第51話: 100万円、とったどー!
「よし、スカーがこの探索班のリーダーだ! あとは任せたぞ!」
俺がそう宣言すると、スカーは振り返りもせず、渋く低い声で「ギャ」と短く返事をした。
「……なんか、カッケェじゃねぇか……」
その背中には妙な風格が漂っていて、まるで歴戦の傭兵みたいなオーラがあった。
スカーはすぐに行動を開始した。
各チームの先頭に立つホブゴブリンを次々と呼び出し、何かしらの指示を出していく。
身振り手振りで「お前がここのリーダーな」とでも言っているようだ。
魔石回収係にはビニール袋を手渡している。
「……いや、俺より指示うまいのでは?」
思わず小声でつぶやいた。
俺の仕事なくなったか?
コハルのことをもうニートと馬鹿にできないかもしれない
「ん? チビ、お前、ホブに進化したのに、まだ魔石回収係なのか?」
進化したことで前線に出たがるかと思っていたが、チビはビニール袋をしっかりと握ったまま、こちらを振り返って──
「ギャ!」
一発で返してくる。どうやらやる気満々だ。
「いや、別に……前に出てもいいんだぞ? リーダー格にだってなれるし──」
「ギャギャギャギャ!!!!」
ものすごい勢いで拒否された。
いや、お前……そんなにイヤかよ。
「お、おう……。そんなに魔石回収がやりたいなら、やってていいよ……」
手にしたビニール袋を胸に抱え、チビ──いや、今やホブサイズのチビは満足げに頷いた。
スカーが「ギャ」と短く声をかけると、全ゴブリンが一斉に動き出した。
リーダーを先頭に縦列を組み、魔石回収係が後ろに続く。
まるで軍隊の行軍のような、無駄のない動き。
こうして396匹のゴブリンたちは、大部屋を出てダンジョンの奥へと姿を消していった。
「……あいつらにダンジョンで出会ったら死ぬ自信しかないわ」
思わず口をついて出た冗談に、誰も否定の言葉を返さなかった。
「さて、次はオスゴブリンの赤ちゃんの移動だな」
俺は檻Aの中を見渡しながら言った。
さっきまでごった返していた大部屋が、ゴブリンたちの出撃で少し静かになっている。
その分、赤ちゃんゴブリンたちの存在感が際立っていた。
「メスゴブリンたちー、オスの赤ちゃんをBに運んでくれー!」
俺の声に、メスたちがピクリと反応し、一斉に動き出した。
赤ちゃんを小脇に抱える者、背中におぶっている者、時には手を引いてヨチヨチ歩かせている者までいる。
「ああ、なんか保育園みたいだな……」
メスたちは甲斐甲斐しくオスの赤ちゃんゴブリンを檻Bに移動させていく。
ぎゃあぎゃあと騒がしいが、彼女たちは慣れた様子で淡々と作業をこなしていた。
「んー、この中にハイゴブリンはいるんだろうか?」
赤ちゃんたちの顔をじっと見てみる。
が、特に大きな個体も、変わった特徴を持つ個体もいない。
全体的に普通のサイズの赤ちゃんばかりだ。
「……ま、明日になれば分かるか」
今わかってもしょうがないさ。
気になるけども。
「よし、チアキ。レベルが5になったんだし、空間拡張をまたしてみてくれ」
俺の言葉に、チアキは小さくコクリ、と頷いた。
彼女がそっと手を広げると、空間の空気がピリリと緊張するような気配が走った。
──ボウッ
肉眼で確認できるほど、空間が押し広げられた。
「おおお!?」
大部屋の端、檻のすぐ外にあった壁までの距離が、明らかに広がっている。
目測で──40センチ以上。
「レベル4から5への振り幅、デケェな……」
<わ、わたし、ちゃんとできましたか……?>
チアキが顔を伏せ、肩を震わせている。
どうやら褒められて照れているらしい。
「ブタオ、檻の調整頼むわ」
「はいよー」
ブタオが両手を構えると、土の檻がグワッと伸びて壁際までピッタリとくっついた。無駄のない流れるような動きだ。
「……ブタオも土魔法、だいぶ慣れてきたな」
「このくらい朝飯前よ。なんならカウンター付きのキッチンも作れるんじゃないかな?」
「それは要らん」
「だよな」
軽口を交わしながら、俺たちは最後の作業を終えた。
「よーし、帰るかー。コハルー、魔石の運搬、頼んだぞー!」
「まかせてくださいっスー!」
コハルが満面の笑みで念力を使い、魔石を運んでくれる。
──
プレハブの管理所に戻ると、受付のゆきがスマホを見たまま顔だけ上げた。
「魔石は?」
「これっス!」
コハルがビニール袋をバサッとカウンターに置くと、ゆきの手が止まり、顔が若干だけ動いた。
「……随分と多いわね」
彼女は機械のように動き出し、機械に魔石をざらざらと流し込んでいく。
カランカラン……カララ……
魔石がぶつかる音が管理所の中に響いた。
「全部で……1047個。127万5000円ね」
その瞬間、全員の目が見開かれた。
「……っしゃあああああああああ!!!!!」
「30万超えてるぞ! 一人30万オーバーだぞーー!!! 上納金なければだけどーー!!!」
「うわあああああああ!! やったっスーー!!!」
<すごいです!!>
管理所の中が小さなパーティー会場のように沸いた。
ゆきはそれを横目で見ながら、またスマホに目を戻した。
俺たちは、誰一人としてその静かな視線を気にしなかった。
だって、127万だぞ? 127万
今日はもう、解散でいいだろ。
ブタオー飲みに行こうぜー。
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現在のゴブリン牧場の状況(1233匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス808匹)
ゴブタロウ
メス228匹
ハーフメス309匹
ホブメス112匹
ハーフメス赤ちゃん105匹
ホブメス赤ちゃん51匹
ハイメス赤ちゃん13匹
・檻B(444匹)
ハーフオス301匹
ホブオス122匹
ハイゴブリン21匹
・檻C(0匹)
魔石回収係0匹
ハーフオス0匹
ホブオス0匹
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