第57話: ゴブリンさん、昇進する
赤黒い炎の軌跡を残し、壁に炸裂した火球の余韻が、まだ大部屋の空気を震わせている。
チビは小さな胸を張り、誇らしげにキラキラとした目でこちらを見上げていた。いつもの「ギャ!」という鳴き声には、なぜか自信の色が混じっているように聞こえる。
「チビが……魔法使えるようになったんだな」
「これがゴブリンマジシャンかぁ」
「絶対にそれっス!」
<ファイヤーボール。初級火魔法ですね! かなり威力が高いようです!>
あ、これって初級なんだ。
同じ初級のブタオがちょっと落ち込んでる。
俺はチビの頭をぽんぽんと撫でたあと、スカーのほうを振り返った。
「……なぁ、スカー。お前、ちょっと他のハイゴブリンよりガタイ良くないか?」
すぐ近くにいたスカーが、いつも通り「ギャ」と短く鳴く。
だがその体つきは、明らかに他のハイゴブリンと違った。肩幅、腕周り、腹筋のカット……どれをとってもレベルが違う。
「……スカーも、チビも。お前らには今後、もっと重要な役割を担ってもらうぞ」
俺がそう言うと、ブタオが「ふっ」と笑って言った。
「ついに、新たな種馬が生まれる……」
黒い笑みを浮かべる俺に、コハルが目を丸くして言う。
「ボンさん、笑い方が悪役になってるっス……!」
「いいんだよ、俺たちは正義じゃない。魔石のために動く、ただの牧場主だからな……」
──よし、まずはハイゴブリン探索部隊の出撃からだ。
「スカー、チビ、お前らは今回は待機な。他のハイゴブリンたちに出てもらう」
指示に頷くスカーとチビを見届け、俺たちは檻Bに向かった。
中にいたハイゴブリンをすべて外に出す。
数えてみると──78匹。
「15チームに分けよう。1チームあたり、5〜6匹だ」
昨日は7匹1チームでビニール袋をパンパンにして帰ってきた連中だ。
このくらいの人数でも問題ないだろう。
「そういや、スカー」
俺は振り返って彼に訊ねた。
「お前ら、昨日って何階層まで行ったんだ?」
するとスカーは、無言で両手を上げ──「6」を作った。
6階層。ハイゴブリンがでない階層か。そりゃあ、ハイゴブリンで無双できるわけだ。
「よし。1チームに1つずつバッグを配布する! 回収係、前に出ろ!」
すると15匹のハイゴブリンがぞろぞろと前に出てきた。
「よしよし、じゃあ1匹ずつ、肩にかけてやるぞ」
俺は丁寧に、エナメルバッグを斜めにかけてやる。大きめのハイゴブリンにはちょうどいいサイズ感だった。
かけられたゴブリンたちは、なぜか嬉しそうに「ギャ」と声を上げている。
……いや、ごめんな? それ、1個2980円の安物なんだ
それでも彼らの目はキラキラしていた。
「よーし、行ってこーい!」
「「ぎゃぎゃぎゃーーー!!!」」
ドドドッと、大部屋の外へと飛び出していくハイゴブリンたち。
昨日ほどの迫力はないが、精鋭って感じがして頼もしかった。
「さて──次は出産チェックだな」
俺たちは檻Aへと向かい、メスゴブリンたちに声をかけた。
「オスの赤ちゃんを、檻Bに移動してくれー!」
すぐさまメスたちが動き出す。
トンネルを通って、するすると檻Bへと移動していく。
数えてみると──50匹。
「1匹3万の魔石として……150万か。探索させなくても大儲けたな」
さて、最後の仕事だ。
「スカー、チビ。お前らには、いよいよ……種馬になってもらうぞ」
「「ギャ!」」
2匹は揃って即答した。
まさか、本当に待ってたのか? その役職を。
ブタオが言う。
「ゴブタロウと同じ檻にするか?」
「いや、それはやめとこう。メスを取り合って喧嘩されても困る」
「だな。じゃ、檻を分けるか」
「頼む、ブタオ」
「まっかせな」
ブタオが土魔法で檻を二つ、さくっと生成する。
柵の太さや強度も、以前よりしっかりしている。ブタオの技術も上がってきたな。
「なあ、もうさ──檻Bっていらなくねぇか?」
ブタオがぽつりと呟く。
「どうせオスに指示して檻から出せばいいんだし」
「……あー。いや、それもそうなんだけどさ。万が一、自由になった連中がメス妊娠させたら微妙じゃね?」
「うーん、確かに。じゃあ、チビたちの檻にも、滑り台トンネルつけとくか」
「頼んだ」
しばらくして、檻から檻Bに通じる土製のトンネルが完成した。
「じゃ、スカー、チビ! それぞれ自分の檻に入ってくれー」
「「ギャ!」」
大人しく檻に入る2匹。
その表情は……なんかちょっと嬉しそう?
──さて。
「メス、どう分ける?」
「てかさ……」
「ん?」
「ハイゴブリン以外って──もう、いらなくね?」
静寂。
コハルが、ゆっくりと、指のストレッチを始めた。
その姿は──まるで処刑人。
「ちょ、ちょっと待て。まだ言ってない! 処分とは言ってないから!」
コハルは、にっこりと笑った。
「つまり──処分、ってことで、いいんスよね?」
まさかの流れに、俺たちは思わず顔を見合わせた。
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現在のゴブリン牧場の状況(1147匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス1016匹)
メス228匹
ハーフメス565匹
ホブメス221匹
ハイメス46匹
ハイメス赤ちゃん18匹
・檻B(50匹)
ハイオス赤ちゃん50匹
・探索部隊(78匹)
ハイオス78匹
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