出しまーす」
俺の合図で、コハルが念力で浮かせたエナメルバッグの山をずらりと並べた。
全部で──18個。今日も相当な重さだった。
「……これ、えぐい数ね」
カウンター奥でスマホをいじっていたゆきが顔を上げ、少しだけ眉をひそめた。
「探索分に加えて、昨日処分したメスゴブリンの分まで入ってるんで。たぶん3000個近くあると思います」
俺がそう言うと、ゆきは「ふうん」とだけ呟いて、手慣れた動作で魔石を計測機に流し込み始めた。
カラカラカラカラカラ……
機械の中で転がる魔石の音が、部屋に響き渡る。
数分後、ピピッと計測終了の音が鳴った。
「……2972個。金額は450万3000円だね」
「おしいーー!! 3000個届かなかったー!」
「でも、やばくね? この金額……」
「1人あたり100万超えてるっスよ!?」
ブタオとコハルが歓喜の声を上げ、俺も思わずガッツポーズを決める。
「ぐっへっへ……! ゴブリン牧場、完全に黄金期だな」
<私、皆様とご一緒できて大変感激しています>
チアキがややかしこまったチャットを送ってきた。いや、ほんと君も大戦力なんだけどな。
「でも、なんでこんなに多かったんだろ? やっぱ昨日処分したホブゴブリンとかハーフゴブリンの分が大きいのかな?」
「うーん……」
考えるフリだけして、すぐに首を振る。
「理由なんてどうでもいいよな! 金が入った、それで十分だ!!」
「「おおー!!」」
「よしっ! 今日は高級焼肉だーーーー!!!!」
「肉ぅぅぅぅぅ!!!」
「脂がのってるやつ食べたいっス!」
<私、カルビが好きです……>
テンション最高潮でその日の作業を締めくくった俺たちはプレハブ小屋を後にしたのだった。
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現在のゴブリン牧場の状況(233匹)
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・ゴブタロウ檻(ゴブタロウ + メス53匹)
ハイメス44匹
ハイメス赤ちゃん9匹
・スカー檻(スカー + ハイメス11匹)
ハイメス10匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・チビ檻(チビ + ハイメス11匹)
ハイメス10匹
ハイメス赤ちゃん1匹
・檻B(29匹)
ハイオス赤ちゃん29匹
・探索部隊(126匹)
ハイオス126匹
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