第46話: 新人さん、レベルが上がる
ブタオに俺の意図は伝わった。
やつが手をかざすと、大部屋の隅にあった空きスペースの地面がぐにゃりと波打ち、ぐい、と盛り上がる。
そして、空気を押しのけるようにして、横に長く細長い檻が生成されていった。
「こ、これって……」
コハルが目を丸くする。
幅は大人1人分もない。高さもギリギリゴブリンが立てる程度。中には1列に並ばせることを前提としたような構造。
「アレをやるってことっスね……」
「よーし、檻Bのゴブリンども! 全員ここに入れー!」
俺の号令に、ゴブリンたちが「ぎゃっ」と短く鳴いて順番に細檻へと移動していく。
混乱も暴動も起きないのは、やはり指示スキルの恩恵か。
1匹、また1匹と、列に並んでぴったり詰められていく。
その様子は、まるでソーセージ工場のラインのようだった。
「うむ。よし」
俺が満足げに頷くと、次にブタオがまた手を動かした。
今度は地面から、スルスルと伸びてくる槍。
お前はどこぞの錬金術師か。
「中空構造で軽めに作ってある。鉄の槍より扱いやすいと思うぞ」
「さすがブタオ先生!」
そして、完成した槍の1本を手に、俺はくるりと振り返る。
向かいに立っているのは、相変わらず無表情の少女──チアキ。
「さぁ、チアキ先生。こちらをお持ちください」
俺が丁寧に差し出すと、チアキは少し戸惑いながら槍を受け取る。
「……何をすれば?」
その一言に、俺は全力で答えた。
「ぶっ殺せぇぇぇ!!!!」
「刺して刺して刺しまくれー!!!!」
「やるっスーー!!!!」
コハルもこれから何をするのか理解していたようで、嬉々として叫び声を上げている。
テンションが上がってきたのか、両手をバタバタ振って飛び跳ねている。
「……」
チアキは一瞬だけ、無言で俺たちを見た。
そして目を伏せ、ふぅと小さく息を吐いた。
「さぁ、こちらが安全にレベルを上げられる方法でございます」
「さぁさぁさぁ!!!1」
「さぁっス!!!!」
俺たちは半ば強引に、チアキの背中を押すようにして檻へと誘導する。
「……ワカリマシタ」
チアキはそう呟くと、すっ……と無駄のない動きで前へ出た。
1列に並んだゴブリンの1匹へと槍を構え──
──ッギャ!!
──ズブッ!!
音もなく、ただ静かに、槍がゴブリンの胸元を貫いた。
「おお……」
「おぉ……」
俺とブタオが声を漏らす。
チアキは無言で、次のゴブリンへと足を運んだ。
「さぁ、休んでいる暇はないぞ! 次だー!」
「チアキちゃんいけぇぇぇ! お前ならやれる!!」
「やるっスー!!!」
声援を浴びながら、チアキは一切表情を変えずに、次のゴブリンへと槍を突き立てていく。
その姿はまさに、無表情の処刑人。
そして──彼女の、静かな戦いの幕が上がった。
チアキが10匹目のゴブリンを突き刺した瞬間、彼女の身体が一瞬だけ淡く光った。
「……レベルが上がりました」
低い声でそう呟き、槍を下ろすチアキ。
「おおおっ! 来た! 来たぞぉぉぉ!!」
俺は思わず両手を振り上げて喜び、ブタオとコハルも歓声を上げる。
「チアキちゃん! もう一回空間拡張やってみてー!」
「……はい」
チアキが槍を脇に置き、手を前に出して静かに念じる。
するとまた、大部屋の空気がぐにゃりと歪んだ気がした。
「うぉ……!?」
壁際に並べた檻と壁の間に、確かにさっきまではなかった隙間ができている。おそらく2センチくらいだ。
「やべぇ! なんか広くなった感じがする! いや、知らんけど!」
「俺には全くわからん!」
「これからに期待っスー!」
とにかく拡張されたのは事実。俺たちのテンションはますます上がる。
「よし、チアキ! さぁ、どんどん殺せぇ!!」
「……」
無言で頷いたチアキは、再びゴブリンたちの並ぶ檻に向かって槍を握り直した。
ただ、その腕がわずかに震えていた。
「……チアキちゃん、もしかして……運動不足っスか?」
「いや、間違いなくそうだろ」
「チャットの感じ、どこぞのお嬢様っぽいもんな」
チアキの腕は、すでに普段使われていない筋肉の悲鳴をあげているようだった。
「だが──そんなのは知らぬッ!」
「ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「やるっスー!!!!」
またも俺たちの無責任な大号令が響く。
というかコハル。お前『やるっス』意外にいうことはないのか。
チアキは若干涙目になりながらも、黙々と作業のようにゴブリンを殺していく。
次々と、確実に。無駄な動きはない。むしろ精度が上がっている。
そのうち、俺たち三人にも通知が届いた。
「おっ、俺、レベル7になったぞ」
「えっ、俺も」
「……あ、私もっス」
レベルアップしたが、正直どうでもいい。
「やれチアキぃぃぃぃぃ!!!」
「次いけぇぇぇ!!」
「チアキちゃん! 愛してるッスー!!!」
声援というよりも応援というよりも、なんだかもう変な宗教みたいなテンションで追い立てる。
──そして。
檻Bにいたゴブリンたちを、チアキが最後の1匹まで突き終えたのは、開始からちょうど5時間後だった。
チアキは息を切らし、腕をぷるぷると震わせながら壁にもたれかかる。
彼女のレベルは、その時点で【Lv4】まで上がっていた。
そして、大部屋。
空間拡張の効果によって、左右上下すべてで8センチほど広がっていた。
レベルが上がるたびに2倍ずつ拡張されているということは──これは今後、どこまで広がるのか。
「これは……夢が広がりますなぁ……」
「というかこの殺処分、普通に商売になるな」
「安全にレベリングできるってチートっスからね」
一考の価値あり。これは本当に革命の可能性がある。
そんな中、チアキは必死に震える手でスマホをいじっていた。
やばい。やりすぎたかもしれん。
ピコン。
チャットが届く。
《本日はありがとうございました。最初はびっくりしてしまいましたが、1日でレベルが4まで上がるなんて……本当に、感謝しております!》
文章の締めに、感謝のスタンプと、笑顔の猫の顔文字が添えられていた。
「……いけるな」
「いける」
「いけるっスね!」
俺たちは確信した──ゴブリン牧場は次のステージに入ったと
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現在のゴブリン牧場の状況(448匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス356匹)
ゴブタロウ
メス137匹
ハーフメス111匹
ホブメス28匹
メス赤ちゃん24匹
ハーフメス赤ちゃん41匹
ホブメス赤ちゃん15匹
・檻B(0匹)
オス0匹
ハーフオス0匹
ホブオス0匹
・檻C(92匹)
魔石回収係10匹
ハーフオス62匹
ホブオス20匹
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