第49話: ゴブタロウ、まだ余裕
ひととおりポージングを決め終えたゴブタロウは、満足げにふぅっと息を吐くと、そのままその場にドサリと寝転がり、ゴロゴロと転がりはじめた。
「……なんかもう、堂々としてるな」
俺は呆れ半分でその姿を見つめながら、つぶやいた。
「っていうかさ」
「ん?」
「こいつ……あのメスの群れ、全部妊娠させてるって、ヤバくない?」
「あー……」
ブタオが腕を組んで顎を撫でながら、メスゴブリンたちがひしめく檻Aの方へ目をやる。
「冷静に考えたら、ヤバいわ……」
「やばいっスね……普通に考えて異常っスよ……」
コハルまでもが真顔になっている。
ピコン。
《ええ!? このゴブリンさん1匹でこの全員とシているのですか!?!?》
チアキからのチャットが届いた瞬間、俺たち3人の背筋がピシリと伸びた。
「お、おおう……チアキさん、そういう方向の話題もいけるクチなんだね……?」
「見た目清楚っスけど、やっぱ人は見た目で判断しちゃダメっスね……」
「いや、言葉のチョイスが逆に丁寧すぎてリアルに効くな……!」
ひとしきり気まずくなった空気を振り払うように、俺は咳払いをして話題を戻した。
「ま、もし出産数が頭打ちになったら、オスを増やしてもいいな」
「それでいいと思う。てか、個人的にはチビを種馬にしたい」
「おお、それ良いっスね!」
コハルが食いつくように頷く。
「いつもちゃんと生き残るし、素早いし、なんか愛嬌あるし!」
「そうそう。遺伝子的に有望かもしれん」
「ゴブリンでサラブレッド計画……始まっちゃうっスか?」
ブタオが鼻を鳴らす。
「それなら俺の出番だな。競馬で培ってきた血統知識……ついに役立つ時が来たか……」
「ブタオの時代が来たようですな」
3人で勝手に盛り上がっていると──
「ゴブタロウ!」
突然ブタオが檻Aに向かって怒鳴る。
「お前はもう十分働いた! もうヤらなくてもいいからな! お疲れ!」
すると、その声に反応したゴブタロウが寝転がったまま、ブタオのほうをチラリと見て──ふん、と鼻で笑った。
「な、なんだと……!?」
「えっ、いま、鼻で笑ったっスよね!? 明らかにバカにしてたっスよね!?」
「ゴブタロウ……お前、まだイケるって顔か? このメスの数相手でも余裕だってのか……!?」
ゴブタロウは相変わらずドシンと横になったまま、ちらりとも動かない。
「……まあ、どっちでもいいや」
俺はふっと息を吐き、檻の方に顔を向ける。
「よーし、メスゴブリンどもー! オスの赤ちゃんを檻Bに移動させろー!!」
檻Aの中で、わらわらとメスゴブリンたちが動き出す。
彼女たちは無言で、だが手慣れた様子で赤ちゃんゴブリンを抱きかかえ、昨日作ったトンネルへと運び出していく。
「……これ、いつ見てもすごいっスよね」
「なんか工場のライン見てるみたいで気持ちいいわ」
スルスルとトンネルを滑っていく赤ちゃんゴブリンたちは、途中で小さく「ぎゃっ」と鳴いたりしながら、ひとりまたひとりと、檻Bの中へと整然と収まっていく。
「よし、これで全部か」
俺は一息ついて、ブタオとコハルに目をやった。
「さて……」
「……どうするよ?」
「……うーん……ゴブリンたち、今日中に帰ってくるかな……?」
「わかんねっス」
俺たちは視線を交わしたあと、同時にひとつ、ため息を吐いた。
「帰るか」
「そだなー」
「やること、ないっスしね……」
「魔石の回収は明日でいいや。……あ、でも、残った奴ら檻に入れなくていいのか?」
「まぁ、いいんじゃね? メスはちゃんと檻Aに入れてるし、問題はないはず」
「……よーしかいさーん!」
「帰るっスー!」
俺たちはそのままダンジョンを後にした。
管理所に戻ると、ゆきがカウンターの奥で書類を捌いていた。
「おかえり。……魔石はないの?」
「はい。今探索させてるんで。明日まとめて回収します」
「わかった。じゃあ明日ね」
「よろしくお願いしまーす!」
そうして、俺たちはダンジョンをあとにした。
明日、どれだけの魔石が回収できるか……。
期待に胸を膨らませながら、俺たちは帰路についた。
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現在のゴブリン牧場の状況(1017匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス639匹)
ゴブタロウ
メス188匹
ハーフメス228匹
ホブメス74匹
メス赤ちゃん40匹
ハーフメス赤ちゃん81匹
ホブメス赤ちゃん38匹
・檻B(378匹)
オス135匹
ハーフオス192匹
ホブオス51匹
・檻C(0匹)
魔石回収係0匹
ハーフオス0匹
ホブオス0匹
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