第45話: 新人さんをご案内
ダンジョン管理所を後にして、俺たちは青梅ダンジョンのゲートへと向かっていた。
「……」
そのすぐ後ろ、無言でついてくるのが山田千秋。前髪ぱっつんの黒髪少女。表情も硬ければ、足取りまで静かで、気配がほとんど感じられない。
俺たち3人、彼女を先導するようにダンジョンへ向かっていたが……。
(……いや、なんだこの気まずさは)
まるで後ろから音もなく首を狙われてるような、妙な緊張感がある。
別に悪いことはしていないはずなのに、こうも無言で後ろに立たれると、なんかソワソワして仕方がない。
ちらりと横を見ると、ブタオもコハルも同じように落ち着かない様子だった。
「な、なぁ……チアキちゃんってさ、いつもあんな感じなのか……?」
「……さあ。怖いっスね……」
「たぶん……あれが通常運転なんじゃね?」
誰が言うでもなく、声はどこか小さくなっていた。
そんなときだった。
ピコン。
俺のスマホが鳴った。通知は……チアキからのチャットだった。
開いてみると、そこには数百文字にわたる丁寧な長文メッセージが。
《これが青梅ダンジョンなんですね! 自然に囲まれていてとても雰囲気がよく、また入口の造りも都心部とは異なる印象を受けております! 私自身、これまでは渋谷のダンジョンしか経験がなく、このような地方型ダンジョンに足を踏み入れるのは初めてであり、大変感動しております! これからどのような体験ができるのか、今から胸が高鳴っております! 何卒よろしくお願いいたします!》
思わず、スマホを凝視した。
「……感動してるらしいぞ」
「え、マジっスか?」
「むっちゃ喋ってる……チャットで」
こっそりブタオとコハルにも見せると、2人とも目を丸くしていた。
「めっちゃ饒舌じゃねぇか」
「チャットモードは別人格っスかね……?」
振り返ると、チアキは相変わらず無表情で、ただ黙ってついてくる。
この温度差がすごい。
(楽しんでもらってるようで……何よりです)
まだ距離はあるけれど、少しだけ彼女のことがわかったような気がした。
俺たちはいつもどおり、青梅ダンジョンの通路を抜け、大部屋に足を踏み入れた。
ゴブリンたちのうごめく音、かすかな土の匂い、そして空気中に漂う微かな魔力の気配──
日常となりつつあるこの景色に、今日も変わりはなかった。
だが──
「……すごい」
小さな声が後ろから聞こえた。
振り向くと、チアキがわずかに目を見開いていた。無表情な彼女にしては珍しい反応だった。
「え? しゃべった?」
俺が思わず問い返すと、チアキはふいっと視線を逸らした。
……が、すぐに俺のスマホがピコンと鳴った。
通知を開くと、またもや彼女からのチャットが届いていた。
《これが皆様の秘密というやつなんですね! 第一印象としては、その規模と管理体制に驚いております。とても恐ろしいもののように感じましたが、皆様の様子を見る限り、非常に安定して運用されているのだと実感しました! こうして参加させていただけること、改めて感謝いたします!》
「……ギャップがすごすぎる」
ブタオがぽつりと呟いた。俺も完全に同意だ。
「さっきの『すごい』って一言だけが、チャットだとこの分量になるんスね……」
「音声節約型AIか何かかな……」
コハルも若干引きつった笑みを浮かべていた。
でもまあ、本人が満足してるならそれでいい。たぶんこれが彼女なりのコミュニケーションなんだろう。
「ところで……チアキちゃん。空間魔法って、具体的にどんなことができるの?」
俺がそう尋ねると、チアキはいつもどおり無言のまま頷き──再びスマホを操作し始めた。
ピコン。
すぐに長文チャットが届く。
《空間魔法について、簡単にご説明いたします!》
以下、チャットの要約──
•異空間への無機物の保管が可能。レベルによって保管可能な容量が増加する
•空間の拡張ができる。これは部屋や物理的な空間自体を広げる能力で、こちらもレベル依存
•ゲートの生成が可能。行ったことのある階層に限り、空間をつなぐゲートを設置できる。設置時間はレベル依存
•上位探索者はこのゲートを利用して、ダンジョンの深層に素早くアクセスしている
•このゲート設置だけで、高額な契約料が発生する
•ただし、ゲート使用中に護衛が不十分で、空間魔法保持者が魔物に襲われて死亡する事故もある
•よって、安全にレベルを上げられる手段を探していた
「……なるほどな」
俺たちはそれぞれにスマホを覗き込みながら、感心の息を漏らす。
「……空間拡張って、今ここで試せたりするの?」
「え、どうなるんだろう。部屋がビヨーンってなるのかね?」
「見たいっスねそれ!」
コハルがアホみたいに手を広げながら言うのを横目に、俺はもう一度チアキに向き直った。
「よければ、ちょっとやってみてもらっても……いい?」
一拍遅れて、チアキがコクリと頷いた。
無言のまま、彼女は大部屋の中央に一歩進み、そっと片手を掲げた。
──次の瞬間、部屋の空気がわずかに波打ったような感覚があった。
「……え?」
俺たちは無意識に壁際の檻に視線を向ける。
ほんのわずか──1cm。いや、もしかすると数ミリ程度かもしれない。
だが、確かに檻と壁のあいだに今までなかった隙間ができていた。
「……いま、空間が……拡張された?」
「まじっスか!?」
「これ、部屋の全体が広がったってこと……? レベル1でこれか」
──やばい。
俺とブタオは自然と顔を見合わせた。
「……ブタオ」
「……ああ、わかってる」
言葉を交わさずとも、互いの意図は通じていた。
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現在のゴブリン牧場の状況(623匹)
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・檻A(ゴブタロウ + メス356匹)
ゴブタロウ
メス137匹
ハーフメス111匹
ホブメス28匹
メス赤ちゃん24匹
ハーフメス赤ちゃん41匹
ホブメス赤ちゃん15匹
・檻B(262匹)
オス112匹
ハーフオス131匹
ホブオス19匹
・檻C(92匹)
魔石回収係10匹
ハーフオス62匹
ホブオス20匹
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